04:嘘で叶える約束

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 学校の桜の木の下には、死体が埋まってるって、そういう話。


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 よう、幽霊です。

 男だよ。残念だったな。

 何か期待したか? ともあれおはよう御座います。今日も朝から暑いスね。春休みか。まあいい。

 桜の木の下は日陰になってるから、運動系の部活の女の子たちはやってくるといいよ。

 アー短パン! 短パン! いいですね! 意外と隙間があります。

 幽霊って、気付かれないから見放題って感じで、いいなあ! 自由だ!


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 まあこの学校の学生みたいなことやってんだけどね、俺。

 気付いたら、深夜の病院にいて、ベッドに俺が寝ていて、外に出られて、に行こうかと思っていたら、ここの桜が咲いているのが見えたんだ。

 だからやって来て、もう三年か。

 何となく、この姿での生活もれて、制服を〝作る〟ことも、授業を受けることも出来るようにはなってる。

 というか、この状態になったときはアレだ。スモックって言うんですか。裸エプロンを全身でかぶってるようなアレ。自分で何言ってるかわからないけど、尻とかスースーしてかなり犯罪的だったおぼえがある。悩殺。そんな感じ。


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 だけど一年もすると服装の変え方も何となく解って、マッパでもバレないってことに気付き始めた。

 何しろ、誰もこちらのことが見えないのだ。

 本当かどうか試すのに、マッパで女子剣道部の試合現場に入ってみたら、股間を突きで貫通されたが、アレは見えていないのだと信じてる。というか見えててアレぶっ込んで来るのは怖えよ! 少し躊躇ためらえよ!


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 とはいえ、たまにはちょっと見えるというか、感じられる連中もいるらしい。

 たびたび、自分が〝いる〟かどうか、何となく自覚持てなくなって、木の下でマッパになって、


「アー! 開放感──!」


 とか叫ぶと、ホント、たまにこっちに振り返るのがいる。

 女の子だとうれしい。男だと、まあ、何だ、気にすんなよ。

 でも、それでも、こっちが見えている訳ではなく、声がちょっと聞こえた気がするとか、そういうことらしい。

 また、近寄ると、人によっては冷気を感じるようでもある。

 なので、正門通りをこっちに向かってやってくるイチャつきどもには、後ろから不審者ムーブで近づいていって一発クールダウンさせてやるのだが、


「正門通りで妙な冷気を感じた場合、それは貴方あなたたちく行くという祝福です」


 とか、変なジンクスが学祭の時に発表されてたんですけどォ。それ俺でーす! 俺で──す! 上手く行けとか思ってませんン──ゥ! 滅びればいいとか思ってます──ゥ!


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 でも何だよ俺、幽霊ちゃんとやってるっぽいじゃん……。


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 あ、一応、テレビにも出ました。

 何か、地方の夏の納涼とか何とかで。桜の木の下に幽霊がいるとか。

 勝手に取材したらしく、後で局から謝罪あったとか何とか。

 でも俺、ずっと全裸だったけど、映ってなかったようでな……。


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 で、三年もやってると、勉強も解ってくる。そりゃそうだ。

 別にここに縛られてる訳じゃないけど、知覚されないので、友人という存在を持てない。

 人付き合いというのは、多分、すごく時間を消費するものなのだろう。

 それが無い上で学校に居続けていると、いろいろと学ぶしかなくなる。

 授業を受けて、他の連中がやっている部活を眺め、また桜の木の下で一晩を過ごす。


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 記憶が無えんだ。

 というか多分、閉じてる。

 本当はあるんだろうけど、思い返したくないというか、それをしちゃいけないとか、そんな鍵が掛かっている。

 だから、いろいろな知識はあるんだけど、自分のことや、他人のことはよく解らん。

 学校前の通りとか、病院までの道とか、明らかに途中のコンビニに寄った経験はあるようだけど、自分の家とか、友人周りは憶えていない。


「俺、友達がいなかった系の人では……」


 考えてみたが、今、コンタクトを取る方法がないから解らない。

 じゃあまあどうでもいいか、っていうのが現状の感じだ。


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 よく考えたらコレも独り言か……。

 いや、春になって、さっき始業式に付き合ってきたから、自己紹介気分なんだけどな。


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 そしてこんなのを三年やってると、やはりそれなりにうわさは広まる。

 桜の木の下の幽霊と、そういう話だ。

 特に、この桜が咲き出した春、新入生に、在学生がこっちを指差しながらそういう話をしていて、


「ここね? 幽霊が出るって、そういう噂なんだ」


 ああ、いるいる。いるよー。お前が指差している位置に全裸の座標を移動……!

 いいね幽霊。誰も幸せにならないけど、誰も不幸せにならない気がする。

刊行シリーズ

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