第一章 首輪 ⑨

「この決闘で俺が勝てば、シャルの首輪を外してください。……首輪の鍵は、どうせ兄上が握ってるんでしょう?」


 あの首輪は鍵がなければ外すことは出来ない。残念ながらマスターキーも存在せず、親父の命令を受けたとしてもレオにぃは「知らない」の一点張りで押し通すつもりだろう。


「まさか嫌とは言いませんよね? 疚しいことでもなければ、ですが」


 首輪による拘束が罪人の証であるならば、裏を返せば首輪を外せば無実の証明になるということ。

 つまりこの決闘に勝てば、レオにぃは公式に俺たちの無実を認めるということになる。


「……いいだろう。、勝てばあの首輪を外してやる。お前が勝つことなど、万に一つもあり得んだろうがな」


 乗ってきた。当然か。「疚しいことが無ければ受ける」。それは最初に向こうが持ち出した理屈だ。


「決闘は二週間後に行う。それまでせいぜい、謝罪の準備でもしていることだな」


 それだけを言い残して、兄上は堂々とした足取りで訓練場から去っていった。

 その後、俺たちは訓練場から早々に退散して、王宮にある自室へと移動していた。


「……悪い、シャル。お前を巻き込んじまった」


 今はとにかく、しくじったという気持ちが強い。


「気にしないでください。あの場は決闘を受けることしか出来なかったと思います」

「むしろ、あそこからシャルロット様の首輪の鍵と無実を摑み取る機会チャンスかすっただけ凄いですよー。アル様、抜け目ないですねー」

「……とはいえ、状況が最悪なことには変わりはない」


 決闘の流れは完全に予想外だった。最近のレオにぃは、色々と予想の斜め上をカッ飛んでくるな。

 シャルロットを巻き込んでしまった以上、負けは許されない。打てる手は打っておかないと。


「……こうなったら仕方がない。行くか」

「行くって……どこへ?」


 首を傾げるシャルとマキナ。俺は微かな緊張感を抱きながら、呟いた。


「ご両親への挨拶だよ」

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