第二章 彫金師 ⑪
「なっ……? えっ……?」
「何が起きた……!?」
「アイツがなんで……俺たちの攻撃を喰らってるんだよぉ!?」
五人。いや、一人減って四人となった盗賊たちが動揺している。
「おい、お前。そこじゃない」
「あ……?」
「もう一歩、前だ」
次に発動させたのは『
「ぼごがっ!!?」
足元から噴き出した爆炎に包み込まれ、そのまま
「なん……!? あいつの足元が爆発しやがったぞ!」
「今のは『
「いつの間にしかけやがった!? 一体、いつ……!?」
そんなもの決まっている。
「俺が、ただ逃げてるだけだと思ったか?」
そんなわけがない。わざわざ逃げに徹していたのは、周囲に『
相手は俺を追い詰めていると思い込んでいたので、罠を仕掛けること自体は簡単すぎるほど簡単に上手くいった。設置さえ完了すれば、あとはその場所に相手を誘導してやればいい。
苦し紛れに撃ったように見えた『
二人目こと哀れな盗賊くんその二もそうだ。奴の一歩前の場所に『
「まさか……俺らの足場にも……?」
「さあな。気になるなら確かめてみろよ」
淡々とした問いかけ。されど残り三人となった盗賊たちは、動揺するだけで何も口を開かない。
「く、くそっ! だったらここから動かずに倒してやれば……!」
どうやら中距離系の魔法で一歩も動かずして俺を倒そうとしたのだろうが……遅いな。
「『
土塊の鎖を生み出し、そのまま一気に
「拘束用の魔法を……攻撃、に……?」
「魔法も使い方……ってね。まぁ聞こえてないか」
とりあえず倒した盗賊を『
すると、後から追いかけてきたであろうマキナとシャルの二人が茂みから姿を現した。
「ありゃま。何事かと思いきや、指名手配中の盗賊さんたちじゃないですか」
「確かに……どの方も見覚えがあります。これを全部、アルくんが?」
「成り行きでな。……ちょうどいい。もう意識はないし、全員『
「あ、ちょっとアル様!」
「アルくん、どこに行くんですか!」
後始末を二人に任せ、俺はエリーヌの救援に向かう。
駆け付けた先で広がっていた光景は、
「…………っ……!」
手持ちの
☆
大手冒険者パーティ『暁の盾』。
確実性を重視した方針で活動しているこのパーティは、『命あっての物種』というのがリーダーの口癖だったらしい。とにかく『生存して帰還すること』を目的としていたそのパーティは不測の事態への対応力も高く、他のパーティがダンジョン内でトラブルに陥った際の救助隊としての実績も多く残されている。ギルド側からも実力を高く評価されており、一時期は新人冒険者たちの育成も担っていた。パーティメンバーはそれぞれが高価かつ強力な装備を揃えており、防御面────とりわけ生存力に関しては当時のギルドでは間違いなく他の追随を許さぬほどだったという。
────だがある時、『暁の盾』は壊滅した。
王国騎士団の調査報告書によると、当時パーティが訓練場として使用していた森で発見されたのは、十数人の冒険者の惨殺死体。それらは後の調査によってリーダーを除いた『暁の盾』のメンバーと、彼らが育成していた新人冒険者たちだったことが判明する。
死体の周囲には砕かれた
この状況で真っ先に疑われたのが『暁の盾』リーダーだが、彼には多くの証言によるアリバイがあった。何より動機もない。更にはパーティの拠点からも金目の物が根こそぎ奪われていたことと、死体の周囲に散らばっていた
調査の結果、真犯人が判明した。
当時から既に世間を騒がせていた盗賊────『
生存力に優れたこのパーティを壊滅させたのは、たった一人の男だった。
彼が持つのは、超レア
かつて呪術によって生み出されたとされる呪いの
デオフィルは右手にそれを装備しているのだろう。彼の右手だけ、
ようはデオフィルが『
「随分と派手にやられたみたいだな」
視線だけはデオフィルに向けたまま、膝をついているエリーヌに言葉を投げかける。
「だから荷が重いって言ったんだ。あいつは王国騎士団の追跡を躱し続けている手練れの盗賊だ。簡単な相手じゃない。……それぐらい、あんたも分かってそうなもんだけどな」
「……やかましい。『
確かに指輪を作る『彫金師』からすれば『
だが、
「本当にそれだけか?」
エリーヌとてバカじゃない。それぐらいのことは、この短い間でも分かる。
彼女は魔法石の力を引き出すことのできる優秀な『彫金師』であり、それを使いこなすことが出来る実力者でもある。
そんな彼女が、相手と自分の力量差が分からないわけがない。
こうなることは分かっていた。分かっていても、デオフィルに挑むことを抑えられなかった。
「…………」
問いかけるも、エリーヌは語らない。
その胸に何を抱えているのか。彼女は何を思っているのか。
今の俺には分かりはしない。だからこそ────。
「話はとりあえず、あいつを倒した後で聞かせてもらう」
「……あんたにも荷が重いんじゃないのか?」
「さて、どうかな」
ひとまず俺はエリーヌを庇うように、彼女に代わってデオフィルと相対する。
「悪いな。選手交代だ」
☆
デオフィルの前に立ったのは、一人の少年だった。
黒髪黒眼。この国では忌み嫌われる存在。正真正銘の呪い子。
(だからなんだってんだ)
デオフィルとて初めから、今のような盗賊だったわけではない。
平凡な村の生まれで、人並みに夢を見て、平穏とは真逆の冒険者稼業に足を踏み入れた。
「このパーティを、Aランクにする! それが俺の夢だ!」
小さな依頼をコツコツとこなし、ランクを上げ、気の合った仲間たちとパーティを組んで、確実性を重視した活動方針で着実に実績を積み重ねていった。
歯車が歪み始めたのは、冒険者になって二年目の頃。
パーティの仲間たちが実力や実績を伸ばしていく中、自分だけが伸び悩んでいた時期があった。
というのも、パーティの仲間たちは皆が高レアリティの



