第二章 彫金師 ⑭
アルフレッドは既に『
「降伏しろ、アルフレッド。そして俺と共に来い」
膝をつくアルフレッドに対し、漆黒のオーラを突き付ける。
「……スカウトか? 随分とお優しいな」
「お前は同類だ。俺はお前の気持ちが分かる。お前もまた、俺の気持ちが分かるはずだ……そうとも。俺たちは好きでこうなったわけじゃない。だが周りは理不尽に俺たちから全てを奪っていった」
アルフレッドの頰を
「俺は今日、お前という理解者と出会った。これは運命だ。俺たちから全てを奪っていきながら、のうのうと生きてる連中に対して
アルフレッドの
そして────彼の指から、
「さあ、俺の手を取れ。利口なお前なら……これから何をすべきか、分かるだろう?」
もはやアルフレッドは完全に無力だ。
彼にはこの手を取る選択肢しか残されてはいない。そうすることしか出来はしない。
「……
されど。アルフレッドの口から出てきたのは、同意でも肯定でもなく。
「発動した後の制御は術者本人が行う必要がある。……言い換えれば、発動した後の魔法の制御に、
「……何を言っている?」
「故に。
「何を言っている……何が言いたい!?」
「ようするに────」
アルフレッドは、不敵な笑みを浮かべる。それはまさに勝利を確信したような。
「足元がお留守だぜ」
気づいた瞬間、デオフィルの視界が明滅する。
「がっ……!?」
一瞬の出来事。
「なに、が……起き……!?」
「さっきどさくさに紛れて設置しといた、ただの『
暗黒の爪で粉砕した『
(ただの弱小王子を演じながら……周囲にこれほどの力を……隠していた……!? なぜ……!?)
だが、それよりも衝撃だったのは。
「『
アルフレッドが使っていた『
レア度は『
「あ……あがっ……ぐうっ……!?」
消えていく。意識が。暗闇に落ちていく。繫ぎとめられない。
「……あんたの言うことも、分からないわけじゃない」
アルフレッドの声が、徐々に遠のいていく。
「俺だって諦めてた。諦めてばかりだった。自分に与えられた役割が、一つしかないと思ってた」
「……けど、今は違う。裏切られても諦めずに進もうとしてるやつがいる。他の役割を示してくれたやつがいる。だから俺も……諦めずに頑張ってみることにしたんだ」
薄れゆく意識の中。
最後に見たアルフレッドの瞳には、やはり光が灯っていた。
「俺とお前は、同じじゃない」
☆
倒した。倒れた。倒れたデオフィルの姿を見て、徐々にそれは確信に変わっていく。
「あー……疲れた」
急に向こうが盛り上がったりして勢いが増した時は驚いたけど、何とかなったみたいだな。
デオフィルが意識を失っていることを確認してから、ひとまず彼の指に装備されている『
「『
回収した『
ついでに服を調べて懐に忍ばせたり仕込んだりしている武器も取っ払う。
「……ホントに勝っちまいやがった」
思わずといった様子で言葉を零したのはエリーヌだ。
デオフィルにはこっぴどくやられたせいか、抜けたような顔をしている。
「もう大丈夫だ。泣いて喜んで感謝したっていいぜ」
「……言うじゃないか。まあ、何にしても助かったよ。クソガキ王子。いや……」
エリーヌはどこか彼方にある過去を懐かしむような、柔らかい表情を見せた。
「……アルフレッド」
多少は認めてくれたのだろうか。だったら俺も、少しは礼儀というものを返してやらないといけないのかもしれない。
「ま、そっちも大怪我が無くて何よりだ、クソババア。いや……エリーヌ」
「おいコラクソガキ。今ババアって言う意味はなかっただろ」
「うるせぇ。テメェも呼んでるからお互い様だろうが」
これだけ言い合えるということは、エリーヌの怪我は本当に大したことがないらしい。
「アルくん!」
「アル様!」
戦闘が完全に終息したことを見たシャルとマキナが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? どこか怪我は……!」
「特にないよ。あってもかすり傷程度だし」
返事をすると、シャルはほっと息をついて安堵した。
隣ではマキナが呆れ気味だ。
「まったく……ひやひやしましたよ。よりにもよってA級賞金首とタイマンはるんですから」
マキナが焦るとは珍しい。いつも心配をかけてるけど、今回はちょっと無茶が過ぎたみたいだ。
「悪かったな。心配かけて」
「……ま、別にいいですけどね。心配させられるのはいつものことですし? マキナちゃんは健気系メイドさんなので、慣れっこなのですよ」
すぐにいつもの調子に戻るマキナ。二人に心配をかけてしまったことに多少申し訳ないと思いつつ、俺の関心はデオフィルたちが入り込もうとしていた洞窟の入口へと向けられていた。
「気になるのかい」
「そりゃあな」
「はっ……まあいい。助けてもらったんだ。見るぐらいの権利はあるだろうさ」
エリーヌは立ち上がると「ついてきな」とだけ言い、洞窟の中へと入っていった。
俺たちもまたその後ろをついていく。洞窟の中を進んでいくと、ぽっかりと空いたような開けた空間に出た。ドーム状になっているその空間は、壁や天井から結晶が
「綺麗……」
隣では景色に見惚れているようなシャルが、無意識の内に感想を呟く。
確かにこの景色は……綺麗だ。見ていると不思議と心が落ち着いてくる。
「この結晶は……
「あー。あの魔力で発光するやつですか。魔道具にもよく使われてますよねー」
「ここいらは純度の高い天然の篝石が採れるのさ。暇な時は、ここでよく飲むんだよ」
エリーヌはそのまま、空間の中心まで歩いていく。その背中についていくと、この空間の中央にあるものが建てられていることに気づく。



