一節 修羅異界

五.鵲のダカイ ③

「あんた達も殺してもいいけど、どうする?」

「……降伏する。イコ。お前も武器を捨てろ」

「しかし先輩、新公国に捕らわれたらどんな扱いを受けるか」

「お前の腕で勝てる剣士じゃない! こいつは──」


 いさめる言葉の途中で、としかさの兵の首が飛んだ。


「あ、悪い。違うんだよな」

「ひ、ひ、ひい……っ」

「命乞いで時間を稼いで、中に残ってる一人を逃がそうとしたよな? 分かるよ、そういうのは」


 ダカイは、懐から麻紙の束を取り出してみせた。


「あと、ぶっちゃけその一人だって、無理に生かしておく必要もない。記録はこの紙に残してるんだろ」


 識字率の低いこの世界にあって、訓練された工作員は独自の文字による暗号記録を残すことがある。ダカイの持つ紙束は、殺害した兵達から抜き取った記録だ。

 刹那の攻撃で全員を殺害すると同時に、そうした絶技が可能な男だった。


「て、抵抗はしない! だから、剣士の情けだ! き、斬るのは、やめ……」

「いや、無理」


 すれ違いざまに、若い兵の体は五つに分かれた。


「俺……剣士じゃなくて、盗賊だしさ」


 彼らのような工作部隊は何人が死んだとしても、本国からは存在を認知されることすらない。故にダカイの繰り広げたこの虐殺も、それを受けてのを観察するための一手に過ぎない。


「さあて。どう出る。こう


 残虐と殺戮にちゅうちょを持たず、戦士の流儀に従うこともない。魔剣も、自らの暴力をも、ただの道具であるかのように行使できる。


彼方かなた〟の世界では許容できぬ逸脱の存在が、こちらの世界へと流れてくる。

 かささぎのダカイは〝客人まろうど〟である。



 それは銃弾の速度すら意識の中へと止める、逸脱の視力で世界を知覚している。

 それは策略を白日の下にさらし、突破不能の迷宮を単独で攻略する、洞察の才覚を誇る。

 それは対処不能の刹那に略奪を遂げる、絶対精度にして神速の指先を持つ。

 世界の境界すら乗り越え奪う、何よりも奔放なる無法の徒である。


 盗賊バンディット人間ミニア


 かささぎのダカイ。

刊行シリーズ

異修羅X 殉教徒孤行の書影
異修羅IX 凶夭増殖巣の書影
異修羅VIII 乱群外道剣の書影
異修羅VII 決凍終極点の書影
異修羅VI 栄光簒奪者の書影
異修羅V 潜在異形種の書影
異修羅IV 光陰英雄刑の書影
異修羅III 絶息無声禍の書影
異修羅II 殺界微塵嵐の書影
異修羅I 新魔王戦争の書影