一節 修羅異界
七.中央拘置所
監獄へと続く通路を歩む男は、帽子を斜めに被っていた。
若き官僚は、背後から近づいてきた兵の足音に振り返った。
「ヒドウ様。メイジ市の本部より連絡が入りました」
「なんだ。新公国の案件は、もう俺の管轄になってるのか」
面倒そうに顔を歪めて、片耳を搔く。
「ええ。今朝方、第三卿からの通達がありまして」
「ジェルキか。相変わらず、死ぬほど仕事の早い野郎だな。……で、なんだ」
「諜報部隊八名の定期連絡が同時に途絶えました。昨日、一日足らずの間にです」
「拠点を囲まれて全滅したな。逃げのびた奴は一人もいないか」
「はい。八名のうち、誰一人として。第十七卿配下の精鋭です。余程の大部隊でしょうか」
「どうだかな。お前、何人いればできると思う?」
ヒドウは、ポケットに手を入れたまま歩く。地下通路には、彼と兵士の足音だけが反響を続けていた。
「壊滅に追い込むだけであれば、正規兵の四名一斑がいれば。ただ、第十七卿の工作部隊ならば、仮に他全員の犠牲を織り込んでも必ず一人は逃がすでしょう。
「第十七卿の隊だからな」
「……エレアちゃんに全滅の話はいってるのか?」
「エレアちゃん?」
「第十七卿だよ。
「……ええ。何でもラヂオの通話も困難な辺境であるそうで、まずは責任者のヒドウ卿に話をと」
「責任者っておい、正式な辞令はまだもらってないぞ」
「ったく、どいつもこいつも、好き勝手動きやがって……」
「無論、工作部隊の指揮権限はヒドウ様に移譲されるかと思います。新たな人員を潜入させますか」
「繰り返したところで、無駄死にだな。……別の手だ」
ヒドウは瞼を閉じた。幾度も刻み込んだ、これから自らが赴く戦場の地理を思い浮かべている。
「……作戦本部の東側に、渓流に削られた
「窪地……は、確かにありますが。本部との距離は相当に離れているはずです。その位置では防衛にも用立ちませんが」
「それでいい。攻めるための陣地だ。入り組んだ地形なら
「はい──ところで」
二人は足を止めていた。目的とする監房の前に辿り着いたためだ。
廊下は常に明るく照らされているが、ひどく静かだ。
「〝
「ああ。ちょっとどいてろ」
ヒドウは鉄扉を叩いた。拳で寄りかかるような姿勢で、中の存在へと呼びかける。
「起きてるな。ニヒロ」
囚人が、寝台から身を起こした様が見えた。
長い前髪に隠された片目が、扉の方向を見て
「……大丈夫。今、起きたよ」
その脊髄から伸びる糸のような触手が、複雑に蠢いている。人間ではない。
「新公国の諜報部隊が八名、一日で全滅したそうだ。お前なら何人でやれる。
「一人」
少女は当然のように答えた後で、くすりと笑った。
「いや。一人と一体かな?」
この施設に収監される者は、主に重要性の高い戦争犯罪者であり、そして通常の兵力で制圧可能な──危険性が低い者に限られている。
それでも彼女は、過去の戦争において



