プロローグ 稼ぐ冒険者には、わずらわしいことが多い ②
「俺たち、つき合っているわけじゃないから」
友人ではあるが、恋人同士ではないからな。
「あら、私は、今すぐにでもおつき合いを始めて構わないと思っておりますのに」
「はははっ、イザベラさんは冗談が上手だなぁ」
相手は本物の貴族様なんだ。
代々
「ひとたび男女が愛し合えば、身分差など関係ありませんのに……」
「
そこはあえて強く突っ込んでおいた。
身分違いの恋なんて、自由恋愛が叫ばれる現代社会でも滅多にないことなのだから。
「理想と現実の間に大きな壁があるのは事実ですし、決して打算がないとは言いませんが、『
欧米だと、ファーストネームは呼び捨てだからいいのかな?
「イザベラ」
「はあ、とてもいい響きですわ。このままなし崩し的に、リョウジさんとおつき合いを」
「ええっ!」
「逃がしませんわ!」
「しまった!」
ここはイザベラの所有する車の中。
運転手はイギリス人の渋い初老の男性で、長年仕えているご主人様の全面的な味方だろうから、俺を助けてくれそうになかった。
普通こういうのって、男性貴族にか弱い女性が襲われるはずなのに、これじゃあ逆じゃないか。
「(まさか、車を壊して逃げるわけにも……イザベラに
「リョウジさん、このまま熱い口づけを! むぅーー」
なんて残念なイギリス貴族なんだと思いながら、タコの口になったイザベラのキス攻撃をかわしていると、突然車が停止して後部座席の窓ガラスがノックされた。
「はいはい! なんの用事でしょうか?」
「車の窓をノック? どなたですか?」
イザベラのキス攻撃をかわしながら窓を開けると、そこには
彼女も『
冒険者として活動する時には髪型をおさげにするが、『それもいい!』というファンがついているほど。
彼女の実家も、
「イザベラ、抜け駆けかい? さすがは
「ホンファさん、こういうことに抜け駆けもなにもないと思いますけど。もしかすると、私に勝つのが難しいから、そのような負け惜しみを? 確かにその
「ボクの胸が
「ええまあ……」
確かに、ホンファさんの胸は標準……Cカップほどであった。
イザベラは推定Fカップくらいか……さすがは大きい!
「だいたいホンファさんは中国の方なのに、語尾に『アル』がつかなくて、リョウジさんを失望させているではありませんか」
「イザベラ、それはどこの漫画の話かな? だいたいキミの読む日本の漫画は全部古いんだよ! 今の世に、語尾に『アル』をつける中国人キャラなんていないから! 言うまでもなく、実在の中国人にだっていないからね」
「そうなのですか?」
「イザベラって、知り合いに中国人が多いくせに!」
「そう言われてみると……商談の時は日本語で会話しないので、気がつきませんでしたわ」
「リョウジ君、教えてあげなよ」
「イザベラ。俺はこれまでの人生で、語尾にアルをつけて日本語を話す中国人に会ったことないけど」
「そうだったのですね! ですが、リョウジさんは渡しません!」
「それは関係あるのか?」
「ふんだ! こうすれば!」
ホンファさんは開いた窓から素早く手を突っ込んで後部座席のドアロックを外し、すぐさま車に乗り込んでしまった。
これで俺は、美少女二人に挟まれる格好となってしまう。
「ボクも、校門でおかしなのに
「ホンファさんも、私のように車と運転手を用意すればいいのです」
「うちの家風に合わないんだよねぇ。リョウジ君も同じみたいだから、ボクたちが結婚したらきっと
「あなたの実家も、同じようなものではないですか」
「うちは自由な家風だから。ボクは跡継ぎじゃないしね」
「我が家だって、ロンドンの大地主であるクリニッジ本家の一門でしかありませんので。リョウジさんと結婚したら、東京に本拠を移しても問題ありませんもの」
「あのぅ……」
勝手に、俺を婿にする話をされても困るんですけど……。
「
突然別の女性の声がしたと思ったら、車内に三人目の美少女が出現した。
あきらかに魔法を使っての移動だ。
「……
「ああっ、体のバランスが……」
「おっと……(
つい彼女の体を受け止めてしまったが、とても柔らかくて……これは役得だな。
「
戦後、日本の華族制度はなくなったのに、イザベラは
古きを重んじるイギリス人らしいというか……。
「なにが体のバランスが崩れただよ。そんなタマじゃないくせに。ボクとリョウジ君の間に入り込むな!」
「ホンファさん、車内で暴れると危険ですよ」
「この性悪お
「まあまあ、
いくら特別仕様の高級外車とはいえ、後部座席に四人となると狭いな。
突然魔法で後部座席に現れたパーフェクト
ご多分に漏れず、実家は大きな会社を経営しているとかで、
よく手入れされた黒髪のロングヘアに、イザベラには少し負けるが推定Dカップの胸。
冒険者高校で、男子生徒たちに大人気の同級生だ。
イザベラとホンファさんも同じくらい人気だけど。
「同じクラスなのに先週以来ですが、
ダンジョンに潜る時には公休が認められる冒険者高校において、毎日学校に通うというのは冒険者としては実力が低いことを意味する。
さらにレベルアップに伴う知力上昇のおかげで、あまり勉強しなくても東大に合格できてしまう知力を持つ冒険者は多い。
同じクラスでもなかなか顔を合わせないなんて、よくある話なのだ。
「イザベラさんは、やはり学級委員をお引き受けになるのですか?」
「ええ、三年生の方々が誰も受けませんので。もっとも、冒険者高校の学級委員に仕事なんてありませんけど……」
「そのクラスの顔、程度だよね。ボクが頼まれたら、本当になにもしないと思うし」
俺はむしろ、留学生なのに学級委員を引き受けるイザベラと、そのつもりがあるホンファさんに驚いた。



