プロローグ 稼ぐ冒険者には、わずらわしいことが多い ③

「三年の方々は、特別クラスでも下の成績です。引き受けにくかったのでは?」


 実は優れた冒険者が集う特別クラスには、すべての学年の生徒が所属している。

 純粋に冒険者としての実力のみで選ばれるからだ。

 ただ、今年の特別クラスには三年生が非常に少なく、その実力も低い。

 俺たち二年生が豊作と言われており、一年生はこれから実力を上げて特別クラスにあがってくるはず。

 だから今の時点では、特別クラスでは二年生が一番目立っていた。


「今年の一年生もなかなか粒ぞろいと聞いています」


 あやの持つ、おさんならではの情報か?

 冒険者高校に入るには、運よく発露した冒険者としての才能と、高い競争率の入試を突破する必要があったが、入学した一年生が短期間で爆発的に強くなるケースは少なくなかった。

 実際この三人は、入学してから一ヵ月もたずに特別クラスに移ることになったのだから。

 俺は……去年の二学期になるのと同時に特別クラスに移ってきた。

 色々と事情があって、その前からこの三人と縁があったけど。


「お嬢様、もうすぐ校門です」

「裏口の駐車場に回ってくださいな」

かしこまりました」


 正面の校門には、様々な多くの人たちが待ち構えていた。

 同じ冒険者高校の同級生たちもいるし、全然関係ない一般人も沢山いる。

 後者は校内に入れないので、こうやって正面の校門に毎朝集合して、特別クラスの人たちが登校するのを待つわけだ。

 その目的は、同じ冒険者高校の生徒たちは、どうにかして特別クラスの冒険者とパーティを組みたい。

 一般人たちは、特別クラスの優秀な冒険者たちがダンジョンで獲得する魔石、鉱石、魔物の素材、採集物、ドロップアイテムなどを手に入れたい企業関係者が多かった。

 その他にも、稼ぐ冒険者にどうにか渡りをつけて利益を得たい、怪しげな連中。

 そして、稼ぐ冒険者になった親族、友人、知人にたかりたい、残念な人たちもいる。

 まあ、この手の『金持ちには友人と親戚が増える』的な話は、どんな業界でもある話なんだけど。

 この世界にダンジョンが登場してから二年近く。

 そのせいなのか、世界中の鉱山から資源が消滅し、油田、炭田、ガス田、ウラン鉱も枯れ果てた。

 資源が欲しければ、ダンジョンからそれをってくる冒険者たちから手に入れるしかないのだ。

 当然各国政府も冒険者から買い取っているのだけど、国によっては比較的自由に冒険者自身が売却できる。

 世界中で、金属資源やエネルギー源である魔石が不足しているため、自由販売枠がある国の冒険者たちに、世界中の国や企業が押しかけるわけだ。

 もっとも、この手の交渉はとても難しい。

 交渉自体が非常に手間だったり、そういうことに慣れていない冒険者がだまされる事案も多く、厄介事を嫌って国が経営する『買取所』にすべて売却する冒険者も多かった。

 特に、『アイテムボックス』を持たない冒険者は。

 このスキルがあれば大量の在庫が持てるので、利にさとい冒険者は買取相場が安い品を在庫として持ち、相場が上がったら売り飛ばす、なんてこともできた。

 ただ、『アイテムボックス』の容量は冒険者によって大きな差があるのだけど。


「またいるな……」


 そっと正門の前を見ると、そこには俺が顔も見たくない人たちがいた。

 まずは、伯父、叔父、伯母、叔母やその子供である従兄弟いとこたち。

 みんな、俺が冒険者として大金を稼いで会社を作ったため、そこで役員として雇えと押しかけているのだ。

 俺のおかげで、働かずに一生遊んで暮らせると思ったらしい。

 最初俺が断ったら、毎日自宅に押しかけてきて大変だった。

 だからそのうち、セキュリティーがしっかりした新しいマンションに引っ越さないと。

 特に俺は、中学三年生の時に両親を事故でくした。

 その時も、両親の遺産や保険金を寄こせと迫ってきて大変だったんだ。

 ただ一人で暮らしてみると、天涯孤独がこんなに気楽だと思ってなかったので、親族にとっては誤算だったな。

 親族たちは『一族の団結』みたいなことを口にするが、彼らは俺の金が欲しいのであって、口だけだと思う。

 残念な人ほど自分たちが困った時にだけ『家族のきずな』、『家族は支え合って生きるべき』的なことを殊更強調して言うと聞くので、無視だな。

 そしてもう一人。

 俺と同学年の少女で、おさなじみであった……いや元おさなじみか。

 名前を、みつはしといった。

 彼女は今、二年生のBクラスに所属している。

 冒険者高校は各学年にA~Eクラスまであり、Bクラスなので優秀な方だろう。

 一方の俺は、冒険者高校に入学したばかりの時はEクラスだった。

 それも、全生徒の中で成績がビリ。

 一年生からBクラスになった彼女からすれば、いくら同じ冒険者高校に入学できたおさなじみ同士とはいえ、Eクラスの俺との友人づき合いはご遠慮願いたいとなったわけだ。


りょう君とおさなじみだったことが知られると恥ずかしいから、もう二度と話しかけて来ないで』と言われてしまった以上、俺としては距離を置くしかなかった。


「あの方もしつこいですわね」

「自分からリョウジ君を無視しておいて、リョウジ君が特別クラスに移るってわかったら、同じパーティに入れてって言ってきた子だよね。ムシがよすぎるよ!」

りょう様は、あのような心が汚い方と関わり合いにならない方が……」

「関わり合いにはならないさ」


 の件は、俺もショックだったからなぁ。

 冒険者高校に入るまでは仲がよかっただけに、余計にだ。

 だからこそ、今さら関係を元に戻そうとはじんも思わなかった。


「リョウジさん、その悲しみを私の胸の中で!」

「ボクが、いい子いい子してあげるからね」

「親戚の方々の件もそうですけど、りょう様の心をいやして差し上げられるのは私だけです。今夜、私のマンションに……」

「それなら、私のマンションに来ていただければ。最高級の勝負下着でお待ち申し上げておりますわ」

「ボクのマンションにおいでよ。中華料理を作ってあげるから。リョウジ君はマーボー豆腐が好きだったよね? それもからいやつが。そのあとは、ボクと熱い夜を」

「私が、最高のイギリス料理を作ってお待ちしておりますから」

「イギリス料理は、日本人であるりょう様にはちょっと……」

「アヤノさん、それは大いなる偏見です! イギリスには美味おいしい料理が沢山ありますから」

りょう様のリクエストなら、どのような料理でも作って差し上げます。それができるのが、さんぜんいん家なので。そのあとは……長い夜の始まりです」

「リョウジさんとは私が!」

「ボクが!」

「教室に行かないと遅刻するから」



 俺は、逃げるように車を降りて教室へと走って行った。

 特別クラスの俺が、最初Eクラスだったのには大きな理由があったのだけど、それも含めてこれまでのことを、まずは話していこうと思う。

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