第2話 ダンジョン出現 ①
「
「
「ご両親の葬儀に来た親戚の人たち。なんか感じよくなかったわね」
「両親がつき合わなかった人たちだから。そこは社交辞令に徹したさ」
新学期。
中学三年生になった俺は、
この頃は、まだ彼女は優しかったのを今でも覚えている。
感じの悪い親戚たちは、今頃どうして俺に多額の香典を渡してしまったのか、理解に苦しんでいるはずだ。
貯金をすべてなくしただけでなく、限度額まで借金もしてしまったが、文句を言おうにもお金を借りたのは自分たちなのだ。
両親を
もし両親の遺産を奪われたとして、どうせ警察に訴えても、『親族間の問題は親族同士で解決してください』と言われるのは目に見えている。
泣き寝入りになる可能性が高かったので、強硬手段を取らせてもらった。
それにしても、
俺の祖先がどのぐらいの名門なのかは知らないけど、正しい努力をしないで没落してしまったんだろうな、という事実が簡単にわかってしまったというか……。
お金を持っていると周囲に思われると、いらぬトラブルを招くことが今回の件でわかった。
きっちりと魔王退治の報酬を
ただその報酬は金貨や宝石なので、換金の方法をあとで考えるか。
「残念だけど、今年はクラスが違っちゃったね」
「本当だ」
中学の一年、二年と、
残念だけど、放課後に近所で会えるから問題ないだろう。
そんな風に思いながら始まった中学最後の一年間だけど、まさかあのようなことが世界中で発生してしまうとは、今の時点で俺は予想だにしていなかった。
『ニュースです! 東京
中学三年生生活の二日目。
朝起きてテレビをつけると、とんでもないニュースが流れてきた。
突然世界中のあちこちに、ダンジョンが出現したというのだ。
「ダンジョンねぇ……」
俺は向こうの世界で、数百、数千もの巨大なダンジョンをクリアーしてきた。
最後は、戦況が不利になった魔王が地下千階を誇る巨大なダンジョンに籠もってしまい、俺は一年もかけてそのダンジョンをクリアーし、最深部にいた魔王を倒している。
慣れているという言い方も変だけど、この世界の他の誰よりも驚いてはいないはずだ。
「ダンジョンねぇ……どんなダンジョンなのかな?」
『現在、日本国内で確認されたダンジョンの数は百を超えました。
「もしやこれは……」
この状況に見覚えがあるというか、俺が魔王を倒した向こうの世界では、実は鉱山や油田、炭田、ガス田の類いが一つもなかった。
エネルギーが必要なら、すべてダンジョンから奪取する必要があったのだ。
特に産業や工業に使用するエネルギーは魔石頼みだったため、向こうの世界の国々は、魔石の確保に全力を傾けていた。
もしかして、これから地球もそうなるのか?
「そうだとしたら、地球はこれから大変なことになってしまう」
のん気に学校に行っている場合ではなく……サボってしまおう。
どうせ今日から大騒ぎになるだろうから、テレビとスマホしかないけど情報を集めておくか。
その前に念のため、品切れが起きる前に生活必需品を最低限
『アメリカ軍の特殊部隊、自衛隊の精鋭部隊を始めとして、世界中の軍隊がダンジョンの探索を開始しましたが、すべて失敗に終わりました。現在国会で野党が、自衛隊で戦後初の戦死者を出した
「それどころじゃないだろうに……そういえば、あんな貴族、向こうの世界にもいたな。文句だけ言うんだよなぁ」
ダンジョン出現と同時に、世界中の金属や宝石の鉱山、油田、炭田、ガス田などが枯れ果ててしまった。
完全になくなったわけではないそうだが、含有量や埋蔵量があまりに微小のため、採掘しても採算が取れないとニュースで言っていたな。
そして、ダンジョンに突入した自衛隊員たちの戦死……殉職は、国民感情を大いに刺激してしまったようだ。
化石燃料がなくなってしまったあとのエネルギー政策をどうするのか、という議論を置き去りにして、現在野党が国会内で抗議活動をしているそうだ。
「野党は、また対策会議を立ち上げるのかな? どうでもいいや」
俺は俺のやりたいことをやる。
せっかく中学三年生になったのだけど、向こうの世界での十年のせいで、学校が退屈で仕方がないんだ。
そこで……。
「『身代わり人形』! 君に任せた!」
本来なら敵との戦闘時、自分の身代わりとして攻撃を受けるアイテムだが、当然本物そっくりでなければ見破られてしまうので、日常生活でも身代わりとして使えた。
一日しか使えない消耗品なので、俺でないと用意できないけど。
「学校は身代わり人形に任せて、俺は……一番近い
早速現地へと向かうが、やはり入り口は多くの警察官たちが見張っているな。
自衛隊の中でも精鋭中の精鋭で編成された探索隊が全滅したから、一般人を入れないようにしているのだろう。
「まあ、俺には無駄だけど」
魔法で姿を消せば、もうこの世界の人間は気がつかない。
俺は誰にも気がつかれず、『
「このダンジョンの一階層目はスライムばかりか……。この各フロアーの広さ。見覚えのある内部……『魔王のダンジョン』じゃないか」
久々に装備を身につけた俺はスライムたちを蹴散らし、魔石、鉱石、『スライムの粘液』を『アイテムボックス』に収納しながら、
細かなところまで調べたが、やはりここは見覚えのあるダンジョンだった。
魔王が最深部に逃げ込んだ、最後に俺が一年かけて攻略したダンジョンそのものだったのだ。
向こうの世界のダンジョンは特殊で、そのほとんどが、一つの階層に一種類のモンスターしか生息していない。
たまに、一階層に複数のモンスターが生息するダンジョンもあったけど、かなり特殊な部類に入った。
魔王が逃げ込むだけあって、たとえこのダンジョンには一階層につき一種類のモンスターしか生息していなくても、下の階層に進めば進むほど段々と攻略が難しくなっていく。
「どうして魔王のダンジョンが日本に転移してきたのか……世界中の他のダンジョンも、同じなのかな?」
向こうの世界、もしかしたら滅んだかもな。
俺が魔王を退治中、一部からおかしな意見が上がっていたのを思い出した。
それは、ダンジョンなんて不要というものだ。



