第2話 ダンジョン出現 ②

 なぜそういう意見が出るのかというと、ダンジョンは定期的にモンスターを間引かないと、地上にモンスターがあふてくるからだ。

 そしてこの現象の厄介なところは、地上にあふるモンスターは一階層にいるスライムばかりでない点だと思う。

 各階層ごとにモンスターが定数を超えると、ダンジョンの入り口近くの地上にワープしてしまう。

 とはいえ、数年くらい放置してもモンスターがあふれることはないが、向こうの世界は地球ほど人口が多くなく、へきに向かう移動手段にも乏しい。

 長年人間が入らなかったダンジョンから地上にあふれたたモンスターたちが、俺の魔王退治を邪魔するケースも多く、余計にダンジョン不要論が噴出していた。

 向こうの世界も、ダンジョンから産出されるものがなければ文明を維持できないのだが、どこの世界にも声が大きい残念な人というのは存在するわけで……。

 俺が地球に戻る直前、ダンジョンを他の世界に転送する特殊な装置の試作品が完成したといううわさは聞いていた。

 俺は、『実験すらしない方がいい』と王様に忠告したのだけど……。

 もしかすると、大勢の意見に流されて装置の実験を認めてしまったのかもしれないな。

 向こうの世界、資源と魔石とアイテムが手に入らなくなったらどうするんだろう?

 魔王が率いていた地上のモンスターたちって、ダンジョンから湧き出たものだったからだ。

 モンスターはすべてダンジョンで生まれ、決して地上では繁殖しないんだよなぁ……。

 つまり、ダンジョンというモンスター供給源が消滅してしまったら、向こうの世界は……。

 ……今の俺にできることはないな。


「二階層目はゴブリン。これは、魔王のダンジョンで間違いないな」


 一度クリアーしたことがあるダンジョンだから、前回より時間をかけずにクリアーできるだろう。

 魔王が逃げ込んだダンジョンだったので、慎重に慎重を重ねて攻略したせいで時間がかかったという事情もあったのだけど。

 魔王は……またいるのかな?

 一度倒した相手なので『察知』は容易だから、警戒しながら進めば問題ないだろう。


「ゴブリンも、魔石、鉱石、使っていた武器や防具などが手に入るのは同じだな」


 このダンジョンのゴブリンたちは、決して小人などではなかった。

 人間とそう変わらない大きさか、さらに下層にいる『ゴブリンキング』などはオークに匹敵する大きさだ。


「力は人間以上だしな。しかし、自衛隊員たちは一般人よりも強いはず。ゴブリンに負けるとは思えないのだけど……」


 残念ながら、一階層にも、二階層にも、自衛隊員たちの死体どころか遺留品すら残っていなかった。

 向こうの世界でも生物がダンジョンで死ぬと、所持品や装備品ごとダンジョンに取り込まれてしまうから、彼らも同じ結末を歩んだのであろう。


「武器だってなぁ……銃を装備していたはずで……もしかして!」


 このダンジョンは、元々別の世界のダンジョンだ。

 地球とは違うことわりで存在しているから、なにかの創作物のように、現代科学の産物である銃が効かなかったのかもしれない。

 それならば、自衛隊員たちがごうさいを迎えたのも納得できた。


「となると、これから色々と大変だろうなぁ」


 俺は問題なくダンジョンを攻略できるが、はたしてこの世界の人たちは、無事にダンジョン内でモンスターを倒し、魔石、鉱石、アイテムなどを得られるのだろうか?

 ただ、お上が考えるべきことを中学生身分の自分が心配してもろくなことにならないのがこの世の中であり、俺は自分のためだけにダンジョンの攻略を始めることを決意するのであった。



「うん? 手の平に……レベル1って書かれているな」



 ふと気がつくと、手の平に『レベル1』と表示されていた。

 魔王を倒した俺が、レベル1ってことはないはず。

 魔王退治した直後に比べて、自分の力が落ちたという実感もないのだから。


「これはどういうことなんだろう? もっとモンスターを倒せば、レベルが上がるのかな?」


 それを確認すべく、俺はダンジョンのクリアーを目指し、さらに下の階へと足を進めるのであった。




『すべての原子力発電所の再開が閣議で決定されました。ですが、世界中のウラン鉱脈も枯れており、現在原子炉内に残っている燃料棒と、日本政府備蓄分のウランを使いきれば廃炉となる予定です。同時に、太陽光、風力、水力、地熱、潮流発電などの再生エネルギーの比率を上げていくことも、合わせて了承され……』

「原発反対派って、いなくなったわね」

「背に腹は代えられないからじゃない?」



 世界中の国が、電力の確保に躍起になっていた。

 少し前までは原子力発電に反対する人たちが多かったのだけど、火力発電ができなくなると知ると、世論は一日でも早く原子炉を動かせと言い始めた。

 以前は、『環境によくないから即刻廃止しろ!』と言っていた人が多かったのに、人間というのは余裕がなくなるとこんなものなのかも。


『日本の自衛隊と同じく、アメリカ軍特殊部隊が全滅したアメリカでは、民間有志の探索者たちが、ロッキー山脈ダンジョンの三階層まで到着しました。しかしながら、すでに五名もの犠牲者を出しており、まさに命がけの探索となっています。それでも『アメリカ人である我らは、フロンティアスピリットを忘れない。ダンジョンとは、第二の開拓時代の幕開けなのだ!』と、リーダーであるジョゼフ氏はCNNのインタビューで語っており、志願者も増え続けています』

すごいね、アメリカ」

「そうだな」


 は、ニュースで流れるアメリカ人たちの偉業に感動していた。

 アメリカは軍隊によるダンジョン探索が失敗したあと、ユニコーン企業の創業者たちが優秀なダンジョン探索希望者たちに資金と装備を与え、積極的にダンジョンに挑ませていた。

 当然犠牲者も多かったが、現在世界で一番成果を出している。

 彼らはすでに大量の魔石を入手し、これを新たなエネルギー源にしようと研究所に持ち込んで、早速分析を開始している。

 鉱物もすでに金属の精錬を始めていると、ニュースで見たのを思い出す。


『これからは、金属資源とエネルギーはダンジョンから手に入れなければならない』という答えに到達し、早速アメリカ政府も全米各地にあるダンジョンに潜る志願者たちを集めていた。

 他の国でも同様の動きがあり、日本もようやく重い腰をあげた感じだが……。


『アメリカなどと比べたら、政府の初動が遅すぎます!』


 国会の審議を止めていた野党の議員たちが、日本政府の初動の遅さを批判した。

 まさしくマッチポンプである。

 日本人の中にもしびれを切らし、警察の警備が薄いダンジョンに入り込んだ人たちがいた。

 そこで成果を得た者も、失敗して命を落とした者もいたが、それに対し『ダンジョンで犠牲者が出た件で、日本政府の責任を追及する対策会議』というのを、野党が作って我が道を進んでいた。

 犠牲者の遺族を表に出し、ワイドショーで政府の無策を批判する。

 彼らはある意味、最強の存在かもしれないな。


「ダンジョンに潜った人たちの中の一定数、手の平にレベルの数値が見えるようになるって本当なのかな?」

「そんなうわさは聞くけど……どうかな?」


 の質問に対し、俺はよくわからないという態度を見せたが、実は俺の手の平にもレベル1と記されていた。

 彼女に見えていないということは、実際にダンジョンに潜って手の平に数字が浮き出た本人でなければ見えない仕組みなのであろう。

 向こうの世界では、手の平にレベルなんて出なかったからなぁ。

 アメリカだと、レベル8まで上がった人が国内で大人気だそうだ。

 とはいえ、ようやくダンジョンの三階層に到着ってことは、向こうの世界の基準だと初心者に毛が生えた程度だな。

 そもそもレベル表示が出ない人は、以降のダンジョン探索自体が厳しいはず。


「他にも、戦士とか、盗賊とか、魔法使いとか、僧侶とか。ジョブが出て、なぜか日本語表記らしいけど」


 実は俺が魔王を倒した世界って、なぜか日本語が使われていたからなぁ。

刊行シリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!4の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!3の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!2の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!の書影