第2話 ダンジョン出現 ③

 どうして日本語なのかと聞かれても、俺は言語学者じゃないからよくわからなかった。

 ダンジョンの下の階層に行くと、書籍や、特別な魔法が使えるスクロールなどが出ることがあるがすべて日本語表記なので、俺は日本人でよかったと思ったものだ。


「魔石がエネルギーってすごいね」

すごいけど、エネルギー採取が命がけになるな」


 身代わり人形に通学させながら、うえこうえんのダンジョンを繰り返し繰り返し、ただひたすらクリアーし続ける。


「以前よりは少なくなったが、モンスターを倒すと体が軽くなることがある。『カッパータートル』の甲羅が柔らかくなったような……。甲羅には銅が大量に含まれているから、資源高の今、高く売れるはずだ」


 多くの成果と、魔王を倒した時よりもさらに強くなった感覚はあるのだけど、なぜか手の平のレベル表示は1のままで、しかも俺にはジョブの表示が出なかった。

 それでなにか困ることがあるのかと聞かれると逆に困ってしまうが、これはひょっとすると、俺が二つの世界でダンジョンに潜ったため、表示バグのような状態になっているのかもしれない。

 ただ、向こうの世界ではレベルとジョブの表示は出ないんだけどね。

 自分がどのくらいの強さか、どういうことができるのかは、自分で把握しなければいけないのだ。

 もっとも、強くなった影響で知力が大幅に上がっているのであろう。

 一度覚えたことは忘れないし、表示がなくても困るということもなかった。

 学校の勉強なんて、一度教科書をペラペラめくって見たらすぐに覚えてしまう。

 今年は高校受験があるのだけど、元の俺は頭の出来は普通だったので、近所の公立高校に入る予定だ。

 そこなら、頑張って受験勉強する必要もなく、周囲から怪しまれることもない。

 と思っていたのだが、ダンジョンのせいで世の中が加速度的に変化してきた。


りょう、一緒にレベル測定を受けに行かない?」

「レベル測定? いいけど……(実は意味がないんだけど……)」


 夏休みに入ると、さらに社会は大きく変化した。

 アメリカで、魔石をエネルギー源にする研究が進んでいたからだ。

 とはいえその方法はとても簡単で、ただ魔石を微細にまで粉砕し、水と混ぜるだけ。

 こうやって作った『魔液』は、既存のガソリン、ディーゼル車も動かし、火力発電所でも使えることが判明した。

 燃費は数十分の一にまで落ちてしまったが、魔液を燃やしても二酸化炭素をまったく排出せず、水蒸気しか排出しないおかげで環境団体にもウケがよく、現在世界中で普及しつつあった。

 ダンジョンに潜ってスライムを倒せば魔石が手に入るのだから、それを利用しない手はないというわけだ。

 魔石をなるべく細かく粉砕し、混ぜる水は、純水に近ければ近いほど燃費が良くなっていくとテレビでやっていた。

 スライムの魔石よりも、オークの魔石の方が圧倒的に燃費のいい魔液が作れるなどの事実も判明し、人々は武器を持ち、よろいを装備して、ダンジョンに潜るようになった。

 それで思わぬ大金を稼ぐようになった人や、戦闘力がなくてスライムに殺されてしまう人など。

 色々とニュースになっていたが、以前のように、危ないからダンジョンに潜らないでください、とは日本政府も言えない。

 ダンジョンが出現した当初に発生した混乱の影響で、現在世界は大幅な景気の後退に見舞われ、エネルギー源である化石燃料が輸入できない国々は、失業対策の一つとして人々をダンジョンに送り込んだ。

 最初に犠牲者を出した自衛隊はその教訓を生かし、次は剣やよろいで武装してダンジョンの探索を始めていた。

 ダンジョンでは、火薬を用いた火器や、化石燃料や電気を用いた車両、通信機、その他機具が一切使用できなかったからだ。

 ダンジョン中の様子を撮影しようにも、電気で動くカメラ、ビデオ、スマホ、使えず、外と連絡が取れないのがつらいところであった。

 通信できないので、命令を受けて動く軍隊は結構つらいものがあるはず。

 さらに自衛隊のみならず、警察、消防なども同じことを始めていた。

 どこが一番成果を出すかで争っているのは、これは組織のごうなのだと思う。

 そしてこの頃から、各メディアでは、ダンジョンに潜って生計を立てる人たちのことを『冒険者』と呼び始めた。

 そんな中で、とある冒険者がモンスターからのドロップで不思議なアイテムを手に入れた。

 一見するとただの眼鏡だそうだが、それで見ると手の平にレベルとジョブが表示されている人がわかるのだと言う。

 俗称は『スカウター』となり、その後別の冒険者たちもいくつか発見して、それからすべて日本政府によって大金で買い取られた。

 手の平にレベルとジョブが表示される人は、モンスターを倒して経験を積めばレベルが上がって強くなる。

 手の平にレベルの表示がない人はまったく強くならないので、いくら高性能な武器を装備しても二階層のゴブリンまでが限界。

 この現象を、世界中で『冒険者特性』と呼ぶようになった。

 世界各国の政府が冒険者特性がある人たちを見つけ出し、ダンジョンに送り込もうとした。

 日本も政府や各省庁が色々と知恵を絞り、まずはこれから進路選択を控えている中学三年生の希望者全員にスカウターを用いて、明日の優れた冒険者を見つけることを文部科学省が実行したわけだ。


「別にいいけど。レベル表示は出るかな?」

「出るといいわね」


 もう出ているけど。

 さすがに、異世界で魔王を倒した俺に冒険者特性が出ないってことはないようだ。

 ただ手の平の表示がバグってずっとレベル1のままで、レベルが表示されれば一緒に出るはずのジョブも出ない。


きゅうきょ新しく冒険者高校が都心部にできるんだって。才能ある冒険者候補は、そこに通えるみたい。入ることができたらいいわね」


 なんでも決めるのが遅いと、よくされる日本にしては動きが早かった。

 実は私立高校らしいけど、都心部に冒険者高校が新しく開校し、そこに冒険者特性を持つ生徒たちが編入、入学する予定だというニュースをやっていた。


 今日の検査は冒険者高校の入学試験の一環で、冒険者高校は冒険者特性がなければ入学できないからだ。


「同じ学校の人たちがいっぱい。みんな冒険者になりたいんだね」

「稼げるからな」


 命がけだけど、冒険者特性がない人がスライムを倒してドロップ品を持ち帰るだけで普通のサラリーマンより稼げるようになった。

 化石燃料と天然鉱物資源消滅の余波で世界中が大不況に見舞われており、ダンジョンに潜って生活のかてを得る人が増えていたのだ。

 俺も毎日潜っているけど、ダンジョンに出入りする時は魔法で姿を消すから、誰にも気がつかれていない。


「次の方、みつはしさん」

「はい」

「スカウターで見た結果は、『レベル1、戦士』の表示がありました。冒険者特性アリですね」

「やったぁーー!」

「すげえ! あれって、同じ学校のみつはしじゃねえか」

「冒険者特性って、そう頻繁に出るもんじゃないらしいぞ」


 最初が検査を受けたが、文部科学省の人がスカウターで手の平を見るだけだ。

 すると、彼女には冒険者特性があることが判明し、会場に来ていた冒険者特性のない人たちから注目を集めていた。


「冒険者高校の受験をお勧めします」

「はい! 必ず受験します! 楽しみだわ」


 は冒険者高校に行ってみたいと言っていたから大喜びしている。

 次は俺か……まあ、結果はわかっているけど。


ふるりょうさんですね。ええと……レベル1……あれ?」

「どうかしましたか?」


 やはりジョブは出なかったか……。

 わかってはいたけど、もろもろ誤魔化すためにわざと聞いてみる。


「ジョブが出ないんですけど、冒険者特性があることは確かです。ダンジョンに潜ってレベルが上がれば、必ずジョブが表示されるようになると思います。ふるさんにも冒険者高校への受験をお勧めします」

「そうですね。受験してみようと思います」

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