第2話 ダンジョン出現 ④

 検査自体はすぐに終わるので俺とは帰宅の途についたが、彼女はよほど冒険者特性が出たことがうれしいらしく、ずっとご機嫌なまま俺に話しかけていた。


りょうも冒険者高校を受験するよね? ジョブは、レベルが上がったらきっと表示されるようになるよ」

「だよね」


 本当にジョブが表示されるようになるかわからないけど、別に表示されなくても困らない。

 ただその理由をに話せない……俺が別の世界で魔王を倒したなんて話を信じてくれるわけがないからだ。

 少なくとも、俺なら信じない。


「冒険者高校。合格するといいけど」

「そうだね」

「ようし! 頑張るぞ!」


 このところ毎日、うえこうえんのダンジョンの最速クリアー更新を目指したり、マップやモンスター図鑑の作成にいそしんでいたりと、実はもうひそかに頑張っているけど。

 最初自衛隊が全滅したように、ダンジョン内では科学技術の産物が使用できない。

 今では多くの人たちがダンジョンに潜っていたが、スマホ、通信機、ノートパソコン、カメラなどの他にも、電気で動く品が作動せず、ダンジョン内の様子を動画配信してひと稼ぎしようと思っていた人たちは出鼻をくじかれる結果となった。

 撮影だけだからと言って軽装でダンジョンに入り、スライムに殺された人がニュースになったほどだ。

 そのためみんな、アナログ的な手法で情報を集めるしかなかったのだ。

 俺だけは、既製品のスマホ、デジタルビデオカメラ、ノートパソコンなどを魔力で動くように改造して、ダンジョン内でも使用できるようにした。

 ただスマホやパソコンに関しては、通信、ネット、メール機能が使用不能なままだ。

 魔力のおかげで電源が入っても、これでは簡単なマッピングソフトで地図を作り、SDカードかUSBメモリに記録するくらいしか使い道がない。


「ダンジョン内でネットにつないだり、メールの送受信、通話は無理か……。ダンジョン内には電波が届かないんだ。となると、電波ではなく『魔力波』に変換してダンジョン内をでんさせる必要があるのか……。魔力波の原理は存在するけど、向こうの世界では必要なかったし、既製品のスマホとノートパソコンからの改造となると時間がかかる。まずはこの改造デジタルビデオカメラで、ダンジョン内の撮影をするか……」


 デジタルビデオカメラは普通に使えるのでダンジョンの様子を撮影し、空いている時間に自室でようで動画編集も行った。

 機会を見て、動画投稿サイトに投稿する予定だが、どうしてこんなことをしようと思ったのかというと……。


『冒険者は稼げるけど危険なのね。昨日ニュースで、すでにうえこうえんダンジョンでの行方不明者が三百名を超えたって』

『そんなにか!』


 が、青ざめた表情で俺に教えてくれた。

 事前になんの情報も持たず、屈強な自衛隊員でも殉職してしまうダンジョンに潜るので、死者、行方不明者が増え続けているのだと。


『でね。ネットや動画投稿サイトにダンジョンの情報が出ているんだけど、インセンティブ目当てのインチキ情報が多くて、そのせいで死んでいる冒険者も多いはずだって。ダンジョン内って撮影ができないから、ダンジョン情報のしんがんがわかりにくいみたい』

『とんでもない連中だな』


 かねもうけのためにフェイク情報を流し、結果的に冒険者を殺してしまう。

 そしてその件で、彼らが責任を取ることなど決してないのだから。


 ならば、俺がダンジョンの詳細な情報を撮影して、動画で配信しよう!


 俺一人が頑張って必要な魔石や資源を集めるなんて、この世界の人口を考えたら不可能に近い。

 他の冒険者たちが、なるべく安全に目的を達成できるようにするためだ。

 特に有名人でもない俺が、しかも匿名で配信する動画なので大したインセンティブは得られないと思うが、まあ動画作成経費の一部でも補塡できれば。

 そんな理由から、俺はダンジョンでの動画撮影をひそかに始めたのであった。



「でも、今の俺たちはダンジョンに入れないからね(俺はこっそり入ってるけど)」

「そこが問題なのよね」


 泥縄式にダンジョン関連の法律が作られ、中学校を卒業しないとダンジョンに潜れないことが決まってしまった。

 世の中には中学校卒業してからすぐ働き始める人もいるわけで、最初は二十歳にならないとダンジョンに入れないようにした方がいいと、主に人権派と言われる政治家たちが騒いだのだけど、エネルギー問題のことを考えれば背に腹は代えられない。

 そういう反対意見は、なかったことにされたみたいだ。


「冒険者特性があっても、どうせ中高年やお年寄りはダンジョンに入らないんだから、そんなれいごと言っていられないのに……」

「中高年の人たちは、意外と多くの人たちがダンジョンに潜っているよ」


 これが意外と人気らしく、元々不景気のせいで会社を解雇されたり、希望退職に応募せざるを得なかったような人たちが多かったが、冒険者特性があるとレベルが上がる。

 身体能力も上がって体も若返り、稼ぎも以前とは比べ物にならないので、雇用主にこびを売る必要がないから最高だと、喜んで冒険者家業をやっている人たちがいるとニュースでやっていた。

 冒険者特性がないので、体をいたわりながら懸命にスライムを倒している、くたびれた中高年も多いそうだけど。


「お年寄りはほとんどいないかな」


 人間は年を取ると保守的になるというし、年金だけで十分に暮らせる人も多い。

 そのため、冒険者特性があってもダンジョンに潜らない年寄りが圧倒的に多かった。

 政府は『生涯現役社会』などと老人に向けて宣伝しているけど、それに乗せられてダンジョンに潜る老人は滅多にいない。

 冒険者特性がないお年寄りがダンジョンに潜るなんてただの自殺行為なので、やはりダンジョンにあまり年寄りはいなかった。

 数はとても少ないけど、レベルアップの影響で若い冒険者に負けないぐらい大活躍しているお年寄りも、極少数存在はしているけど。


「詳しいんだね、りょうは」

「ニュースでやってたからさ」

「ふうん。冒険者高校の受験に向けて、私も体を鍛えようかな?」


 俺は毎日ダンジョンに潜っているけど、他人に話せるようなことではないからなぁ。

 下手に権力者に目をつけられると危険なのは、向こうの世界で何度も体験していた。

 だからこそ俺は、個で生きて行くと決めたのだから。

 問題は、いつに打ち明けるかだな。

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