第3話 Eクラス ①

「冒険者特性が出る人の割合ですが、日本はおよそ2パーセントであり、これは世界で最も比率が高いことが判明しました。ですが、十五歳以下の子供はダンジョンに入れませんし、お年寄りはほとんどダンジョンに潜りません。たとえ適正年齢で冒険者特性を持っていたとしても、ダンジョンに潜る、潜らないは個人の自由です。日本という国は憲法で職業選択の自由が認められているため、まさかダンジョンに潜ることを強制するわけにいかないからです。冒険者特性を持ち、この高校に志願して合格した皆さんを歓迎いたします」



 ようやく中学校を卒業し、冒険者高校の入学式を迎えた。

 やはり俺はジョブが表示されない状態での受験となったが、なんとか合格できた。

 別に冒険者高校に通わなくてもダンジョンに潜れるので、入学試験に落ちても問題なかったのだけど、高校のある場所がうえこうえんダンジョンに近かったので、この高校に通えた方が俺としては都合がよかったのだ。

 ただ……。


りょう、私はBクラスだから」

「ああ」

「大丈夫だよ、きっとりょうならクラスも上がるはずだから」

「それもそうだな」

「頑張って、りょう!」


 ジョブが表示されないせいで、冒険者として成り上がりたい願望が強いとは距離ができたような気がする。

 お互いに恋愛感情はない……少なくとも俺にはなかった……が、やはりつき合いの長いおさなじみから距離を置かれると寂しいものだ。

 だが、向こうは優秀な冒険者が集まるBクラスで、俺は合格ギリギリのEクラス。

 筆記試験、運動能力試験はトップクラスのはずなのに、やはりジョブの表示がないせいで評価が低かったようだが、合格はできたのでよしとしよう。

 この冒険者高校は、授業はすべて単位制だと聞いている。

 ダンジョンに潜っていれば公休扱いで、あまり学校に通わなくていいのも気に入っていた。

 それに、入れてしまえば成績なんてどうでもいい。

 ここは冒険者の学校なんだから、校内の成績よりも、いかに冒険者として稼ぐのかが大切なのだから。


「(Eクラス……落ち込んでいる人が多いなあ。あとでいくらでもばんかいできそうなのに……)」


 まだ出来たばかりの学校なので、二年生と三年生は他の普通高校などからの編入生だ。

 俺たち新一年生とは違って、すでにダンジョンに潜ってレベルが上がった者たちもいると聞いていたが、そこまで大きなレベル差はないはず。

 なにしろ、この世界にダンジョンが出現してまだ一年ほどであり、世界中が色々と試行錯誤を重ねている状態なのだから。

 俺は少なくとも、うえこうえんダンジョンについては詳しいけどな。

 ましてや一年生なんて、誰もダンジョンに潜っていない状態で入試を受けたのだ。

 というか、どういう基準でクラス分けしたのかね?


「初めまして。Eクラス担任のとうです。みなさんはEクラスではありますが、冒険者特性を持つ選ばれた人間であり、レベルが上がって強くなれば、クラス替えも随時発生します。ですから、これからはなるべくダンジョンに潜って一日も早く慣れていただけたらと思います」


 担任の先生は……間違いなく教員資格を持った教師なんだろうけど、冒険者特性も持つ人みたいだ。

 新卒? いや、人によっては高校生に見えてしまうほどの童顔であった。

 美人というよりはわいらしい女性で、ダークブラウンのショートカットがよく似合う人であった。

 ただ、冒険者としての実力は微妙かもしれない。

 もし優れた冒険者なら、ダンジョンに潜って荒稼ぎしているだろうからだ。

 教師という仕事は安定しているから、この選択も悪くはないのか?

 この学校は急ぎ文部科学省が開校許可を出したそうだが、私学なので実は教師は公務員じゃないけど、これから冒険者という人材育成分野には大きな期待と需要がある。普通の公務員より稼げる上に安定した職業といえるかもしれない。


「この高校に入学した以上、みなさんはダンジョンに潜ることになります。単独で潜る人もいるでしょうし、パーティを組む人もいるでしょう。私はできる限りパーティを組むことをお勧めします。最初は誰でも心細いものですからね」

「……どうする?」

「俺たち、Eクラスだからなぁ。パーティは組んだ方が安全だろう」

「そうよね、ジョブのバランスを考えて」

「俺は戦士だ」

「私は、僧侶よ」

「僕は魔法使いだ」

「盗賊だから、この四人で組めばいいのかな?」


 クラスメイトたちはそれぞれジョブを教え合ってから、バランスよくパーティを組み始めた。

 俺、こういうのどこかで見たことあるわ。


「なあ、お前のジョブは?」

「ノージョブだ」

「えっ? 今、なんて?」

「だから、ノージョブだ」


 俺はジョブを尋ねてきたクラスメイトに、自分がノージョブであることを告げた。

 その直後、担任はもちろん、クラスメイトたちの視線が一斉に俺に集まる。


「ぷっ! ノージョブだってよ」

「お前、よくこの学校に入れたな」

「そういえば、うわさで聞いたよ。レベルしか表示されない落ちこぼれがいるって。お前だったのか」

「だせえ!」

「お前、よく恥ずかしくないな。入学を辞退すればよかったのに」

「本当、空気読めないやつっているんだな。アナタ、ホントウニニホンジンデスカ?」

「「「「「「「「「「ぎゃはははっ!」」」」」」」」」」


 どうやら、Eクラスの連中とは今後二度と関わらない方がいいようだ。

 実際にダンジョンに潜ってみたわけでもないのにEクラスにされ、落ち込んでいたのには同情したけど、俺という見下せる存在ができたら一斉にぞうごんのリンチを始める。

 人間の質が低いのだ。

 もしかすると、この冒険者高校の入学試験って結構正しいのかもしれないな。


「みなさん、これから三年間一緒にやっていく仲間なのに、どうしてバカにするんですか?」


 担任のとう先生がクラスメイトたちを叱り始めたが、あまり効果はなかったようだ。


「だってとう先生、ノージョブなんてあり得ませんよ」

「三年間一緒にやっていくのは難しいんじゃないですか? どうせ途中で退学しますって」

「言えてる、落ちこぼれるのは確実だからな」

ふる君に関しては、特別な例なんです。本当は筆記試験も運動能力試験もトップだったのですが、校長先生と教頭先生が……」


 逆に言えばノージョブという理由だけで、筆記試験と運動能力試験がトップでもビリにされてしまうのか。

 決して間違っているわけではないが、とにかくこの学校の入学試験に落ちなくてよかった。

 クラスメイトたちはクソみたいだが、この学校にはそれなりに利用価値があるからだ。


ふる君もレベルが上がれば、きっとジョブが表示されるはずです。彼とパーティを組む人はいませんか?」

「いませんよ」


 ムカツクやつだが、それはそうだろうなと俺は思った。


「ダンジョン探索は命がけなんですから、俺たちはジョブを確認し合ってバランスのいいパーティを組んでいるんです。ノージョブのやつなんて入れませんよ」

「そうそう。俺たちに頼らないでさ。自己責任でやってくれないかな?」

官房長官もテレビでそう言ってたじゃん、自助ってやつ」

「そうそう、自助っすよ、ふる君」

「「「「「「「「「「ぎゃはははっ!」」」」」」」」」」


 なるほど、自分のことは自分でやって、他人の助けは借りるなということか。


「そうだよな、自分のことは自分でやらないとな」

「あれ? ノージョブのふる君、ビビってる?」

「一人でダンジョンに潜るからな。内心、心臓バクバクなんじゃねぇの?」

「怖いよぉ、僕も仲間に入れてよぉ」

「それ最高! ウケル!」


 不思議なもので、学力は関係ない冒険者を集めた高校なのに、下のクラスには、普通高校なら偏差値が低いところにしか行けなさそうな連中ばかり集まっていた。

刊行シリーズ

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