第3話 Eクラス ②

 頭が悪くても冒険者として優れている、という風にはいかないのかな?

 実際にダンジョンに潜ってみないと、断定はできないのだけど。

 向こうの世界にも、強いクズなんて沢山いたからなぁ。


「じゃあ、俺は一人でやらせてもらうよ」

ふる君、もうちょっと冷静に考えて、ね、必ずパーティメンバーは見つかるから」

とう先生、もしここでこのクラスの誰かが手を差し伸べてくれたとして、そんなパーティに参加したらもっと悲惨な結末になると思いますよ。違いますか?」

「……」


 まさか自分が担任をしているクラスの生徒たちをざまに言うわけにいかず、彼女は黙り込んでしまった。


「みんなは俺をパーティに入れたくない。俺も、少なくともここのクラスの人たちとパーティを組むつもりはない。お互いの希望どおりになって万々歳じゃないですか。俺は早速、ダンジョンに潜りたいと思います。公休願います!」

「わかりました」


 一つだけわかったことがある。

 このクラスに顔を出す意味はない。

 Eクラスの連中と関わると俺までバカになりそうなので、早々にダンジョンへと向かうため教室を出て行くことにした。


「落ちこぼれの負け犬が、無理して格好つけてるぜ」

ふるくーーーん、死なないでね」

「「「「「「「「「「ぎゃははは!」」」」」」」」」」


 どうしてとう先生がEクラスの担任になったのかは知らないけど、あんな動物のような連中を相手にしないといけないのだから大変だな。

 俺は教師にはなりたくないし、こういう風に考えてしまうので向かないと思う。

 さあて、ダンジョンに潜るとするかな。




「学校とダンジョンが近いのはいいな」



 冒険者高校からうえこうえんダンジョンまで、徒歩でわずか五分ほどだった。

 実は日本には、現在確認されているだけで百二ヵ所のダンジョンが発生しており、日本政府はなるべくその近くに冒険者高校を設置した。

 つまり、日本には冒険者高校が百二校も誕生した……わけがなく、中には人がなかなか辿たどけないような場所にもあり、全都道府県に一校ずつの設置となっている。

 その代わり、百校以上の既存の高校が同時に廃校となったそうだけど。

 日本は少子化が進んでいるので、冒険者高校に編入、入学した生徒が増えた分、多くの高校で生徒数が減ってしまったので、急ぎ高校の統廃合が行われた……にしては廃校になる高校が多いような……。

 多分、以前から廃校にしようと思っていた高校を、いい機会だと思って潰したんだろう。

 廃校となった高校の生徒たちは、冒険者高校に行くか、それが原因で生徒数が減った近くの高校に編入できたので、そんなに問題になってないそうだけど。

 日本は、世界有数の冒険者特性比率が高い国だとニュースで見た。

 それでも全人口の2パーセントだが、アメリカと中国は約0・5パーセントだから、総数では負けるが比率は高い。

 他の国もアメリカや中国と似たり寄ったりの割合だが、ただ日本の場合、高齢化の影響で冒険者特性を持つ高齢者の割合が多く、実際に冒険者になる人の数が多いわけではない。

 冒険者特性を持っていても、冒険者高校を受験しない若者だって少なくないのだから。

 だからこそ冒険者高校は泥縄式で始まり、しかも私学なので経営者は存在する。

 私学なので学費は高い方だが、他の有名私立高校よりは安かった。

 それに放課後にダンジョンに潜れば、すぐに学費を支払うことが可能であった。学生からすれば、冒険者で稼ぎながら高校卒業資格を手に入れられるので、メリットが大きい。

 優秀な冒険者向けに、返済不要の奨学金や無料の寮まで用意していると入学式時の説明で聞いたので、経営者はもうけるためだけにやっているのではないと思う。

 どちらにせよ、俺はただダンジョンに潜ってモンスターを倒し、魔石と鉱石、素材、貴重なアイテムなどを手に入れるだけだ。

 この一年間、やっていたことと変わりはない。


「ええと……ちゃんと撮れているかな?」


 自作したドローン型のゴーレムに、魔力で動くように改造したデジタルビデオカメラを取り付け、俺の戦闘シーンを撮影してみた。

 そのため、今の俺の頭部装備はフルフェイスのミスリルヘルムであった。

 どうして顔を隠して撮影しているのかといえば、極秘裏に俺は会社を作って動画の投稿を始めたからだ。

 こういうのは、最初は正体がバレない方がいい。

 急ぎ会社を作ったのは、将来向こうの世界で手に入れた金貨、宝石などを上手うまく節税しつつ資産化するためでもある。


『会社って、一円で作れるんだ!』、『その手続きを、税理士と司法書士に頼む手数料の方が高いけど!』くらいしかエピソードはなかった。

 プロは報酬を受け取ると、淡々と仕事をこなしてくれる。


「チャンネル名は、『ダンジョン探索情報チャンネル』だ! 単純な方がわかりやすいからな」


 ダンジョンの中に、科学技術を用いて製造した品を持ち込んでも作動しない。

 そのため、ダンジョンとモンスターの撮影をして金を稼ごうと思っていた世界中の配信者たちを絶望のふちたたとした。

 一方俺は、向こうの世界で勇者修行の一環として錬金術、どう工学も学んでいたので、ちょっと苦労したが、デジタルビデオカメラを魔力で動かせるように改造することに成功した。

 中学三年生からの一年間で、地下九百九十階までのうえこうえんダンジョンの全貌と、そこに生息するモンスターの解説と討伐の仕方を撮影し、すでに編集も終えている。

 最初は自分で編集していたけど、今では編集作業を覚えさせた特級ゴーレムの『プロト1』に任せていた。

 俺が向こうの世界で時間をかけて製造、改良した特級ゴーレムは、SF小説も真っ青な性能を発揮する。

 プロト1に動画配信用の会社のことを任せ、俺はダンジョン探索、モンスター討伐、動画撮影に集中できるわけだ。


「そろそろ地上に戻るか……」


 入学式の日から、夜八時までダンジョンに潜ることになったが、あの不愉快なクラスメイトたちの顔を見ないで済むのはラッキーであろう。


『テレポーテーション』で自宅へと戻り、コンビニでお弁当を買って夕食をとったあと、おに入ってパソコンのメールボックスを開けた。


「なになに、ふる企画様の動画が収益化の基準に達しました。これからの活躍をお祈り申し上げます。か……」


 俺が世界的な動画投稿サイトに投稿したダンジョン探索動画は、恐ろしい勢いで視聴数が増えていた。

 これまでまったく撮影できなかったダンジョンの様子が、俺の解説付きで詳細に映っており、モンスターについても、最弱のスライムから懇切丁寧に倒し方と手に入る魔石の品質、鉱石に含有している金属の種類や量、素材の剝ぎ取り方などを図解や実践動画付きで解説している。

 最初は時間をかけて動画を編集していたけど、今は動画のフォーマットが定まっており、プロト1が全部編集作業をしてくれるのでとても楽だった。

 俺は撮影だけすればいいのだ。


「世界中で大騒ぎになっているな」


 それは当然で、これまで誰もダンジョン内の様子や、モンスターの撮影ができなかったのだから。

 ネット上では『にせものだ!』という意見と、『いや、ここはうえこうえんダンジョンじゃないか!』という冒険者からの書き込みも散見された。


「この動画を撮影しているのは誰だって? そのうちバレるだろうけど、今は内緒で」


 早速今日から、これまでアイテムボックスにんでいた魔石、鉱石、素材、アイテムの売却も始めており、一年って会社の決算が出れば、少なくとも税務署には気がつかれてしまうだろうな。

 彼らが俺の情報を外部に漏らすかどうかは不明……普段は守秘義務がとか言っているが、政治家に脅されるとバラすかもしれないな。

 だが俺は、自分のやりたいようにやるだけだ。

 気に入らないやつの言うことなんて無視するし、他人からの善意は善意で返し、悪意はその時の判断で何倍にもして返してやる。

 どうせ両親もくなってしまったので誰にも迷惑はかからない……あの親戚たちならかけても問題ないし。

 ようやく冒険者高校に入ったので、俺は自由に活動を始めたのであった。

刊行シリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!4の書影
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