第4話 幼馴染との別離 ①
「もうすぐ夜の八時だぞ。今日の『ダンジョン探索情報チャンネル』は、
「しかし
「
「当然注意するし、『勇者』もよくそう言っているからな。しかし彼の動画はどうやって撮影しているんだろうな。強力なモンスターと戦いながら、俺たちが見て参考になる戦い方が最高のアングルでバッチリ映っていて、カメラワークがプロ顔負けだ。編集も適切で見やすく、冒険者じゃない人たちの方が圧倒的に視聴者数も多いくらいだ。見ていてワクワクするんだよ」
「娯楽としてもよくできているよな。俺の
「同じ冒険者ねぇ……。おっ、最新の動画が更新されたぞ」
今日もダンジョンでの仕事を終え、自室マンションでパーティメンバーと一緒に更新されたばかりの動画を見ていた。
今、世界的に有名な動画投稿サイトで一番の動画配信者といえば、世界一の冒険者と称されるダンジョン探索情報チャンネルの主だ。
彼は……多分彼は、いまだ自分以外誰も到達していない
その動画が世界中で大人気となっており、誰もが彼を世界一の冒険者にして、動画配信者だと認めていて、いつの間にか彼のことをみんな『勇者』と呼び始めている。
今やチャンネル登録者数も、動画の視聴回数も世界一なのだから。
『二十七階層は、典型的な迷路で構成されています。順番に回りつつ、詳細な地図もあとで表示しますので、それを参考に攻略してください。おっと、ブラックスコーピオンが出現しました!』
息を切らさずに走りながら迷路を進んでいた彼の前に、巨大な黒いサソリが立ち塞がる。
その大きさは、地球上に生息するサソリでは決してあり得なかった。
「俺ら、これを倒せるようになるのかね?」
「わからんが、戦いが始まるぞ」
みんなで動画に集中する。
『ブラックスコーピオンの弱点は目の間です。ただ、非常に甲羅が硬いので、レベル不足で挑むと攻撃が
ここで、動画がスローモーションになった。
ブラックスコーピオンは自分の目前に迫った勇者に対し、体の上の前方に伸ばしていた毒針つきの尻尾を振り下ろした。
これだけ巨大なサソリの毒針なので、もし人間が刺されたら……。
『ブラックスコーピオンの尻尾の毒が体内に入ったら、すぐに体が
どうして、勇者に対しブラックスコーピオンの尻尾が振り下ろされたシーンがスローモーションになったのか、俺たちはすぐに理解できた。
なんと彼は、高速で振り下ろされたブラックスコーピオンの尻尾を片手で
そしてすぐさま、もう片方の手に持った剣でブラックスコーピオンの目の間を貫くと、ブラックスコーピオンはすぐに全身の力が抜けて倒れ伏してしまった。
「すげえ……」
「尻尾を回避するんじゃなくて、
こんなこと、いつかできるようになるのかね?
『ちょっと他の冒険者には
勇者は、倒したブラックスコーピオンの後ろにいた個体の後ろに回り込み、尻尾を剣で切り落としてしまった。
『先に、毒針つきの尻尾を切り落とすのが一番安全です。ただ尻尾の節の根本の部分は太いので硬く、毒針のある先端部分は巨体ゆえに高い位置にあるので、ジャンプ斬りしなければいけません。先端の第一節のみを斬り落とすと、毒袋の毒が漏れてしまうという欠点もあります。実は、ブラックスコーピオンの毒は、毒に弱いモンスターを攻撃する際に刃物に塗る『毒薬』の材料なので、できれば
勇者が解説を続けながら飛びあがり、見事ブラックスコーピオンの尻尾の第二節の部分を斬り落とした。
『あとは、急所である目と目の間を突く! 慣れないうちは、刺突能力があるエストック系の武器などがお勧めです。それと、尻尾の毒針という最大の武器を失っても、脚による攻撃が意外と強力なので注意してください』
その後も勇者は、丁寧に解説をしながら繰り返しブラックスコーピオンを倒していく。
同時に、
『あっ、壁のこの位置に毒針が飛び出す
勇者は丁寧にゆっくりと二十七階層をクリアーし、二十八階層に
『では、また明日の更新でお会いしましょう! 明日も見てね!』
動画を見終わったあと、その視聴回数を確認するが、さすがは世界で一番チャンネル登録者数が多いだけのことはある。
かなり長い動画なのに、爆発的に視聴回数のカウンターが上がっていく。
この動画は、
「しかしまぁ、勇者ってのは何者なのかね?」
「白銀色のフルフェイスヘルムを
「前人未踏のダンジョンを、誰よりも先に攻略している冒険者のあだ名に
ある日突然、ダンジョンを攻略する様子を解説つき動画で配信し始め、すぐに大人気となった勇者とは、いったい何者なのであろうか?
色々と推察はされているが、いまだその答えに
「人のことよりも、俺たちも自分なりに頑張らないとな」
「ああ、この動画を参考に、
さて、あとは明日に備えて
冒険者は体が資本だからな。
***
「ダンジョン探索情報チャンネルの収益が
「信用問題なのでは守秘義務は守りますが、はたして税務署がそれを守るかどうか……。手柄目当てに政治家に漏らす
「無駄遣いに慣れていませんし、今は仕事をしていた方が楽しくていいんですけどね」
「高校一年生でワーカーホリックですか……。守秘義務がなかったら、うちの娘を紹介したいところですよ」
「そんなものですか」
「そんなものなんですよ、世の中って」



