第4話 幼馴染との別離 ②

 仕事を頼んだ税理士のじま先生と軽く打ち合わせをしてから、このあとはいつもどおりうえこうえんダンジョンに潜る予定だ。夏休みも中盤戦に突入したが、もとからほとんど学校に行っていないので、いつもと変わらない日常だ。

 地下千階まであるこのダンジョンの最下層付近で戦って強くなりつつ、動画の撮影も続けている。

 定期的にレベルアップして強くなっていく感覚はあるのだけど、向こうの世界ではレベル表示なんてなかったし、あいかわらず手の平を見てもレベル1のままだった。

 やはり、向こうの世界で勇者として活動したことが原因で表示バグを生み出しているのかもしれないが、今も確実に強くなっているので、レベルの表示がレベル1のままでも特に問題はないのだけど。

 ただ、魔王を倒したあとなので、まるで終わったRPGのレベルを上げているような気分だ。

 現在動画で、このうえこうえんダンジョンの地下百階までの案内と、出現するモンスターの倒し方、ドロップ品の扱いなどを解説しているが、俺以外で一番下層部に到達した冒険者が地下十一階。

 ダンジョンが出現して一年と四ヵ月で地下十一階なので、人類が最下層に到達するにはいったい何年かかることやら……。

 ただ他の国も同じような状態で、アメリカが地下十三階で、中国が地下十四階だったかな?

 レコードは、各国の威信もあってちょくちょく入れ替わるけど。

 それに、ダンジョンによって難易度が違うから、到達した階層の数字のみを比べても意味はないんだよなぁ。

 俺はとっくに、うえこうえんダンジョンの地下千階なんて百回以上もクリアーしているから。

 最下層にはねんしていた魔王はいなかったが、その代わり巨大な『黒竜』が待ち構えており、黒竜を倒すと『ダンジョンコア』が手に入った。

 このダンジョンコアを持っていると、そのダンジョンの好きな階層に自由自在に移動できる。

 このモンスターの素材が欲しい、などという時に非常に便利なのだ。

 強くなるために、最下層付近のモンスターとばかりと戦って鍛錬するという手も使えるので、ダンジョンコアを手に入れると冒険者としては色々とはかどる。

 ただ、最下層のボス黒竜を倒さないと手に入らないから難易度は非常に高い。

 俺以外の冒険者が最下層に到達して黒竜を倒すと、やはりダンジョンコアが手に入って、その人とパーティメンバーは好きな階層に移動できるようになる。

 先着一人しかダンジョンコアを手に入れられないわけではないから、是非とも頑張ってほしいところだ。

 このままだと、軽く一世紀はかかってしまうかもしれないけど。


「そろそろダンジョンに行こうかな」

「頑張ってと言うのも変ですね。今の君はものすごく頑張っていますから」

「ただのルーチンワークですよ」

「ルーチンワーク化はしているね。いってらっしゃい」


 税理士さんとの打ち合わせを終えてから、いつものようにうえこうえんダンジョンへと向かうと、そこで思わぬ人物と出会ってしまった。


「久しぶり、

「……」

「どうかしたのか? 

「私に話しかけないで! Eクラスの落ちこぼれのくせに!」


 久しぶりなので声をかけたのに、まさか大声で怒鳴られてしまうとは……。

 Bクラスになったは、同じクラスの人たちとパーティを組んでうえこうえんダンジョンに潜っていると聞いた。

 Bクラスは優秀な部類には入るのだけど、やはりAクラスには劣るとされている。

 そして冒険者高校の校長が創設した、学年に関係なく優れた冒険者のみが所属できる特別クラス。

 夏休みまでにダンジョン探索で頭角を現し、そこに転籍する生徒が増えてきた。

 Bクラスでも、Aクラスに上がったり、逆にCクラスに降格する生徒も出てきて、そのせいでパーティメンバーが変更になったりと、なかなかにエグイ人間関係が展開されているそうだ。

 俺はずっとボッチなので、まったく関係ないけど。

 その前に、結局一学期の始業式と終業式の日以外は一日も登校しなかったからなぁ。

 パーティメンバーと知り合う機会すらなかったという。

 向こうが俺を避けていたのもあって久しぶりに顔を合わせたのだけど、はますます向上心が強くなったようだ。

 俺みたいなEクラスの落ちこぼれと話をしている時間はないし、うつもりはないので、今後二度と話しかけてくるなと言われてしまった。


「(俺が勇者じゃなかったら、シッョクで落ち込んでいたかも)」

「あなたのような、Eクラスなのに一学期でひとつもクラスが上がらなかった、やる気のない怠け者とはもう金輪際つき合わないから。話しかけてこないで」

みつはし、さすがにそれは少し言いすぎじゃないか?」


 Eクラスとは違って、Bクラスには人格者がいるようだな。

 のパーティメンバーだと思うが、彼女の発言に注意をした。


「彼だって別に、サボっているわけではないのだから。むしろ一人で、よく頑張っていると思うけど……」


 ノージョブでレベル1のままの俺が、毎日ダンジョンに潜ってスライム狩りにいそしんでいる。

 という風に見せかけつつ、俺は最下層で強いモンスターと戦っていたけど、たちが気がつくはずもなかった。

 真実を教えるかどうか悩んでいる間に、こうなってしまったのは俺のミスなのかな?


「私たちは今、Aクラスに上がれるかどうかのぎわなのよ。Eクラスの生徒としゃべっている時間すら惜しいの。私はBクラスで、りょうはEクラス。ここまで差があるのに、交友関係があったらお互いが不幸になるだけよ。世の中ってそういうものじゃないかしら?」

おさなじみなんだろう? 彼?」

おさなじみだった、ね。もう終わったことよ。じゃあね」


 そう言い残すと、は先にダンジョンに入って行ってしまった。


「向こうがそう言うのだから仕方がないよな」


 ダンジョンが出現するまでは仲が良かったのに、まさかこんなことになってしまうとは……。

 今の彼女に俺の真実を……どうせ信じてもらえないだろうし、ここまで言われたあとに手の平を返されても頭にくるだけだ。

 彼女との関係修復は難しいだろうし、俺から手を差し伸べるなんてこともしない。

 俺は聖人君子ではないのだから。

 これからは、ますますダンジョン探索と動画撮影に時間を費やすことになりそうだな。

 他にも、色々とやりたいことやってみるか。




「スライムを倒したあとに採取できる『スライムの粘液』ですが、様々の用途に使える素材で、これから需要が爆発的に増えていくでしょう。冒険者特性がない人でも、キッチリと装備を整えれば倒せるので、スライムを集中的に狩るという方法で生きて行くのもアリだと思います」



 ダンジョン探索情報チャンネルでは、サブチャンネルを設置することにした。

 その名も、ダンジョン探索『後』情報チャンネルである。

 自宅の空いている部屋にカメラを設置してプロト1が撮影している中、仮面をかぶった俺が、色々とやるわけだ。

 今日は、『ポーション』の作成を撮影していた。


うえこうえんダンジョンの二十六階層と他にも数十の階層には、『薬草コケ』が自生しています。これを材料にの治療や、体力の回復を促すポーションが作れるのですが、調合した薬液を安定化させるため、微量のスライムの粘液が必要なのです。これを入れないと、ポーションはすぐに品質が劣化してしまいます。実際に採取してきた薬草コケを材料にポーションを作り、安定剤としてスライムの粘液を混ぜるところまでを実演してみましょう」


 ポーションなんて目をつぶっても作れるし、どうせそのうちこの世界でも普及するだろう。

刊行シリーズ

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