第4話 幼馴染との別離 ③

 いまだ俺以外の人類は薬草コケの採取に成功していないが、たとえスライムでもモンスターを倒すと、ポーションのようなアイテムをドロップすることがあるのだ。

 魔石、鉱石、素材以外の、ランダムドロップアイテムという枠になる。

 世界中で毎日多くの冒険者たちがスライムを倒しているので、すでにいくつもドロップした例がSNSなどで報告されている。

 その中でもポーションは、かなり確保されているアイテムであった。

 しかも、国家や企業が研究のために高額で買い取るので、いっかくせんきんを求めてダンジョンに入る人が増える原因となっていた。


「製造方法を秘匿しても意味がないからな。俺一人が作れるポーションの量なんてたかがしれているんだから」


 そこで、ポーションの作り方を詳細に説明した動画を世界中に公表してしまうことにした。

 ダンジョン探索情報チャンネルは、ダンジョンの詳細な説明とモンスターの倒し方がメインなので、サブチャンネルでポーションの作り方などのアイテム作製を公開することにしたわけだ。


「これでポーションの完成です。雑に作ったり不純物が混ざると品質が落ちてしまうので、品質管理は徹底していただきたいと思います。水は純水が理想ですが、ミネラル分が少ない軟水であれば、そう品質は落ちないと思います。次に……クッキングコーナー!」


 クソ真面目にポーションの作り方を実演したので、次は視聴回数を求めて料理を作ってみることにした。


「スライムの粘液を使って、スライムゼリーを作りたいと思います! とても簡単! このように一旦完全に乾燥させてから、粉末にしたスライムの粘液を粉寒天やゼラチンと同じように使えばいいだけです。今日は、コーヒーがあるのでコーヒースライムゼリーと市販の100パーセントりんご果汁を使ったアップルスライムゼリーを作ります!」


 プロト1が撮影するなか、鍋にコーヒーとりんご果汁を火にかけ、そこに粉末状のスライムの粘液を投入。

 数分煮立たせてから、これを容器に入れて冷蔵庫で冷やす。

 撮影しているので、途中で事前に作っておいたスライムゼリーを冷蔵庫から取り出すのはお約束であった。


「見てください。スライムゼリーはこんなにプルンプルンなんですよ」


 容器から取り出したスライムゼリーを皿の上に落とすと、再びスライムの形に戻った。

 これこそが、スライムゼリーと普通のゼリーとの大きな違いであろう。


「形はスライムで、手で持ってもベトつかないですし、こうやって食べると美味おいしいコーヒーゼリーです。スライムの粘液って不思議だね! スライムはどこのダンジョンでも一階層にいるから、欲しい人はちゃんと装備を整えてから討伐に行きましょう。それじゃあまた!」

「カットです」

「プロト1、ちゃんと撮影できているか?」

「ばっちりですよ。すぐに編集してあげときます」

「頼むよ」


 こうして始まったサブチャンネルだけど、スライムゼリーの作り方がとてつもなくバズったようで、動画再生数はすぐに本チャンネルの解説動画を追い抜いてしまった。


「……おかしい……せぬ」


 本チャンネルこそが冒険者たちの求める情報だろうに……ああそうか。

 人口比で考えれば冒険者適性がなく、ダンジョンに潜れない人たちの方が圧倒的に多いのだから当然か。

 翌日、動画投稿サイトの運営会社からメールが来て、自分の所で独占的に配信してくれたらインセンティブを弾むと言われたので、言われるがまま独占契約を結んだ。

 契約金がメジャー級にえげつない金額で、税理士さんが素で引いていたけど。




ふる企画は、設立されてからまだ半年もっていませんが、とにかく売り上げがえげつないので、弁護士と公認会計士を入れようと思います。ふるさんは、どう思われますか?」

「必要なら、じま先生にお任せます」

「知り合いにちゃんとわかっている弁護士事務所と公認会計士事務所があるので、業務委託しましょう」

「そうですね」

「普通の人は報酬が高いなぁと思いますけど、ふる企画の売り上げなら大した支出じゃないですし、この二つの事務所なら、トラブルがあった際には必死に対応してくれますよ。能力が高いし、ふるさんは大切なお客様だから。彼らに支払う報酬も経費としてあげられますので、多少は節税にも……まあ、やはり焼け石に水ですけどね」

「なるほど。じゃあ、ダンジョン探索と撮影に行ってきます」



 税理士のじま先生から、用心棒代わりの弁護士と会計士を雇った方がいいと言われたので、お任せして契約を結んでおいた。

 それはまつなことで、今日も夜までダンジョンに潜ったあと、初めて『買取所』に顔を出した。

 買取所は国が運営しており、冒険者から魔石、鉱石、素材、ドロップアイテムを買い取っている。

 安くたたかれるといううわさがネット上で流れていたが、俺から言わせるとそこまでボッタクリではないと思う。

 社会経験のない冒険者が、買取所以外で成果を売って利益率を上げるというのは、言葉で書く以上に難しい。

 買い取る側だって、自分が一円でも多く利益を得たいのだから当然だ。

 海千山千の社会経験豊富な、場合によっては詐欺師モドキの人間にだまされ、かえって損をする冒険者が多かった。

 冒険者は社会経験が少ない若者が多いので、どうしてもだまされやすいのだ。

 大半の冒険者は一度痛い目を見てから、買取所に戻るという定番コースを歩んでいる。

 なにかの漫画で見たな。


『痛い目に遭わないと覚えない』って。

 ただ、買取所を運営している社団法人は、各省庁からの天下りが多数集まっているのも事実で、この前野党が天下りを撲滅すべく、対策会議を立ち上げるとニュースでやっていた。

 彼らは本当に、対策会議を立ち上げるのが好きだよな。

 いわゆる十八番おはこってやつか。

 話題になったからというわけではないが、俺も買取所デビューをしようと思ったわけだ。

 向こうの世界で色々と経験したおかげで、その気になればダンジョンからの成果を一番高く売って利益を増すことも可能なのだが、手間を考えたら、買取所に売り飛ばしてしまった方が楽でいい。

 それに俺の場合、動画配信でばくだいな利益を稼いでいるというのもある。

 ただ、たとえば国内外の大企業などがまとめて高く買い取りますよと言えば、状況に応じては独占契約を結ぶかもしれないし、その辺は臨機応変にというやつだな。


「買い取りですね。スライムの魔石、鉱石、スライムの粘液。量がとても多いですね。もしかしてあなたは、アイテムボックス持ちなのですか?」

「はい、もうそろそろいっぱいになったので」

「そうでしたか。査定が終了するまでお待ちください」


 試しに、スライム百匹分を売却してみることにする。

 受付のお姉さんが俺をアイテムボックス持ちだと見破ったが、スライム百匹分を収納できるぐらいだとそこまで珍しくないので、特に気にされなかった。

 本当はほぼ無限に仕舞い込めるのだけど、他人が持つアイテムボックスの容量を探る方法なんて存在しないから、買取所の人も冒険者からの自己申告を信じるしかなかったのだ。


「お待たせしました。税抜きで二百万円になります。報酬の渡し方はいかがいたしましょうか?」

「法人を作ったので、そこの口座に振り込みでお願いします」

かしこまりました。こちらの書類に必要事項を記し、法人の印鑑を押してください」


 現在、優秀な冒険者たちによる法人設立がブームとなっていた。

 冒険者特性があれば、週五日八時間、スライムだけ倒していれば、平均で年に一千万円以上稼げてしまうからだ。

 二階層のゴブリンの魔石と鉱石をメインにすれば、年収二千万円も難しくない。

 ただ、冒険者特性がない人がゴブリンを相手にすると高確率で殺されてしまうので、それがない人は複数でパーティを組んで、ゴブリンでなく効率よくスライムを倒すようになっていたけど。

 俺のスライムゼリーの動画がバズったせいで、今世界中でスライムゼリーが流行していた。

刊行シリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!4の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!3の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!2の書影
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!の書影