第4話 幼馴染との別離 ④

 世界中の製菓メーカーがスライムゼリーの製造に手を出し、そのおかげでスライムの粘液の買い取り価格が大幅に上昇していたのだ。

 後日の動画で、俺がスライムの粘液の性質についての説明や、他の使用方法を実演したことなども響いていると思う。

 食品、医薬品、その他工業製品などに添加する安定剤としても非常に優秀で、その方面の需要も徐々に増えている。

 スライムならば冒険者特性がなくても、ちゃんと装備を整えれば倒せる。

 高収入を目指す若者や、ダンジョン不況のせいで会社をリストラされた中高年が多数、ダンジョンの一階層でスライムを狩る光景が目撃されるようになった。

 冒険者高校の生徒たちは、ほぼ全員が二階層から下で。

 特別クラスは、十階層付近を主に活動の拠点としているらしいけど。


「(確かに悪くないな)」


 買取所はダンジョンのすぐ横にあるから、『アイテムボックス』がない冒険者からすれば運び込むのが楽だ。

 査定も早いし、報酬のもらい方も自由に選択できる。

 俺は口座への振り込みをお願いしたが、現金で受け取ることも、電子マネーで受け取ることも可能だった。

 なにより、確実に支払ってくれる。

 まさかこの現代社会で……などと思う人もいるかもしれないが、冒険者から高額で素材を買い取ると言って、支払わずにそのまま逃走する詐欺師があとを絶たなかった。

 そうでなくても冒険者は若者ばかりなので、熟練の詐欺師からすればだましやすい相手だったからだ。

 自分で交渉して素材を売りに行く時間があれば、その分ダンジョンに潜っていた方がもうかるという考え方もあって、買取所は非常に混んでいる。


「すみません、このようなドロップアイテムが出たのですが、銃なのでどうすればいいのでしょうか?」


 俺のあと買取所に入ってきた冒険者が、受付のカウンターに銃を置いた。

 パッと見た感じ、自衛隊の64式小銃に似ているので、ダンジョンで殉職した自衛隊員の装備がダンジョンに飲み込まれ、アイテム化したのであろう。

 ダンジョンに飲み込まれた時の影響で、銃弾は火薬による発射でなく、魔力によって発射されるように改良されているはずだ。

 どうして俺がそんなことを知っているのかといえば、とっくに『64式魔銃』をいくつかドロップアイテムとしてゲットしていたからだ。


「これはちょっと特別な品のようですね。査定にお時間がかかりますので、一週間ほどお待ちいただけますでしょうか?」

「わかりました。あとは、スライムの素材とドロップ品だけです」

「こちらはすぐに査定をします。お席でお待ちください」


 向こうの世界でも魔銃を取り扱う人たちがいたので、64式小銃が魔銃化しても特に驚きはなかった。

 それに、魔銃ってそこまで強くないからなぁ。

 どんな人が撃っても同じ威力を出せるのが利点となっており、あまり攻撃力がない人向けの武器だったからだ。

 主に軍に需要があったものだが、作るのがとても難しくて大量配備できないという欠点を抱えてもおり、必要な人になかなか支給できないという矛盾に満ちた武器だった。

 向こうの世界では、魔銃を使う人は弱いと思われることが多かったので、使わない人も多かったのも思い出す。

 なにより強いモンスターは、魔銃の弾丸なんて簡単に回避するか、その防御力ではじかえすか、魔法の『バリアー』で防いでしまうのだから。


「これは……ダンジョンで行方不明になった自衛隊員たちの装備が、ダンジョンで使用できる武器に変化したということなのか?」

「謎だ……。とにかく、上に報告して特別査定に回さないといけないな」

「これを持ち込んだ冒険者に、預かり証を渡さないといけませんね」

「忘れないようにしてくれ」


 買取所の職員たちは、お役人ぽい会話をしながら、64式小銃を囲んで長々と話をしていた。


「(戻るかな)」


 スライムの素材は売却できたので、俺は自宅へと戻った。

 気になったので、以前手に入れた64式小銃、9㎜拳銃、H&K USP、9㎜機関拳銃、89式5・56㎜小銃、M4カービン、5・56㎜機関銃MINIMI、M24 SWS、64式7・62㎜狙撃銃、銃剣、しゅりゅうだん、狙撃銃、対戦車砲、等々。

 魔銃化したのはいいけど、弾薬に制限があるからあまり使えないだろう。

 火薬式の銃弾や砲弾は規格が合うのに、一切発射できないからだ。

 残っていた銃弾や砲弾も魔銃に適したものに変化しているが、この世界の人間には作れないから補給ができない。

 残った弾を撃てば、あとは鉄の塊になってしまう。


「俺は弾も作れるけど、面倒だから嫌だな」


 弾を作って魔銃でモンスター狩りに使うよりも、自分で剣を振るって倒した方が圧倒的に早いし楽だからだ。


「研究用として売れるのかな? そうだ!」


 念のため自分の研究用として残す分を除き、俺は元自衛隊の装備を売ってしまうことにした。



「えっ? こんなに沢山のレアドロップアイテムが手に入ったのですか?」

「はい、運がよかったんでしょうね。なんか、スライムを倒したら次々とドロップしたんです」

「ダンジョンについてはよくわかっていないことも多いので、あり得ないとは言えませんね、査定に一週間かかりますが、よろしいでしょうか?」

「ええ、どうせ銃刀法との兼ね合いで、持っていてもいいことありませんからね」

「魔力で発射できる銃が存在するのであれば、これを冒険者が用いられるようにして、さらに成果をあげたいという思惑が政府にありまして、今国会で法改正の審議をしているのですが……」


 受付のお姉さんの歯切れが悪い。

 あとでニュースで確認したら、銃刀法の緩和は治安悪化を招くと、野党が猛反発している事実を知った。

 そして、また対策会議が立ち上がったのはお約束だ。

 俺からしたらどうでもいいので、とっとと売り払って、明日からもダンジョン探索と動画撮影を頑張っていこうと思う。

刊行シリーズ

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