第5話 岩城理事長 ①

「リョウジ・フルヤ。どこにでもいそうな普通のハイスクール生だね。彼が、日本中のダンジョンの解説と攻略方法、定位置にある危険なわなの紹介とその解除方法、効率のいいモンスターの倒し方、モンスターの解体方法まで実演付きで解説しているのか……。しかし彼は、フルフェイスのかぶとをつけているだけで、自分の正体を隠せると本気で思っているのかな?」

「プレジデント、彼はそこまで楽天家ではないと思いますよ。彼が利用している動画投稿サイトは我が国の企業だ。そこから情報が漏れても仕方がないと思っているはず。ですが、我々がそれを得意げに世間に漏らすほどバカではないと信じているのです」

「私もそう思うよ。で、日本政府はどうしているのかな?」

「彼の『フルヤキカク』ですか。さすがに一年目の決算が出れば気がつくんじゃないんですか? いつのまにかユニコーン企業が誕生しているのですから。ただ、日本の国税庁は機密を守れないでしょうね。どうせその頃には、世界中の国々で大企業の上層部が、彼の存在に気がつくでしょうけど。彼が、この世界に出現したダンジョン攻略のキーなのだと」

「しかし、世の中とは不公平なものだね。日本には階層の深いダンジョンが多数あって、冒険者特性が出る割合も世界で一番高いのだから。我が国も、中国も、インドも、ブラジルも、人口が多くなければ、大変なことになっていたよ」

「ですがプレジデント。日本は先進国で一番少子高齢化が進んでいる国です。いくら冒険者特性を持っていても、お年寄りがダンジョンでモンスター狩りに励みませんよ。もちろんごく一部の例外はどこの国にも存在しますけどね。元気なご老人というのは、いつの時代にも存在するものです」

「なにより問題なのは、各国の冒険者たちによるダンジョンレコードの差はほとんどないというのに、日本だけは、国内に確認された百二ヵ所のダンジョンすべての情報が、順番に動画で無料で見られてしまうことだよ。こっちは手探りでやっていて犠牲者も多いというのに……。日本は事前にダンジョンの構造や、モンスターの生息分布などがわかっているから、圧倒的に有利だ」

「世界中に情報が公開されている、日本のダンジョンに潜った方が早いのではないかという意見も多かったので、国によっては留学生名目で例の冒険者高校──日本にしては随分と急いで開校したものです──に優秀な冒険者の派遣を検討しているようです。日本政府も各国の要請を受けて、九月から世界中の留学生を受け入れるようで」

「我が国からの留学生も多いと聞くな」

「それはそれとして。彼の情報はまだ世間に公にするわけにいきません。世界中の国家の上層部や大企業、ちょうほう機関などがお互いをけんせいし合った結果、彼に手出しをしないという紳士協定が作られ、守られているようですが……」

「抜け駆けするところはあるかな?」

「一人でまだ世界中の誰も到達していないダンジョンの階層で、動画撮影をして解説をしながら強いモンスターを倒しているんですよ。拉致しようとしたら返り討ちに遭うに決まっているじゃないですか。当然我が国も手を出しておりませんが、プレジデントはそれをお望みで?」

「まさかな。状況が落ち着いたら、動画投稿サイト運営会社経由でアメリカのダンジョンの撮影もさせればいいじゃないか。エネルギーと資源はダンジョンから手に入れなければいけなくなったのだ。もし彼に一兆ドル払ったら惜しいと思うかね?」

「いえいえ、輪転機が大回転ですよ。機軸通貨の素晴らしい点ですな」

「そうだな。ところで、我が国の留学生の中で、彼を落とせそうな魅力的なレディーは存在するのかな?」

「わかりません。ですが、冒険者特性がない人物は留学させられませんからね。他国は対策を立てているはずなので、来年の四月までになんとかしたいと思います。日本の学校の新学期は四月なので」

「是非とも、我が国を代表するような魅力的なレディーを頼むよ。彼の女性の趣味こうもよく研究しておいてくれ。彼が国際結婚をしてアメリカ人になりたいというのなら、その自由意思を尊重して歓迎するのが、我がステイツに相応ふさわしい考えだと思わないかね?」

「それこそが、我がステイツのいいところですよ」



 そういえば、私の孫娘にも冒険者特性があるとかで、ロッキー山脈ダンジョンに籠もりきりだと妻が言っていたな。

 飛び級で大学を出ているがまだ十六歳だから、今度日本の冒険者高校に留学しないか聞いてみることにしよう。


***



ふる君、随分と久しぶりですね」

「そうですか? 一学期の終業式には会いましたよ。リモートで受けた定期試験の成績も落第ではなかったはず。この学校には、進学に必要な出席日数というものは存在しないので、これからも始業式と終業式にしか登校しない予定です」

「でもね。いくらここが冒険者高校でも、クラスメイトたちと友好を深め合ったりすることも大切で……」

「難しいんじゃないんですか? ほら」

「Eクラス一の落ちこぼれくん。一学期で学校を辞めなかったんだね。偉い偉い」

「「「「「「「「「「はははははっ!」」」」」」」」」」



 夏休み前と変わらずレベル1表示のままで、ジョブが手の平に浮き上がってこない俺をバカにするクラスメイトたち。

 彼らはもう、ほぼ冒険者としての将来が決まってしまった。

 最初はEクラスでも、努力と成長を重ねて上のクラスに上がった人たちもいるのだけれど、逆にほとんど成長できずで、二学期になってもEクラスから抜け出せない人もいる。

 俺をバカにしている連中は、おそらくこのまま卒業までEクラスから抜け出せないだろう。

 そんな落ちこぼれた彼らが、俺をバカにすることで心の安寧を保つようになるのは、容易に想像がつくというものだ。

 俺は動画配信のインセンティブでおおもうけしているから、ダンジョンで手に入れたもので売ったのはスライムとレアドロップの銃だけだ。金額は大したことがない。

 魔銃を沢山売ったあと、まったくレアドロップアイテムを獲得していないことになっているので、あれはたまたまだと買取所に思われるようになっていた。

 そのため俺もクラスが上がっておらず、どうやら定期試験の成績がいくらよくても、クラス昇格しないようだな。

 俺からすれば、退学にならなければ別に問題ない。

 それにしてもとう先生は、よくこんなクソみたいなクラスの担任を辞めないでやっていられるものだ。

 見た目はわいいし、人は良さそうだけど、空気に流されそうな人だからなぁ。

 こういう人の『善意』のせいで、不幸になる人間は意外と多い。

 なるべく関わり合いにならないようにしよう。


「では、俺はこれで」

「負け犬君、退場ぉーーー!」

「「「「「「「「「「ははははっ!」」」」」」」」」」

「みんな、やめなさい!」


 とう先生も、無駄なことをするな。

 彼らは、俺をバカにすることでクラスの結束を保っているというのに。

 彼女は担任なのにクラスで浮いているようだけど、きっと一緒に俺をバカにすれば彼らと仲良くなれると思うよ。

 人としてのランクは一緒に落ちてしまうけど。



「二学期から留学生が来るって本当だったんだな」


 うえこうえんダンジョンに向かうべく校門に向かうと、そこに外国人の集団がいた。

 この学校の制服を着ているので、うわさの留学生なのであろう。

 日本はダンジョンの数が多いから、海外から留学してくる人たちが多いと聞いた。

 全員、すでに自分の国のダンジョンで大きな成果を上げている人たちばかりだそうだ。

 Eクラスの連中みたいな留学生を、わざわざ受け入れる意味がないからな。


「特に、女性はれいな子が多いね」


 というのは冗談で、最近自作に成功したスカウターで、留学生たちのレベルを見てみたのだ。

 本当は手の平を見ないとわからないのだけど、俺がどうにか改良して、頭上に表示されるようにした。

 向こうの世界にはスカウターなんてなかったから、改良にはかなり苦労したのを思い出す。

刊行シリーズ

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