第6話 ランダムシャッフルタイムと三人の女神たち ①

「一階層にオークが出現かぁ。いかにもランダムシャッフルタイムだな。なつかしい」

「おい! 冒険者特性がない俺たちがオークになんて勝てるものか! 逃げるぞ!」

「今日の稼ぎどうしようか?」

「バカ! 死んでしまったら、明日以降の稼ぎもなくなってしまうじゃないか!」

「実入りが……」



 うえこうえんダンジョンの一階層に突如オークが出現し、スライムを狩っていた冒険者たちを恐怖のどん底におとしいれていた。

 冒険者特性がなければ二階層のゴブリンにすら勝てないのに、オークに勝てるわけがないからだ。

 俺なりに分析したところ、この世界の冒険者でオークに勝てる冒険者はとても少ない。

 全高三メートルの二足歩行をする豚人間に、普通の人間が勝てるわけがないからだ。

 素手の人間は、熊はおろか、他の大型野生動物……犬にすら勝てないのだから。


「おい! あんたは逃げないのか?」


 逃げ惑う冒険者の一人が、オークが接近してきても動揺しない俺に声をかけてきた。

 逃げないと死んでしまうよという、親切心からであろう。


「これはどうもご親切に。ですが、倒すので安心してください」

「倒す?」

「このように」


 俺が予備の剣をオークに向けてとうてきすると、それは額のド真ん中に命中。

 脳を破壊して、一撃で即死させることに成功した。


「えっ?」

「とまぁこんな感じに。オークの死体を回収。ランダムシャッフルタイム時に乱入したモンスターは、必ずレアアイテムをドロップするな。ドローンたちによる撮影も成功」

「……ああっ! その白銀のフルフェイスかぶとよろいは……ダンジョン探索情報チャンネルの!」

「またオークが出たな。早く逃げた方がいいぞ」

「ううっ……惜しいけど……」


 自分で動画を作って配信したはずなのにすっかり忘れていたが、探索者たちはしっかりと俺の動画を見ていてくれたようだ。

 一階層にも冒険者の数は少なく、大きな実入りを狙ってダンジョンに潜っていた人たちも、実際にオークを見たらすぐに撤退してしまった。

 レベル25アサシンのなかでも、一日に二~三体倒せれば上出来くらいの強さなのだ。

 冒険者特性を持たない人がオークに挑むなんて、無謀以外の何物でもなかった。


「とはいえ……」


 俺からすればなので、広大なうえこうえんダンジョンの一階層に出現したオークたちは、短時間ですべて倒すことに成功した。

 ランダムシャッフルタイム中はドロップアイテムの出現率も上がり、俺からしたらボーナスタイムみたいなものだ。


「次は……二階層というわけにもいかないか」


 いわ理事長の依頼で、留学生たちのフォローをしなければいけない。

 すぐさまダンジョンコアを用いて、日本のトップランカーと実力差がないどころか、彼らよりも強いであろう留学生たちを探す。


「二階層以下……あまり冒険者がいないな」


 動画配信で忠告していたからかな?

 一階層でも、ランダムシャッフルタイム時はオークが出現するのだ。

 下の階層に行けば行くほど、この世界の冒険者では瞬殺されるであろう強力なモンスターたちが出現する。


「……間に合わなかったか……」


 二十五階層で、冒険者たちの死体を見つけた。

 まさか、ランダムシャッフルタイムの間中、うえこうえんダンジョンの入り口で冒険者たちを追い返すわけにもいかないからな。

 俺の動画を見て休みを取っている冒険者たちが思ったよりも多く、ダンジョンに入った冒険者の数はとても少なかったのは幸いだった。


「留学生たちは二十五階層にもいなかったか……。さすがは、わざわざ難関ダンジョンのある日本に留学できるほどの逸材たち」


 ロックゴーレム、アシッドスライム、ビッグウルフ、キラーベア、ダブルヘッドタイガー等々。

 本来なら、二百階層以下に出現するモンスターたちが出現し、ランダムシャッフルタイム時にダンジョンに入った冒険者たちに、人生最後の後悔をさせた。

 実力があれば、倒せば確実にレアアイテムをドロップするので美味おいしい話なんだけど、この世界にダンジョンが出現してまだ二年もっていない。

 もっとレベルを上げなければ、ただモンスターたちのじきになってしまうだけだ。


いわ理事長も甘い部分があるな。ランダムシャッフルタイム中、実力が伴わない冒険者たちがダンジョンに入るのを止めればいいのに」


 とはいえ、冒険者とは自由業である。

 今が稼ぎ時だと判断して、ダンジョンに入る冒険者たちを止める権利などないのだから。


「三十七階層……気配を感じたぞ!」


 もしかしたら、三十七階層は世界レコードじゃないかな。

 なるほど、留学生は優秀な者たちであり、難易度は高いが実入りは多い日本のダンジョンに挑戦する資格があるというわけか。

 外国のダンジョンの大半は、日本のダンジョンに比べると階層が少ないからな。

 どうしてまだ海外のダンジョンに潜っていない俺にそれが理解できるのかといえば、これらのダンジョンはすべて向こうの世界から飛ばされてきたものばかりだからだ。

 細かい差だが、入り口の写真を見れば、向こうの世界のどのダンジョンだったかがすべて俺にはわかる。

 すべて一度攻略したダンジョンばかりなので、忘れるはずがなかった。


「これはもしかして………ベビードラゴンが出現しているのか?」


 ベビードラゴンは、三百階層より下で出現するモンスターだ。

 ベビーなんて名前がついているが、それはただドラゴン種の中で一番小さいというだけで、その強さは驚異的だ。

 なによりの証拠が、三十七階層に一匹しか出現していないことである。

 本来生息している大王バッタたちも決して弱いモンスターではないというのに、ベビードラゴンに恐れをなして逃げ出している状態なのだから。


「あっ! ダンジョン探索情報チャンネル!」

「俺はチャンネルじゃないけど……」


 ベビードラゴンに恐れをなして逃げてきたのであろう。

 留学生たちと思われる集団が、俺を見て声をあげた。

 ダンジョン探索情報チャンネルは世界中で大人気だから、俺の格好を見てすぐに気がついたようだ。


「ベビードラゴンには勝てないと判断し、撤退する決断力は悪くない」


 冒険者は、ダンジョンに潜って成果を持ち帰り続けることが重要なのだ。

 無謀な戦いを選んで死んでしまうなんて、愚か者がすることなのだから。


「ダンジョン探索情報チャンネル! 実は、特別クラスのトップ3が、俺たちを逃がすために時間稼ぎをしているんだ」

「それはあまりにも無謀だろう」

「でも、誰かが残らなければ我々は全滅していた」

「ベビードラゴンはあの巨体なのに素早いからな。了解した、急ぎ救援に向かう!」

「えっ? 速っ!」


 今のトップ3とやらの実力でも、あとどのくらい時間稼ぎができるか。

 死なれるといわ理事長がうるさそうなので、全速力でベビードラゴンの元へと向かうのであった。


***



「ホンファさん、アヤノさん。まだ生きていらっしゃいますか?」

「なんとかね……。しかし貧乏クジを引いたね」

「やはり、ダンジョン探索情報チャンネルの情報どおり、まだ未熟な私たちがランダムシャッフルタイム時にダンジョンに潜るのは危険でしたね……」

「レアドロップアイテムゲットし放題という誘惑に負け、特別クラスとAクラスの全員がダンジョンに潜ることを決めてしまったのです。彼らの策に乗せられた私たちが間抜けだったのだと思います」



 理事長に処分された校長と教頭が最後に言い残した、理事長への嫌がらせを兼ねた誘い文句。

 危険なランダムシャッフルタイムも、エリートである特別クラスとAクラスなら問題なく生き残れるし、多くの成果を得られるはず。

 そんな言葉に乗せられた私たちは、案の定命の危険にさらされていました。

 もし私たちになにかあったら、自分たちを処分した理事長の顔に泥を塗ることができると考えたのでしょう。

刊行シリーズ

異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!4の書影
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