七話

「待て! お前達は何者だ!?」


 入り口には兵士達がいて、ピリピリしている。


「この方を誰だと思ってる!」

「リン、けんごしはダメだよ。えっとすみません、マルスと申します」


 王家のあかしである短剣を見せる。


「こ、これは! 失礼いたしました!」

「おい! すぐに守備隊長を呼んでくれ!」

「なんでこんなに早いんだ!」

「えっと、待ってた方が良いかな?」

「できれば、そのままお待ちいただけると……」

「わかった。じゃあ、大人しく待ってるね」


 五分ほど待っていると……。


「お、お待たせしました!」


 息を切らして、よろいを着た体格の良いおじさんが走ってきた。

 多分四十歳くらいで、なかなかいかつい人だ。


「いえいえ、平気ですよー」

「マ、マルス様ですね? お話は伺っております。私の名前は、ヨルと申します。ご案内しますので、ついてきてください」

「わかりました。案内をお願いします」

「え、ええ……あれ? 話と大分違う……」


 聞こえてますよー。

 いや、俺が悪いんだけどね。

 普通の対応をしてるだけで、印象が上がるとか……詐欺みたいで嫌だなぁ。

 都市の中に入り、デコボコした石畳の道を歩いていく。

 前世で見たイタリアに近い街並みだ。


「だいぶ、王都とは違うね」

「通称……見捨てられた都市ですか」

「うん、そう呼ばれてるらしいね。以前は、南にある国との交流拠点で栄えていたけど、今では断交状態だし」


 通りには店が立ち並び、人々が行き交っているけど……。

 やっぱり、活気がないなぁ。

 何より、王都に住んでいる人達とは、目が違っている。


「さて、ひとまず着きましたね」

「お腹減ったなぁ。みんなも、そんな感じに見えるね」

「も、申し訳ございません。なにぶん、貧しい地なもので」

「いえいえ、こちらこそすみません」

「噂には聞いてましたけど……ひどいですね」

「ところで、その奴隷は……」

「ヨルさん、この子は奴隷じゃない。首輪ないでしょ? 彼女は、俺の専属護衛兼メイドだ」

「し、しかし……獣人ですが……?」

「俺が変わり者なのは、知ってるでしょ?」

「い、いえ、いや、その……」

「ごめんごめん、返答し辛いよね。まあ、とりあえず対等に扱ってほしい」

「……わかりました」


 まあ、すぐには納得できないよね。

 うーん……社畜だった身としては、どうにかしてあげたいなぁ。

 視線を感じつつ、奥にある領主の館に到着し……。

 部屋へと案内され、領主と対面するはずだったんだけど。


「あれ? 領主さんは?」

「マルス様が領主だと伺っておりますが……」

「えっ?」

「初耳ですね」

「こちらがその通知となります」


 通知を見ると、領主の名前が俺になっている。


「ほんとだ、兄さんの判子が押してある」


 どうやら俺は、領主になったらしい。

 どうしよう? 俺のスローライフへの道のりは遠そうです。


◇◇◇◇◇


~国王視点~

 まあ、こうなるよな。

 執務室で作業をしていたら、二人が怒鳴り込んできた。


「おい、兄貴。本当に良かったのか!?」

「私の可愛いマルスを返して!」

「落ち着け、二人とも」


 目の前には弟であり、騎士でもあるライルと……。

 妹であり、宮廷魔道士であるライラがいる。


「あいつをあんなへきに飛ばすなんて!」

「そうよ! 可哀かわいそうじゃない!」

「俺とて、迷ったさ。父上と母上が残した、可愛い末っ子だ」


 両親は、あいつが三歳の時に亡くなっている。

 別にそれ自体は珍しいことじゃない。

 たまたま死んだのが、国王と王妃だったということだ。


「だったら!」

「どうして!?」

「俺達が甘やかしすぎたからだ」

「そ、そいつは」

「でも、あの子には……」

「わかってる、気持ちは同じだ。両親をほとんど覚えていないマルスを、俺達は親代わりのように可愛がってきた。そのせいで、穀潰しと言われてしまうほどに」

「でも、あいつは頭も良いし、意外と人気あるぜ?」

「そうよ! それに優しい子だわ!」

「ああ、知ってるさ。しかし、俺達のせいであいつの未来を閉ざすわけにはいかない。このままここにいたら、俺達は甘やかしてしまう。もう、成人したのだから自立しないといけない」


 そう、穀潰しなどと言われているマルスだが。

 下の者に偉そうにしないし、上の者にびたりもしない。

 あくまでも自然体で接するため、意外と人気は高い……一部を除いて。


「そうか、そうかもな」

「むぅ……悔しいけど、お兄様の言う通りね」

「それに、もう少しで婚約破棄されるところだったんだぞ?」

「シルク嬢だな?」

「なるほど、あちらで領主として手柄を立てれば……」

「そういうことだ。この貴族社会において、あんな良い子はいない」

「わかった。じゃあ、静かに見守るとするぜ」

「そうね、あの子が妹になったら嬉しいもの」


 ふぅ、どうにか説得できたか。

 この二人には内緒で進めていたからなぁ。

 だが、俺はそんなに心配していない。

 リンは護衛としても秘書としても優秀だ、きっと力になってくれるだろう。

 それに最後に会った時、あいつの目はいつもと違っていた。

 もしかしたら、何かやってくれるかもしれないな。

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影