八話

 うーん、こいつは予想外の展開。

 机に突っ伏して、ダラダラしてみるものの……状況は変わらない。


「はぁ、自分の部屋に帰りたい」


 柔らかな布団で寝たい。

 あったかいごはんが食べたい。

 出ていく時の決意は何処どこへやら……でも、そういう性分だし。


「いや、帰る場所ありませんよ?」

「そうだった、もう帰れないんだった」


 そう、俺は追放された可哀想な王子。


「ヨヨヨ、可哀想なマルス」

「はい?」

「ううん、何でもない……よし、行くとしますか」


 まずは、状況を確認してみよう。

 快適なスローライフのために!

 ひとまず街に出て、色々と眺めてみる。

 そして、ヨルさんも同行してるので、色々と質問をしていく。


「何が、一番問題ですか?」

「やはり……食料ですかな」

「まあ、そうなりますよねー」


 法整備や生活に必要な最低限は、大体そろってるから問題ない。

 というか、素人がかつに手を出して良いもんじゃないし。

 そういうのは長年の積み重ねや、先人の知恵と教えによって作られるものだ。

 下手に手を出すといびつになり、後々の問題になるかもしれない。


「あとは……奴隷ですか」


 奴隷問題か……これも、迂闊に手を出して良い案件ではないよね。

 ただ、改善するくらいならしても良いかな?

 きちんと考えて行動しないと……うーん、道のりは険しいなぁ。


「リンさん? 何か問題が?」

「リン、遠慮なく言うと良いよ。どうするかわからないけど、発言は自由だからね」

「はい、ありがとうございます。我々を解放しろとは言いません。しかし、生活の改善を求めたいと思います」

「しかし、そんなことをすれば……今までのやり方を変えてしまっては……」

「ウンウン、ヨルさんが不安になるのはわかるよ。でも、彼らはごくごく普通の生活を求めているだけだ。彼らだって、俺達と変わらない。ただ、美味しい食事をして、暖かい寝床について、家族と共に過ごしたいだけだよ」


 そうだ……何も奴隷解放をしなくても良い。

 ひとまずは、彼らに当たり前の生活を送ってもらおう。

 それらも、衣食住が揃ってからの話だ。


「そ、それは……ですが、難しいです。人族ですら、満足な生活ができていないのに」

「うん、わかってるよ。じゃあ、ますは食料問題だね。次は?」

「毛布類などかと思います。魔獣の毛皮が必要になってきますので」

「うん、それも食料問題を解決すれば良いね。他には?」

「あとは、薬草類の不足でしょうか。いやしの力の使い手などそうはいませんし……冒険者の方々に依頼しますが、それでも費用はかかります」

「ふんふん、なるほど」


 でも、冒険者の仕事を奪うのは良くないかも。

 この世界にはダンジョン系はないみたいだし……。

 仕事がなくなれば、盗賊などになってしまうかも。


「あとは、出生率の問題かと……これも食料問題ですね」

「うん、そうだね。鉄分やタンパク質、あとビタミンとかが足りないんだよねー」

「タンパク質? 鉄分? ビタ……それは何ですか?」

「あっ──えっと、栄養ってことだよ。肉や魚を食べないと、健康に悪いからね。あと、母乳とかも出なくなるし」

「よくご存知で……博識なのですね」

「いやいや、大したことじゃないですよ。暇だったんで、図書館で本を読んでいただけですね」

「ふむ……」

「もし何か意見や言いたいことがあったら、遠慮なく言ってくださいね? 俺は基本的には知らないことが多いですし」

「い、意見ですか……?」

「うん、否定的なモノでも構わないからさ。もちろん、俺が間違ってたら言ってくれるとありがたいし。リンにも、獣人だからとかっていう理由じゃなければ、色々言っても良いし」


 前世も含めて、俺はそんな上等な人間じゃないし。

 ダラダラとスローライフとかしたい人間だ。

 間違いもするし、色々と変えるのも怖い。

 だから、みんなの意見を聞かないとね。


「ええ、お願いします」

「すみませんでした!」

「はい?」

「ずっと、リン殿やマルス様に失礼な態度をとってしまいました。しかし、話してみてわかりました……貴方は穀潰しなどと言われる人ではないと。どうか、よろしくお願いします」

「あはは……いや、それは合ってるから良いんですよ。でも、よろしくお願いしますね」


 ひとまず、都市の公衆トイレの確認をする。

 一応中は個室になっていて、そこまで臭くもない。

 それらが、都市の中にいくつか設置してあると。

 その辺りは中世とは違うみたいだね。

 ちなみに、トイレは基本的に、山などから取れる鉱石を加工して作られている。

 設置してある魔石に触れれば、水魔法が発動して自動で流れる仕組みだ。


「これも一家に一台は欲しいですね」

「ええ、どうしても人が並んでしまいますから。ですが山のある方は、凶悪な魔獣や魔物がいまして……」

「そうですか」


 となると、戦力が必要になるかなぁ。

 ふんふん、何となく見えてきたかも。


「この下はどうなってるんです?」

「穴を通って、地下へと流れていきます」

「その地下には行けますか?」

「ええ、行けますが……少しニオいますよ?」

「まあ、それは仕方ないかな。ただ、一度は見ておかないと」

「なんと……ええ、わかりました。では、ついてきてください」


 都市の中心から外れ、とある建物に入り、階段を下りていく。


「リン、ここで待ってるかい?」

「いえ、私も行きます……同胞がいますから」


 申し訳なさそうな顔をして、ヨルさんが先に進んでいく。

 そして……地下では、はいせつぶつが管を通して流れ込んでいた。

 川の流れのようになっていて、奥の方に続いている。

 うーん、下水道に近いかな?

 そして……そこでは、獣人達が働いていた。

 視線を感じるけど、今はどうにもできない。


「これは、どういう仕組みですか?」


 今まで気にしたこともなかったからなぁ……前世も今世も含めて。


「まず家庭用の水や、トイレの水などが流れてきます。そして浄化の魔石によって、徐々に綺麗になって流れていきます。それらは、後ろの森に流れていきます」


 うーんと……水魔法を魔石に込めて……それを段階的に設置して……押し流しながら、徐々に汚いモノを綺麗してるってことか。


「あとは、排泄物を食べる魔獣アロンを放っております」

「えっ? どれどれ……おっ、いた」


 鼻をつまんで水の底をのぞくと、っきい魚がうようよいた。

 バスみたいな魚で、五十センチくらいある。


「では、戻りましょう」


 戻りながら考えてみる。

 ……労働体制以外に関しては問題ないかな。

 あとで、給与とか労働時間について考えないと……。

 それ以外は、きちんと整備されている感じだ。

 まあ、魔法と魔獣を上手うまく利用して、いかにも異世界って感じかな。

 トイレに関しては、鉱石を手に入れてトイレを増やすだけだ。

 よし、次の場所に行こう。

 でも……とりあえず、お腹減ったなぁ。

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影