四.人嫌いは面倒事を回避したい ③
淡いピンクの花が咲き誇る開けた場所に出てきた。この森にこんなところがあるとは知らなかった。
「これ、植えているものかな」
『森で栽培をする者がいるものか』
「じゃあ天然のものか」
アルがニヤリと笑う。ブランはそれを見て首を傾げていた。この花がどういうものか知らないらしい。
「これ、糖蜜花っていう植物でね。煮詰めると華やかな香りの
『なに、水飴とはあののびる甘味か!? 早く採取するのだ!』
「分かっているよ」
パシパシ叩いて催促されて、苦笑しながら魔力を駆使して花びらを採取した。魔力を動かすのは攻撃には不向きだが、対象を傷つけないので細かい作業には最適なのだ。
「じゃあ、もう少し進んでから野営にしよう」
『早く行くぞ!』
糖蜜花を採取し終わり改めて歩を進めた。
野営に適した場所を見つけて準備を始める。既にだいぶ暗くなっていて、慌てて光を
「今日の晩ご飯は黒猛牛の煮込みにするからちょっと待ってね」
『なに? 我は
「ダメ。違う食べ方もしたいの」
テントをたてて調理を開始すると、周りをチョロチョロとブランが動き回った。よほど腹が減ったらしい。
まず鍋に糖蜜花を入れて水を加える。それを弱火で火にかけた。これはとりあえず放置でいい。
次に別の大きな鍋に厚めに切った黒猛牛をどんどんと入れて水を追加し強火で煮る。大きく切った芋とニンジンも一緒に煮た。沸騰したところで
『旨そうな匂いがするぞ』
「もうちょっとだからね」
待ちきれない様子のブランを撫でつつ、糖蜜花の鍋をかき混ぜた。既に花の固体がなくなり、淡いピンクの透明な液体になっている。これを煮詰めることで糖蜜花の水飴が完成するのだ。
「よし、仕上げに……」
加熱が終わった鍋をあけると、黒猛牛のブラウンシチューが出来上がり。ここに隠し味として糖蜜花の水飴を少し入れると深みのある甘味が加わる。
「いいできだね」
『食うぞ!』
既に皿の前に座ってブンブンと尻尾を振るブランを見て笑ってしまう。気持ちは分かるのでからかうことはせず、皿にたっぷり肉の入ったシチューをいれた。自分の分には焼いたガーリックバゲットを添える。
『なんだ、これは! 旨いぞ!』
「美味しいね。さすが黒猛牛、ソースの味に負けない旨味がある」
アルがゆっくりと味わっている間に、ブランは口周りを茶色に染めながらガツガツと食べ進める。いつもより勢いがあるので、よほど気に入ったようだ。
『おかわりだ!』
「はいはい」
皿に追加のシチューを入れてやると再びシチューに熱中する。ブランがおかわりを催促する前に鍋をバッグに仕舞った。残りは明日の昼ご飯にするのだ。
糖蜜花の水飴もたくさんできたのでバッグに仕舞おうと考えたが、その前にちょっと考えて全粒粉ビスケットを取り出した。ビスケットにクリームチーズをのせ、その上から水飴をかける。
「……うまぁ」
『なんだ、それは! 我にも寄越せ!』
一口食べた瞬間に糖蜜花の華やかな香りが口に広がり、その後すぐに優しい甘味とクリームチーズのほのかな酸味がやってくる。たいして手間をかけていないのに、極上のスイーツのようだった。
シチューを食べ終えたブランにも分けると、食べた瞬間に目を見張って固まった。衝撃的な美味しさだったようだ。すぐに我に返り、味わいながら食べ尽くす。
『旨かった。もっとくれてもいいんだぞ?』
「だーめ。これは限りがあるんだから、大事に食べよう? 糖蜜花の種を採取しておいたから、落ち着くところを見つけたら栽培しよう」
『食べ放題だな!』
「いや、そんなには無理だと思うけど」
目を輝かせるブランに苦笑して、頭を撫でた。食べ足りなさそうにするブランに、昼間に採取していたアプルの実を渡す。
『……これも旨いのだが、さっきの衝撃の後だとな』
「……確かに」
アプルの爽やかな甘味は口をスッキリと潤して興奮を鎮めてくれたけれど、少し物足りなく感じてしまった。
揺らぐ火を見て



