六.狐をおだてる ②
「ブランが乗せて行ってくれたら助かるなぁ」
『……うむ。そこまで言うなら仕方あるまい。乗せて行ってやろう』
いかにも渋々という言い草だが、感情に正直な尻尾がそれを裏切っていた。盛大に振られている尻尾に吹き出してしまいそうになるのをなんとか
ブランは瞬く間に体長一メートルほどの姿になった。
「あれ? 本来の姿じゃないんだ?」
『森を移動するならこれくらいの大きさの方が便利だ。アルを乗せるくらい問題ないぞ』
「そうなんだ。じゃあ、よろしくね」
ブランの背にひらりと
「うわっ」
ビュンビュンと景色が過ぎ去っていく。空気の抵抗で体勢が揺らぎそうになり、ブランの背に伏せるような形で体にしがみついた。監視に察知されないようにするため、魔力を使って体勢を保つことも空気抵抗をなくすこともできない。
いつの間にか関所からは随分と離れていた。ブランの速さについてこられる魔物はこの辺りにいないようで、魔物と対峙することもなくただひたすら駆けた。
もう急がなくてもいいくらいの場所まで来ていたが、ブランが楽しそうに駆けているので止めず、気が済むまで走らせることにした。ブランに走ってもらうとアルが楽をできるという思惑もある。魔力を使っても察知されないくらい関所から離れたので、体勢を起こし魔力を補助に使ってのんびり景色を眺めることにする。といっても、ブランが速すぎて景色は流れていくだけなのだが、それもまた楽しい。
前方に聳える高い山々が段々と近づいてくるのを見ながら、ブランに身を任せて駆け抜けた。
『腹が減ったぞ』
「え、ああ、もう昼過ぎてるね」
『昼というか、もう夕方だ』
「……そうだね」
ブランが呟いて立ち止まった。ブランは駆ける間に楽しくなったのか、宙を駆けたり木々を跳び移ったりと中々アクロバティックな移動をしていた。立ち止まったのも樹上である。
日が傾き、オレンジ色になってきていた。通ってきた方を振り返れば、関所があるところは既に
「なんか壮観」
『うむ』
アルたちがいるのはこの森で一際大きい木だ。森を見下ろす位置に立つと広い森が一望できた。行く先を見ると両端の山により森は狭まっていき、山が交差する部分が崖になっていた。その先が山の谷間になっていて、ノース国の玄関口となる町がある。町の防壁が山の谷間を塞ぐようにあるので町中はここからは見えない。
「ノース国まではもうちょっとだけど、今日はここで野営にしようか」
『丁度良い位置だな。明日にはノースに入れる』
今日はこの大木の下で野営することにして、用意に取りかかった。



