七.ノース国国境の町ノルド ③
木が密集する森の奥地は、ほとんど人の手が入っていない様子だった。ノルドの町の冒険者はここまではあまり来ないようだ。ここまで来られる実力があれば、魔の森に向かって魔物と戦う方が利益になる。
今日の野営地を決めテントを設置した。結界魔道具を置いた後、温度調整風魔道具を設置する。これは、結界内を設定温度に保つ魔道具だ。風と火の魔法を組み合わせた魔法陣を刻んでいる。これはまだ省魔力できていないので低級の魔石では足りず、
『む。暖かいな』
「これのお陰だよ」
『また、珍妙なものを作ったものだ』
ブランが魔道具の風の吹き出し口を覗き込む。ブワァッと勢いのある風を受けて、ブランの長い毛が激しくかき乱された。
『むわっ。我の毛が……』
しょんぼりして魔道具から離れ、せっせと毛繕いしているのを横目に見つつ、
「ブラン、アンジュはどうやって食べる? そのまま?」
『むぅ。……アルが旨いと思うものを作れ』
「ははっ、分かった」
悩んだ末にアルに丸投げしてきたが、気にせずアンジュを取り出して鍋に入れる。一つを
蒸しパンと猪の角煮が出来上がっていたので、蒸しパンに切れ目を入れて角煮を挟む。ブラン用の皿には六つのせ、アルの分には二つのせた。ほのかに湯気が立ち、温かくて美味しそうだ。もう一枚の皿にはアンジュジャムをのせた作り置きのクッキーを並べる。
「よし、出来上がり」
『うむ、旨いぞ!』
「え、もう食べているの」
アルがクッキーの準備をしている間に、ブランはさっさと
『この肉は程よい脂がぷるぷるで旨いな。味の染みたオニオンと食べると更に旨い』
「ほんとだね。上手くできたみたい」
『うむ』
あっという間に食べきったブランは、ワクワクとクッキーに手を伸ばす。両手に持ってカプリと嚙みつくと、ほにゃりと目が垂れ至福の表情になった。アルも食べてみると、アンジュの甘さとほのかな酸味がバターをふんだんに使った塩味のあるクッキーと合わさり旨味を生みだしている。
『旨い……』
「美味しいね」
その後は無言で食べ進め、最後の一枚が残った。同時に手を伸ばしたアルとブランの視線が交差する。無言の駆け引きが続いた。
『……これは我のものだ』
「ブラン、たくさん食べたでしょう?」
『むむっ』
「……」
『……もらったぁあっ』
「いだっ」
顔に白い毛を叩きつけられた。ブランの尻尾だ。速すぎて避けられず顔が痛い。アルが顔を押さえた瞬間にブランが最後の一枚を口に放り込む。
「……ちょっと、ブラン。尻尾叩きつけるのは酷くない? 勢いがありすぎてすごく痛かったんだけど」
『ふふん。鍛え方が足りんのよ』
「ブランのスピードが速すぎるんだよ」
『油断大敵だ』
誇らしげにクッキーを飲み込んだブランをジトリと見据える。ブランのスピードに人が
「……まあ、食べようと思えば、僕はいつでも食べられるんだけど」
『なっ!』
アンジュのジャムは残っているし、クッキーの作り置きもある。今出していたものに
「後でお茶と一緒に食べようかな~」
『
「ブランだって卑怯だったよね」
『む……悪かった』
しゅんとした様子を作ってアルに擦り寄りきゅんきゅんと鳴く。その狙いは分かっているから、可愛い子ぶっても簡単にほだされないぞ。……でも、まあ、ちょっと意地悪なことを言ったかもしれない。
「まあ、いいよ。アンジュジャムクッキーは、また違う日に一緒に食べようね」
『……分かった』
渋々納得して頷くブランを撫でて、片付けを始めた。今日はさっさと寝て明日からの旅に備えようと思う。
日が暮れていく。明日からはノース国内の森を探索だ。ここはまだ魔の森ではないようだが、ノース国に接しているという魔の森とはどういう場所なのだろう。本で読んだだけでは分からない未知の場所を探索できると思うとワクワクする。
グリンデル国から離れてもあまり変わらず美しい星空を眺め物思いに



