第3章 庭の改装は劇的に ③
山神からの口添えもあり「もう十分です。これ以上いらない。持ってきても受け取りませんよ」と言いながら、もらっておくことにした。だが。
「さすがに申し訳なさすぎる。ちょっと待っててください」
「……ああ」
いったん家の中へと入り、ペンを取ってきた。「手を貸してください」といえば、素直に片手を出してくる。
「あんまり効果は変わらんらしいけど、これで」
きゅきゅっと手の甲に油性ペンで図を描き上げた。
「陰陽師といえば、やっぱり
手の甲に星印、
半開きの口で
どこか
ふと目を覚ますと、亀に真横から顔を
「うおっ」
思わず
起き上がると、亀が期待のこもる眼を寄越してくる。時間も時間だ、酒の催促だろうか。それとも他に何か言いたいことがあるのか。亀は言葉も鳴き声も発しない。山神が代弁してくれない時は、首を振ることで返答と意思を伝えてくれる。
「どうかした?」
亀が庭へと首を長く伸ばす。何事かとよくよく観察すれば、見慣れないひょろりと細い木が一本あった。
「あれって、この前植えた種のやつ?」
縁側を下り、小径を渡って若木へと近づく。昨日まで芽も出ていなかったはずが、今や湊の目線の高さまで急成長していた。青々とした若葉が
「もうこんなに……神様の力のおかげか。すげえとは思うけど、こんな急激に伸びて栄養は足りてるのか」
足元の亀が細い幹を
新たなお仲間、神木クスノキ。それを前に「とりあえず、水! 水あげよ」と一人と一匹が慌てふためく。縁側で寝起きの山神が、大
〇
連日降り続けていた雨は、小休止に入ったようだ。
入梅を迎え、長々と空に居座っていた雨雲がようやくどこかへと去っていき、待ちに待った晴れの日。湊は朝から縁側の片隅で洗濯物を干していた。
パンッとタオルが空気を切る音が庭に響く。
「やっぱり洗濯物は外に干すのがいいよな。乾燥機はありがたいけど」
傍らの
物憂げにタオルを叩き、皺を伸ばす。
「山神さん、どうしたんだろ……」
梅雨入りと時同じくして、山神は訪れなくなった。
なんの前触れもなく、突然ぱったりと姿を現さなくなった。前日まで変わりなく、仲よく食卓を囲んでいたというのに。己が何か粗相してしまったのかと随分気にやんだが、心当たりは一切なく、いい加減悩むのはやめにした。
その間、亀がずっと傍にいてくれたおかげで慰められた。労いの気持ちを込めて山型甲羅をブラシで磨いてやれば、いたく喜んでもらえた。そんな風にのんびり過ごす一人と一匹だったが、やはり存在感の際立つ大狼が急にいなくなったのは、妙に寂しく心配でもあった。日々、山へ向けて山神の無事を祈願している。
「……元気に過ごしていてくれれば、いいけど」
ちゃぷん。池から水面を叩く音。振り返ると、裏門から白い巨躯が粛々と歩み寄ってくるのが見えた。至ってしっかりとした足取り、毛の輝き。なんら変わらぬその姿に「山神さん!」と湊が弾んだ声をあげる。
「久しぶり。元気そうで、よかっ……!?」
なんと山神、子連れであった。
目を見張りあんぐりと口を開けた湊の手から、ぼとっとシャツが落ちる。
驚愕する湊のもとへと大狼が向かっていく。その後ろに三匹の白い獣たちが付き従う。うっすらと発光したその体は通常の動物ではないと主張し、山神と同種のモノなのは明らかだった。
思いもよらぬ光景に、湊が
「え、え? まさか産んだ? 出産のために来られなかった? 山神さんは女神様、だった!? いや、でも、声がおっさん、」
「おっさんなんて失礼ですよ!」
「せめて、おじさまと言ってくれ!」
「ジジイ言うな!」
「いや、そこまではっきり言ってない。ん? 狼じゃなくて、
一様に後ろ足で立ち上がり、幼く甲高い声で抗議してきた。全体的に白い毛で覆われた細長い体躯、短い四肢、太い尻尾。尾の先端が朱、青、黄色とそこだけ色違いだ。山神と比較すれば小柄だと感じるが成猫ほどの大きさはあり、それなりに大きい。ハキハキと話す口調、俊敏な動作から、赤子ではないのかもしれない。
山神御一行が縁側に上がる。早速大狼が定位置である中央に、大儀そうに寝そべる。動作が前以上にゆったりとし、随分お疲れのようだ。
大きな息をつき、ふっさりとした尻尾を振った。
「こやつらは、テンだ。我が
「眷属って子供? で、産んだの、産んでもらったの」
「そうさな、産んだようなものだ。我は一柱だけで子と言える分身を創り出せる。ちと時間はかかったが」
「そっか、お疲れ様でした。みんなよろしく、菓子食う?」
山神の傍らに並んで控える三匹が
「あ、食べたことないのか。山神さん、あげてもいい?」
「うむ、問題ない。無論、我にも」
「はいよ」
山神がいつ訪れるかわからず、生菓子の買い置きはない。日持ちのする焼き菓子しかないが仕方あるまい。特急で残りの洗濯物を干し終え、カステラを切り分けて振る舞えば、山神は何も言わないが、やや不満そうだ。視線で
大狼が口をつけた後、三匹のテンが顔を見合せ、前足で持ったカステラの匂いをくまなく嗅ぐ。躊躇いながら
「いっぱいあるから好きなだけ……や、足りるか……?」
一切れ、ものの数秒しかもたなかった。三対の期待の
「やあ、それ
「ねえ、アタシたちにもくれないかい」
突如、斜め上から声が降ってきた。肩を跳ねさせた湊が振り仰ぐと、そこには屋根から逆さまに顔を出した二人の小鬼の姿。一本角が生えた額。赤と青の鮮やかな肌色。到底人ではあり得ない異形たちだった。
ぎょっとして山神を見るも、我関せず、
ぐるぐると首を巡らせて焦る湊を、愉快げに眺めていた赤鬼と青鬼がくるりと反転。宙に
にかっと赤鬼が屈託なく笑う。
「く~ださいな~」
「はあ、どうぞ」
「お邪魔するよ」
青鬼が快活に笑い、ともに音もなく縁側に舞い下りた。皆で車座になる。カステラを



