一章 ③
「「おっけーおっけー!」」
「よしよし、じゃご飯食べましょ」
ややあって。ある程度食事を終えたあたりで、改めて自己紹介する。
「私はセイ・ファート。錬金術師。事情は、さっき部屋で言った通りよ」
この子たちにはある程度、事情は話してる。
五〇〇年前の人間であることを。三人は奴隷であり、
だから、誰かにうっかり漏らすことはない。安全。
「いろんなこと知らないから、教えてね。はいじゃあ君たちのこと教えて。得意なこととか。はい、トーカちゃん」
「うむ! トーカでござる! 力には自信がありますぞ!」
むん! とトーカちゃんが腕を曲げる。
おお、すごい筋肉だ。
「元々は蜥蜴人でござったが、主殿のおかげで火竜人となりましたでござる。前より
「なるほど、トーカちゃんは力と武芸の心得あり……と。次は、ダフネちゃん」
ぴょこっ、とうさ耳が動く。きゃわわ。
「だふねは、ダフネなのです! ラビ族なのです! えと……耳がいいのです! 動物さんとも会話できます! 馬車を御することも、できるのです!」
ラビ族とは見ての通り、ウサギの獣人だ。
「なるほど、動物と心を通わせる力がある。馬車を御することもできると……じゃあ最後はゼニスちゃん」
エルフ少女のゼニスちゃんが、こくんとうなずく。
「……ゼニス・アネモスギーヴです。いろんな本を読んできたので、多少知識の蓄えはあります。それと、多少魔法の心得も」
「ゼニスちゃんは知識量と魔法……ん? アネモスギーヴ? 名字なんて持ってるの?」
「……はい。いちおう」
ゼニスちゃんが言いにくそうにしている。そこへ、トーカちゃんが補足する。
「ゼニスは元王族なのでござるよ」
「なぬ! 王族……へえ……」
「……といっても、元です。クーデターがあって、私の父は殺されました。女子供は奴隷として売り飛ばされて今に至ります」
な、なかなかハードな人生送ってるなぁ。
でも、そっか。元王族なら知識だけじゃなくて、マナーとか、世界情勢にも明るいかも。
王族ならそういう教養は身につけているだろうし。
「自己紹介ありがとうみんな。それぞれ得意なことがバラバラで助かったわ。私、基本ポーション作る以外に何もできないから、助けてくれるとうれしいわ」
きょとん、と三人が目を点にしてる。
「なるほど! すごい御仁は、謙虚ということですなぁ! さすが主殿!」
「だふね知ってるのです! おねえちゃんはどんな怪我も一発で治せる、ものすっごい人なのです!」
「……天導教会の聖女よりもすごい治癒力を持っていて、できないことは何もないかと」
あ、あれぇ。信じてもらえない……。
「あ、そうそう。それだ。ゼニスちゃん、天導教会ってなに? 聖女って?」
「それは……」
と、そのときだった。
「おお、嬢ちゃん! ここにいたか!?」
「あれ、あなたはリーダーさん」
この町へ来るとき、馬車に乗っけてくれた冒険者パーティのリーダーさんだった。
彼は慌てて私のもとへやってくる。
「どうかしたのですか?」
「ああ! 嬢ちゃん、解毒ポーションって持ってるかい!?」
すっごい剣幕だ。よほどの緊急事態があったのだろう。
「もちろん」
「よかった! 嬢ちゃんほどの錬金術師ならあるって見込み通り! 頼む! 譲ってくれないか! 金はいくらでも出す!」
この人にはこの町まで馬車に乗せてもらった恩があるからな。
「わかりました。お譲りしましょう。ただし」
「条件か! なんだ、おれにできることならなんでもするぞ!」
「お金はいりません」
「は……? か、金は……いらない?」
ぽかんとする彼をよそに、私は立ち上がる。
「さ、君たち。行きますよ。リーダーさん、患者のもとに案内してくれますか?」
「え? あ……え、あ、……ああ」
宿屋を出ると、リーダーさんが困惑顔で聞いてくる。
「じょ、嬢ちゃん金はいらないって……」
「言葉通りですよ」
解毒ポーションくらい、簡単に作れるしね。
「治せる保証はありませんし」
「嬢ちゃんのポーションでだめなら諦めて、もう天導の
「蘇生装置……」
まーた知らない単語。まーた天導ですか。
五〇〇年で冒険者ギルドや宿屋といったシステムが変わらないのに、そこだけまるっと変わってる。なんなのだろうね。
ややあって。
ギルドへとやってきた。
「う……これはひどい……」
床に一人の、女剣士が寝かされていた。
見えている肌の部分が毒に冒されている。
「フィライト! もう大丈夫だぞ! すごい錬金術師を連れてきたんだ! 彼女のポーションなら治るぞ!」
「ボルス……」
リーダーさんがボルス。フィライトってのが毒にやられてる女剣士ね。
この口ぶりから……二人は恋人同士なのかしらっと。
「もう……いいわ……おとなしく蘇生を、教会の
「だめだ! おれはフィライトを失いたくない!」
うーん? 蘇生? 教会の庇護?
ゼニスちゃんに聞けばわかるだろうけど、今は緊急事態だ。
私は解毒ポーションを、ちゃちゃっと作る。
手持ちの薬草と、あとここへ来る途中マーケットで手に入れた素材を、工房を展開して作る。
「はい、リーダー……ボルスさんだっけ? これ使って」
ボルスさんが蓋を開けて、フィライトさんに解毒ポーションを飲ませる。
すると……かっ! と彼女の体が白く輝く。
みるみるうちに肌の色が元通りとなった。
「フィライト! ああ、よかった! よかったぁ……!」
「……信じられない。ヒドラの死毒を、解毒しちゃうなんて……」
フィライトさんが
ヒドラ?
「嬢ちゃんは命の恩人だ! ありがとう、ありがとうぉ!」
いろんな知らない単語ましましだけど、いっか! あとでゼニスちゃんに聞けばいいし。
☆
私ことセイ・ファートは、冒険者ギルドで毒を浴びた女剣士さんを助けた。
「あー……めんどくさかったー」
私は今、徒歩でサンジョーの町を離れていた。
シスターズがぞろぞろと歩いてくる。ゼニスちゃんたちのことね。
なんかいい呼び方ないかなぁって思って、これにした。
だってみんな年下だし、可愛いし、妹みたいだもんね。
「おねえちゃんおねえちゃんっ」
「ん? どうしたのダフネちゃん?」
ラビ族の少女ダフネちゃんが、私に尋ねてくる。
「よかったのです? お礼したいとか言ってたのです、さっきの人たち」
……さて。
私は知り合いの冒険者から、解毒を頼まれた。
ヒドラとかいう、聞いたことないモンスターの毒を浴びて
『す、素晴らしい!』『一瞬で死毒を解毒するなんて!』『すごい、こんな解毒は初めて見た!』『聖女さまだ! 聖女さまー!』
……とまあギルドは大騒ぎ。
そして始まる、私が誰なのかー、とか、是非ともうちにー、とかの面倒ごと。
「その他諸々がめんどくさくってさ。もったいないけど転移ポーションを使っちゃった」
転移ポーション。
これは私が自宅から持ち出した、秘蔵のポーションの一つだ。
「……セイさま、すごいです。転移魔法ですよね? 町の中から、町の外へ一瞬で飛んだ」
エルフで頭のいいゼニスちゃんが私に聞いてくる。
「ううん、ポーションだよ」
「……いや、あの、どこの世界に、転移魔法を発動させるポーションがあるんですか?」
「え、ここにあるけど」
「…………」
ちなみにモンスターパレード時に使わなかったのは、封印を解いてる時間がなかったからだ。
希少なのよこれ。だから他人に勝手に使われないよう封印の術式を組んでおいたのだ。
解除してる時間がなかったから、あのとき使わなかったけども(気が動転してて忘れてたのもある)。
「しかしもったいないなぁ。上級ポーションを使っちゃったよ」
「……上級ポーション、とは?」
ゼニスちゃんは知的好奇心が旺盛だなぁ。
「私の奥の手、かな」
「……奥の手?」



