一章 ⑧
フィライトは興奮気味に幼女と会話する。
「おかあさんがね、病気で苦しんでたの。そこにね、せいじょさまがきて、なおしてくれたんだ!」
「まあまあ! それは素晴らしい! やはり聖女さまは、人々の苦しむ声をどこからか聞きつける素晴らしい耳もお持ちなのでしょう! すごいですわ!」
否である。単に偶然であって、クッキーレシピ欲しさに、幼女の家に来ただけだった。
ここでもまた、セイの行いが美談として語り継がれていく。
元気になった父親は、病気で閉めていたこの店を再開した、という次第。
「あなた、聖女さまがどこに行ったのか知ってますか?」
「おいおいフィライト。さすがにそんな子供が知ってるわけが……」
幼女は笑顔でうなずいた。
「しってるよ!」
「なっ!? ほんとですのっ!」
「うんっ。あのね、あ、あね……あねもす……あねもすぎーぶ? ってとこにいくって!」
二人が幼女の言葉を繰り返す。
「アネモスギーヴ……って、確か南西にある、エルフの国だったな」
「そこですわ! 聖女さまの行き先は、エルフ国アネモスギーヴ!」
がたんっ! とフィライトが立ち上がる。
「さっそくエルフ国へと向かいますわよ。ボルス!」
フィライトは全速力で店を出ていく。
支払いを済ませたボルスは、そのあとへと続こうとする。
「白銀の聖女さまを追うなら、伝言をお願いしてもいいかしらん?」
食堂の親父がボルスに言う。
「最近、この町で天導教会の聖騎士たちを多く見かけますわん。つまり……」
「天導のやつらも、白銀の聖女さまを探し始めた……?」
ええ、と食堂の親父がうなずく。
「白銀の聖女さまは、天導所属ではないのでしょう? なら気をつけた方がいいですわん。目障りに思って、消しに来るかも……と」
天導教会は、その聖なる力を使って
無償で人を救うセイとは、正反対の存在だ。
そんな彼らからすれば、無自覚に人を助け、しかも金を受け取らないでいる彼女を疎ましく思うのは至極当然と言える。
「わかった。忠告感謝するぜ」
ボルスはそう言って、フィライトのあとに続くのだった。



