5話 長ナスの収穫 ②
「このハサミと同じ長さくらいのものを
お手本を見せるようにハサミと同じくらいの大きさのナスを手に取り、わき芽の根元を切る。それから不必要なわき芽からナスを切り離してコンテナに入れた。
「そんな根元から切ってもいいのか?」
「果実だけを収穫すると、そこからまたわき芽が伸びて、あっという間に生い茂るんだ。だから、遠慮なく切っても大丈夫だ」
切っていかないと延々とわき芽が増えて、ジャングルのようになってしまうからな。
後は茂り過ぎた葉を落として、成長を促進する意味もある。
「わかった。ならばやってみよう」
セラムはハサミを手にすると、真剣な顔つきで傍にある大きなナスとハサミの大きさを照らし合わせる。
そこまで慎重にやらんでも……。
基準に満ちているものだとわかると、セラムはこくりと頷いて果実と
その瞬間、俺はわざと悲壮な顔をして声を上げた。
「ああっ!?」
「な、なんだ! これは収穫してはダメなものだったか!? す、すまない! こういったことをするのは初めてで──」
「いや、別に問題ないし合ってるぞ」
暴露した瞬間、セラムの表情が
「……ジン殿?」
「すまん。妙に緊張してるようだから茶化しただけだ。ハサミの大きさっていうのもあくまで基準で、そこまで厳密に測らなくていいからな?」
緊張をほぐすためのものだと説明すると、ひとまずセラムは納得したようで剣吞な気配を引っ込めた。
なまじ顔の造形が整っているだけに、
セラムは気を取り直したように次のナスを見つけ、先ほどよりも迷いのない手つきでわき芽から切り落とした。
「これで問題ないか?」
「ああ、その調子でドンドンとやっていってくれ」
そう答えると、セラムは安心したような顔になって次のナスにハサミを伸ばしていく。
三つ目、四つ目、五つ目と順調にセラムが収穫していくのを見守り、問題ないことがわかると、俺は違う畝に移動して収穫をすることにした。
カートを押しながら収穫基準に満ちているナスを見つけ、わき芽の根元を切る。
無駄なわき芽を切り落とすと、長ナスだけをコンテナに入れる。
そういった作業をしながら次の、その次の収穫基準に達しているナスを見つけ、次々と収穫をしていく。それと同時に
「は、早い!」
カートを押して次々と収穫していく俺が見えたのだろう。
セラムがこちらを見て驚いている。
「こっちは何年もやってるからな」
「ぐぬぬぬ、いずれはジン殿と同じくらいの収穫スピードになってみせる」
鼻で笑ってやるとセラムは悔しそうにしながらも収穫作業に
ああ見えて負けず嫌いのようだ。
とはいえ、農業一日目のセラムに負けるわけにはいかない。
農業経験者であり雇い主として、新入りに格を見せつける必要があるだろう。
俺はいつもよりも気合いを入れて、収穫作業に勤しんだ。



