6話 長ナスとツナのトマトペンネ ①

「ふう、今日はこんなものでいいだろう」

「わかった」


 収穫作業を終えると、俺たちの前にはコンテナにぎっしりと入った長ナスが。


「これだけたくさんのナスが並んでいる姿は壮観だな」

「ああ、我ながらいい艶のナスを育てたもんだ」


 収穫作業は数が多いと面倒だが、これだけたくさんのナスが並んでいると気持ちのいいものだ。

 それにしてもやっぱり人手があると作業速度が段違いだな。

 セラムは農業初心者であるが、異世界で騎士をやっていただけあって体力もあるし精神力もある。

 長時間の作業でも一切の泣き言を言わずに、こちらの想像以上の働きをしてくれた。

 常識のない異世界人を雇い、住まわせることにちゅうちょがないわけではなかったが、この働きぶりだけでも価値があったといえるだろう。


「このナスはこれからどうするのだ?」

「ナスの選別や調整作業だな。それが終わったら袋詰めをして直売所に持っていく。後は配送業者が市場に持っていって、地元のスーパーに並ぶ感じだな」

「な、なるほど?」


 などと出荷の段取りを説明してみせたが、まだこの世界についてよくわかっていないセラムからすればイメージしづらいだろうな。


「まだ作業は残っているが先に昼飯だ」

「そうか!」


 お腹が空いていたのだろう。作業を中断して昼食であることを告げると、セラムは嬉しそうな顔になった。

 ひとまず収穫したナスは鮮度保持袋に包んで置いておく。

 その際に、形の悪いものや微妙に傷んでいるものを昼食用に拝借した。

 そういったものは売り物にならないからな。とはいえ、食べられないわけではないので自分で消費する分には全く問題ない。

 家に帰るなり、セラムがワクワクした様子で聞いてくる。


「昼食は何にするのだ?」

「せっかく収穫したんだ。長ナスを使った料理にしようと思う」

「おお、それは楽しみだ!」


 とはいえ、揚げナスの煮浸しは昨日食べたところだ。同じものを作ってもつまらない。

 何を作るとしよう?

 冷蔵庫を開けて、残っている食材を確認。それほど潤沢に食材があるわけではないな。

 ついでに戸棚を確認すると、パスタとツナの缶詰が目に入った。


「よし、昼飯は長ナスとツナのトマトペンネだな」


 ありきたりだが冷蔵庫にある残り物の食材を使って、なおかつ簡単に作れるレシピだ。

 これでいこう。


「なにか手伝えることはあるか?」


 食材を取り出していると、セラムがソワソワした様子で尋ねてくる。


「昨日からずっと言っているな」

「自分だけジッと待つというのが性に合わないんだ。なにか手伝わせてくれ」

「だったら、長ナスのヘタを取ったら、皮を四か所ほどピーラーでいてくれ」

「む? ぴーらー?」


 ピーラーを手渡すと、セラムはげんな顔になる。

 どうやらセラムの世界にはない道具らしい。


「こんな風に刃を当てて下に引くと、皮が剝けるんだ」

「おお! これは便利だな!」


 お手本を見せてあげると原理がわかったらしく、セラムもすぐに一人で皮を剝けるようになった。

 その間に俺は缶詰からツナを取り出し、コンロの上にフライパンを準備しておく。


「……昨日も思ったが、ジン殿は男なのに料理が上手なんだな」

「そりゃ、一人暮らしが長いからな。セラムの世界では、男は料理をしないのか?」

もちろんできる者もいるが、大抵は女性に任せていた。料理人以外で男がちゅうぼうに立つのは女々しいというような風潮があったな」


 昭和初期のような考え方だな。

 今じゃそんな言葉を口にすれば、たたかれることは間違いないだろう。


「ジン殿、皮を剝いたナスはどうすれば?」

「ああ、そっちは大きめの斜め切りで頼む」

「斜め切り?」


 うん? これも異世界ではない切り方なのか?

 いや、名称が違うだけにきっとあるに違いない。


「斜め切りっていうのは、こうやって食材を斜めに切っていくことだ」

「おお、そういう切り方か……」


 実際に包丁を使ってスライスすると、セラムは納得したように頷いた。

 そして、俺が包丁を渡すと、セラムはギュッと握り締めた。


「ちょっと待て」

「む? なんだ?」

「なんだその包丁の握り方は? そんな持ち方じゃ危なっかしくてしょうがないぞ」

「むむ。すまない。どうやって持つのが正しいのだ?」


 セラムの疑問を聞いて、俺はとある可能性を見落としていたことに気付く。


「……お前、もしかして料理したことないのか?」

「恥ずかしながら騎士の家系故に、幼い頃から剣や乗馬といった稽古ばかりでな。そういった経験は一切ない」

「そういうことは早く言え」


 道理で台所での挙動や包丁の持ち方がおかしいはずだ。


「すまない。経験がないと言うと、台所から追い出されると思って……一度、料理というものをやってみたかったのだ」


 叱られた子供のような顔をするセラム。


「客人ならそうするところだが、しばらくはここに住むんだ。少しくらい料理もできないと困る。なんでも教えてやるから、わからないことやできないことはきちんと言え」

「ありがとう、ジン殿! 今度からそうする!」


 そう言うと、セラムはにっこりと笑った。

 とりあえず、セラムに包丁の持ち方、食材の切り方などを教えてやる。

 すると、正しいフォームでゆっくりと斜め切りをし始めた。

 左手の手つきがちょっとばかり危なっかしい。今度、セラミック包丁を買ってやった方がいいかもしれない。

 長ナスが終わると、フライパンにオリーブオイルを入れる。

 そこにセラムが斜め切りした長ナスを入れた。

 ちょっと形がいびつだ。斜め切りだからそこまで気にならないし別にいいか。


「そっちの鍋に水を入れてくれるか?」

「あ、ああ。確かこのレバーを上げれば、水が出るのだな」

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田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている2の書影
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