6話 長ナスとツナのトマトペンネ ②

 水道も知らないセラムであったが、何度か俺が使っているのを見てどのようにすれば水が出るかはわかるようだ。

 おそるおそるレバーを上げて、ちょうどいいところでレバーを終えた。


「できたぞ!」

「よくやった」


 それだけでドヤ顔をされるのは遺憾だが、初めて触ったものを無事に使いこなせたので褒めておく。犬を飼ったような気分だ。


「次はコンロの火をけてくれ」


 水の入った鍋をコンロに置いたところで、続けて役割を振ってみる。

 水道と同じでこういうのは使っていけば、すぐに慣れるだろう。


「……えっと、火の出る道具だな。確かここにあるつまみを右に回す……でよかったか?」

「そうだ」


 頷くと、セラムがつまみを右に回した。

 すると、ボッと音を立てて火が点いた。


「点いたぞ!」

「よくやった。つまみの上にあるレバーを右に動かしてくれ」

「おお! 火が強くなった!」

「そこをいじれば火加減が調節できるから覚えておいてくれ」

「たったこれだけの動作で水を出したり、火を出したりできるとは……ジン殿の世界の道具は本当に便利だな」


 まじまじと火を見つめながら感心するセラム。

 何をするにしろ水道とコンロさえ使えるようになれば、家で一人にしておいても困らないだろう。食材さえ用意しておけば、勝手に何かを焼いて料理を作るなり、カップ麺を食べることもできる。

 そんな風に水道やコンロの使い方を教えていると、ナスに焼き目がついてきたので一度お皿に上げておく。

 それからもう一度フライパンにオリーブオイルを入れて、ニンニクをいため、狐色になったらタマネギを加え、香りが立ったらタマネギを加える。


「ああ、もういい香りだ」


 隣で調理を見ているセラムが、表情を緩ませながら呟く。

 朝から収穫という重労働をし、お腹を空かせている身としてはトマトとニンニクの香りは暴力的に思えた。

 さらにドライハーブとバジルを加えて弱火でトマトソースを煮込む。

 煮込み作業をしている間に、沸騰したお湯にペンネとサラダ油を加えてでる。

 ペンネが茹で上がったら、煮込み終わったソースにペンネを投入。

 塩を加えて味を調えながら味見。

 問題ないことを確認し、ペンネを平皿にこんもりと盛り付ける。


「よし、長ナスとツナとトマトペンネの完成だ」

「おお!」


 盛り付けた皿をセラムがテーブルに運んでくれる。

 冷やした麦茶をグラスにぐと、俺たちはいそいそと座布団の上に座った。


「「いただきます」」


 手を合わせると、セラムと俺はすぐにフォークに手を伸ばして口に運んだ。


「美味い! 長ナスがとてもジューシーだ!」

「だろう?」


 口の中に広がるトマトの酸味とうまみ。なにより大き目にカットされた長ナスがとてもジューシーだ。

 肉が入っていないのに、まるで大きな肉を食べているかのような満足感がある。

 ツナの微かな海鮮の旨みと脂身がトマトソースにしっかりと溶け込んでおり、ペンネにしっかりと絡みついている。

 ドライハーブとバジルの独特な風味が旨みと脂身を最後に拭い去り、スッキリとした後味を演出している。

 ……美味い。

 こうやって新鮮な食材をすぐに味わうことができるのは農家の特権ともいえるだろう。


「ジン殿の長ナスは本当に美味しいな!」


 ペンネを口にしながらセラムが言った。

 そのはじけんばかりの笑顔からして本心で思っているのは明らかだった。


「それで金を稼いでいるからな。そうじゃなきゃ意味がない」


 誰にでも作れるようなものでは意味がない。お金を出して買う美味しさがあるから価値があるのだ。農業とはそういうものだ。

 だが、そう言われて一農家として嬉しい気持ちは確かにあった。

 市場やスーパーに自分の野菜が並んでいても、直接感想が届くことはないからな。

 目の前で食べてもらって美味しいと言ってもらえることは幸せなのだろう。


「ごちそうさまでした」


 などと感慨深く思っていると、セラムの皿はすっかり空になっていた。


「食い終わるの早いな!」

「ジン殿の料理は美味しいからな!」


 それなりに量があったはずだがぺろりと平らげている。

 どうやらうちの女騎士はけんたんでもあるようだ。

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田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている2の書影
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