9話 もしかして、ノーブラ? ②
やけに真剣な顔をした夏帆に呼ばれた俺は、そろそろと近づく。
堂々と話さない様子を見ると、セラムには聞かれたくない話題なのだろう。
もしかして、あまりにもセラムが綺麗過ぎるから結婚詐欺のようなものを疑われているのだろうか。
だとしたら、誤解を解いておかないとな。
「セラムさん、下着つけてなくない?」
まったく予想外の角度から投げつけられた夏帆の指摘に身体が震えた。
畑作業を終えたばかりのセラムは昔の俺のジャージを纏っている。
その胸元では柔らかそうな膨らみが生地を押し上げ、激しく主張していた。
ノーブラであると。
「…………そうだな」
気付いていることを肯定した瞬間、夏帆の視線がとても冷たいものに変化した。
「気付いていて放置していたの? もしかして、そういうプレイを楽しんでるわけ?」
「そうじゃない! ちょっと複雑な理由があって用意できなくてな。早く用意しないといけないことはわかっていたが、どうにも言い出せなくてな。あいつは日本に慣れていないし、一人で買い物に行かせるわけにはいかないから」
あらぬ誤解をかけられそうになった俺は必死に弁明する。
自分の嫁にノーブラを強要する変態扱いされるのはゴメンだった。
決してそういう
「なら、付いていってあげればいいじゃん──って思ったけど、下着となると付き添うのも恥ずかしいよね。ジンさん、こういうの苦手だし」
きちんと弁明すると、夏帆の視線は徐々に温かみを戻してくれた。
幼馴染である海斗の妹だけあって彼女とも付き合いが長い。さすがに俺がそんなことをする変態ではないと理解してくれたようだ。本当に良かった。
「わかった。なら、あたしがセラムさんの買い物に付き合ってあげる」
「本当か! それは助かる!」
「その代わり、あたしも欲しい服があるなーって……」
顔を斜めにして上目遣いをしてくる夏帆。
自分の顔をどの角度で見せれば可愛らしく見えるか把握しているな。実にあざとい。
セラムの買い物を付き合ってくれるのだ。それくらいの出費は許容するべきだろう。
「あんまり高いのは勘弁してくれよ?」
「やった! わかってるわかってる。良識の範囲内のものにするから」
こうやって足元を見てくるあたり、良識があるかどうかは疑わしいものだな。



