12話 試着 ②
夏帆が若干圧のこもった視線を向けてくる。
さすがに俺でもどういった感想を期待されているかわかる。
「綺麗だな。似合ってると思う」
「そ、そうか」
素直に感じた言葉を述べると、セラムは顔を真っ赤にして俯いた。
こういった言葉をかけられるのはあまり慣れていないらしい。これだけ綺麗なのに意外だ。
「私の時は一切褒めてくれなかったのになぁ」
セラムの
「夏帆も可愛いと思う」
「棒読みの感想をありがとう」
露骨に褒めろと言われると、褒める気持ちが萎える。これは仕方ないだろう。
その後も何度か夏帆は試着を繰り返し、それに付き合わされるようにセラムも試着を繰り返す。
最初は恥ずかしがっていたセラムだが、やはりオシャレをするのは嫌いではなく、途中からは楽しんで試着しているように見えた。
「うん。やっぱり最初のアウターかな」
そうやって一時間半が経過すると、ようやく夏帆は欲しいものを決めたようだ。
じゃあ、今までの試着の時間はなんだったのだと思ったが、それを突っ込むと機嫌を損ねることはわかっているので言わない。
「わかった。なら、会計してくる」
「これ、私のポイントカードだからよろしく」
「へいへい」
「ねえ……」
ポイントカードを受け取ると、夏帆が真面目な顔で何かを言おうとする。
「わかってる。もうレジに持っていってる。一緒に精算するつもりだ」
「おおー! ジンさんなのに気が利いてる!」
「うるさい。さっさと着替えてこい」
むしゃくしゃした気持ちを込めるように夏帆の背中を試着室に押した。
レディーの扱いがなってないなどとの抗議は聞き流し、先にレジで精算を済ませる。
が、その前に夏帆のアウターの値段を確認だ。
「二万円か……」
大学生の報酬としてはちょい高めだが、セラムのために色々と考えてコーディネートしてくれたことを考えると妥当ではあるか。
俺が難色を示さないラインを狙ってくるのが上手いな。
きっと、夏帆は社会に出ても上手くやっていけるだろうな。
精算が終わる頃には、ちょうど元の服装に着替え終わった夏帆とセラムが出てくる。
「ほい、今日付き合ってくれた報酬だ」
「ありがとう! いやー、今月はお小遣いが足りなかったから助かったよ!」
少し早いが先に報酬を渡すと、夏帆が嬉しそうにロゴの入った紙バッグを抱えた。
「で、セラムにはこれだ」
「私にも?」
もう一つの紙バッグを差し出すと、セラムは怪訝な顔をしながら中を覗き込む。
「これは最初に試着した服ではないか! ジン殿、私は頼んでないのだが……」
「そうだな。俺が買ってあげたいと思ったから買ってやった。それでいいだろ?」
「……ジン殿、ありがとう。大切にする」
きっぱりと告げると、遠慮していたセラムは嬉しそうに笑った。
それからワンピースの入ったバッグを大事そうに抱える。
ちゃんと受け取ってもらえて良かった。
さすがに服が全部ユニシロっていうのもな。
少しくらい気合いの入った外出用の服を持っていてもいいだろう。
セラムだって女の子なんだし。



