13話 フードコート ①

「お腹空いたー!」


 ファッション店を出るなり夏帆が言った。

 セラムも同意するように頷いている。

 時計を見てみると、時刻は十四時を過ぎていた。

 お腹が空くのも当然だろう。


「昼飯でも食べるか」

「どこで食べる?」

「フードコート」

「ええー」

「ちなみに飯は自腹な」

「ならフードコート一択だね」


 フードコートという選択に不満げな夏帆だったが、おごりではないことを告げると華麗に手の平を返した。


「ふーどこーととは一体どのようなところなのだ?」

「説明してもいいが、もうすぐそこだから見た方が早い」


 フードコートはファッション店と同じフロアなので、説明する前にたどり着いた。

 開けたフロアにはたくさんの椅子やテーブルが並んでおり、それを取り囲むように様々な飲食店が並んでいる。


「おお! たくさんの店が並んでいる! ここにあるすべてが料理屋なのか!?」


 フードコートを目にしたセラムがきょうがくの声を上げながら言う。


「ああ、好きな店で料理を頼んで、空いている席に座って勝手に食べるシステムだ」

「これだけ店が多いと、何を食べるか迷ってしまうな」


 システムを説明すると、セラムがフラフラと歩き出して店を物色し始める。

 とりあえず、一周ほどグルッと回って決めるつもりなのだろう。


「あたし先に頼んで席取っておくから」

「頼んだ」


 夏帆はパパッと食べたいものを決めたようで天丼屋の店に並んだ。

 俺は飲食店を見て回るセラムの後ろをついていき、時折セラムに料理の説明をしていく。


「食べたいものは決まったか?」

「ううー、魅力的で迷ってしまう。どれも美味しそうなんだ」


 頭を抱えて唸り声を上げるセラム。


「だったら普段家じゃ食べられないものを頼んでみるっていうのはどうだ?」

「私たちの家で普段食べられないもの……それはパンだ!」

「ああ、うちはご飯中心だからな」


 俺の好みが完全な和食なので、家にはパン一つ置いていなかった。


「ご飯も美味しいが、久しぶりにパンが食べたい!」

「パンか……」


 想像するのはパンに合うような洋食メニューだが、生憎とフードコート内にそういった飲食店はない。

 しかし、世界的に有名なハンバーガー店はあった。

 あれも立派なパン料理と言えるだろう。


「だったら、あそこのハンバーガー店なんてどうだ?」

「はんばーがーというのは?」

「パンに肉や野菜などを挟んだサンドイッチみたいなものだ」

「おお、それはいいな! では、それにしてみよう!」


 大雑把に概要を伝えると、セラムは列に並んだ。


「よし、じゃあお金を渡すから一人で食べたいものを注文してみろ」

「ええ!? ジン殿が頼んでくれるのではないのか!?」

「一人で買い物をする練習だ。ちゃんと傍にいてやるから」

「わ、わかった。やってみる」


 セラムには既に貨幣については教えてある。

 この世界で自立して生きていくためにも一人で買い物ができるようになった方がいいだろう。今回は夏帆が付き添ってくれたが、下着などの女性特有の必需品を買う時に俺が付き添うわけにはいかないからな。

 元の世界でも算術を学んでいて実用性のある計算はできるので、一人で買い物もできるはずだ。


「いらっしゃいませ! ご注文はいかがなさいますか?」

「ひゃいっ! え、えっと、どれが美味しいハンバーガーなのだ?」


 なんだか第一声から心配になってきた。メニューに載ってある以上、美味しくないハンバーガーなんてないだろう。

 なんだコイツはと思うところであるが、セラムは外国人のような見た目もあって店員さんの視線はとても優しいものだった。


「そうですね。こちらの照り焼きバーガーが一番人気ですよ」

「では、それにする」

「セットにするとお得ですが、どういたしますか?」

「せっと?」

「ジャガイモを揚げたポテトって料理と飲み物も付いてくるんだ。セットにすると安くなるから頼んでおけ」


 未知のシステムにセラムが停止したところで、俺が助け舟を出した。


「では、セットで頼む」

「ポテトのサイズはいかがいたしますか? S、M、Lの三種類あります」

「む? この大きいLとやらでも値段が変わらないのであれば、Lだ」

「かしこまりました。こちらからドリンクを選んでください」

「……ジン殿、飲み物がまったくわからないのだが……」


 ポテトのサイズは無事に通過したセラムだが、ドリンクで躓いた。

 メニューにはドリンクの代名詞とも言えるラベルと名称が書かれているが、異世界人であるセラムにピンとくるはずもなかった。


「このオレンジジュースにしておけ」

「わかった。オレンジジュースで頼む」

「かしこまりました」


 そうやってところどころ助言をしていくと、無事にセラムは会計を終えることができた。


「ふう、こちらの世界での買い物はなかなかに緊張するな。品数が多くて煩雑だ」

「まあ、これも慣れだな。一度注文すれば、慣れるもんだ」

「そうだな。私はセットという概念を学んだ。次はもっとスムーズに注文ができるはずだぞ」


 鼻息を漏らし、妙に満足げな様子で拳を握るセラム。

 放っておくとなんでもかんでもセットをつけて、値段が高くなる未来が見えそうだな。

 まあ、その時はその時でいい勉強になるだろう。


「それじゃあ、俺も自分の料理を頼んでくる。ハンバーガーを受け取ったら、夏帆が座ってるあそこのテーブルに集合な」


 視線の先ではちょうど天丼のトレーをテーブルに置いて、四人掛けのテーブルに着席する夏帆の姿が見えた。

 こくりと頷くセラムの様子を確認し、俺は自分の食べたい料理を注文しに行くことにした。


            ●


 注文を受け取り、夏帆とセラムの座っているテーブルに着席する。

 そこではセラムがお行儀よく待機していた。


「先に食べていても良かったんだぞ?」

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田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている2の書影
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