第二章 奴隷が生産チートで自重しない ⑨
俺の【再生】開墾、シルフィの植物チート、ノエルの肥料&農具錬成により、食費の負担こそ軽減されたとはいえ、決して
しまった! バカバカバカアレンのバカ! どうして自分のことしか考えられなかったんだろう!?
シルフィとノエルは女の子。美味しいご飯だって食べたいだろうし、ファッションだって楽しみたいに違いない。
リバーシ、将棋、囲碁なんてお爺ちゃんしか満足しないゲームじゃん!(←偏見&失礼)。
そうか。最初から答えは出てたんだ。ご主人様である俺に接待プレイはおろか、ボコボコのボッコボコにしてきたのは「こんな
やっ、やってしまった……!
女の子とゲームができるだけで楽し過ぎた俺は「楽しいねシルフィ/ノエル」なんてずっと声をかけちゃってた!!
そういえば彼女たちのはしゃいでいる姿を見たことがない!
シルフィはクールに「そうね」と答えるだけだしノエルも「楽しい」とそんな風には見えない素気ない返事だった。
あれ、これめっちゃ痛い男じゃね?
前世で例えるなら、娯楽で
そりゃシルフィやノエルが俺に愛想を尽かしても仕方ない。
やっべ!
俺の脳内に嫌な想像が広がっていく。資金は底を突き、衣食住の保証義務のあるご主人様は食っちゃ寝リバーシ。ときどき芋。
嫌々オーラを発しているにもかかわらず、性懲りもなく対局を申し込む雑魚主人。
もしシルフィとノエルがもっとキャピキャピするためにお金が必要だとしたら?
そのためにご主人様に代わって帝都に出稼ぎに行っているとしたら……?
まっ、まままさか躰を売りに!?
いっ、嫌だああああああぁぁぁぁ!
シルフィとノエルは俺のもんだ!
俺が汗水流して買った初めての奴隷だぞ!?
何一つえちえち展開もないのにその奴隷たちは
嫌な妄想に取り憑かれた俺は全身に汗を流しながら全力疾走。なるほど。これが生活のために水商売せざるを得ない恋人を持つ彼氏の気持ちというやつか。
辛すぎる! このときの俺は周りが見えなくなっていたので、帝都中が異様な熱気に包まれていることに気がつけなかった。
彼らは視線を落とし、何かに夢中だった。
結論から告げるとシルフィとノエルは娼館にいるわけもなく(そもそも奴隷は主人の許可無しに働けないようになっている)、商業ギルドと錬金ギルドにいた。
「シルフィ! ノエル!」
二人を発見した俺は汗を拭うことさえ忘れて声を張り上げる。
必死過ぎて童貞丸出しだ。
彼女たちは俺の突然の来訪に両目をぱちくり。
「そんなに慌てて……何かあったのアレン?」
「食べたいものや欲しいものはない? 何でも言っていいよ!」
考えてみればこれはこれでダサいんじゃないだろうか。
美人(美少女)を金や物のチカラでしか繫ぎ止められない男。女性からしたらどう映るだろうか……! ステータスの一つではあるんだろうけど。
いや、そんなことを考えている場合じゃない! 今はとにかく償いだ。
元々はやりがい、金、性を搾取するつもりだったけど、俺はあまりにも彼女たちに与えてなさ過ぎてた……!
俺が美味しい思いをするためにはまず、二人の女の子が楽しい生活を送れるように頑張る視点が抜けてた! アレン反省した! 働きたくないけど頑張って働くから!
だから!
恐る恐る視線を上げると、シルフィは薄ら涙を浮かべていた。
「嬉しいわ」
泣くほど欲しかったものがあったんですかシルフィさん!? 極貧生活はそれぐらい辛かったですか。そうですか。全力で申し訳ない。
猿より弱いくせに対局ばかり申し込んでごめんね! 辛かったよね。俺も辛い。
本当はもう泣き叫びたかったけど男の意地でなんとか我慢したよ。
ただ、この騒動よりも衝撃的なことが後に待っていた。
シルフィたちの欲しいものを買うため、貯金残高を確認しに行ったときだ。
俺の口座に300万ドールが振り込まれていた。
この世界の通貨単位はドール。1ドールあたり100円の価値がある。
えっ、ちょっと待って!? ということは0を2つ足して……3億!? なんで3億円も俺の口座に振り込まれてんの!?
そこで俺はようやく帝都中が包まれている熱気の正体に気づく。
彼らはリバーシ、チェス、将棋、囲碁、ジェンガを
ん? んんんんんんんんんんんん????
【シルフィ】
「シルフィ! ノエル!」
最近よく聞くようになった声。
どくんと心臓が跳ねる。これが突然名前を呼ばれたからなのか、それとも別の理由があるのか、今はまだわかっていない。
彼が必死に駆けつけてくれたことは振り返ってすぐにわかったわ。
すごい汗。
額から大粒の汗を流し、息を乱し、一目散にここまで走ってきた姿が目に浮かぶ。
私とノエルのことで彼がこうなってしまったという事実に内心嬉しい自分がいたわ。本当は何があったのかをすぐに確認しないといけないのでしょうけど。
胸中を押し殺し、冷静さを装う。
今度は反対に不幸の
結論から言えばそれは
「そんなに慌てて……何かあったのアレン?」
「食べたいものや欲しいものはない? 何でも言っていいよ!」
何を言われたのか──いえ、言葉の意味はわかるのだけれど──全く予想していない言葉に頭が真っ白になる。
食べたいものや欲しいもの……どうして突然そんなことを──?
ああ、そういえば今日は娯楽品の使用料が一括で入金される日だったかしら。
アレンは相もかわらずリバーシやチェス、将棋の対局を挑んでくる。それも隙あらば。
「シルフィさんシルフィさん。ちょいとお相手してくれますかな?」なんて変な口調で。
さすがに飛車、角、銀、桂馬、香車抜きでと言われたときは驚いたけれど──彼の行動の裏には何か理由があることを知っている。これは頭の体操。
これから商業ギルドで百戦錬磨の商人たちと相手をしなければならない。きっとアレンなりの叱咤激励なんでしょう。
言葉にして伝えて来ないあたりが彼らしいわね。
えっ? 「俺はまだ本気出してない?」
えっ、ええ。それはもちろん理解しているつもりよ。
発案者のあなたがここまで弱いだなんてさすがの私も信じていないわよ。猿じゃないんだから。
そんな子どもみたいな負け惜しみで爪を隠そうとしなくてもいいわ。大丈夫よ。
本当は賢者にもなれる実力があることは私とノエルだけの秘密にしておくから。
思わず「可愛い」と
ここで涙を見せるのは卑怯だと思った私は感情のコントロールに神経を割き、大泣きを免れる。
たしかに私とノエルが稼いだお金ではある。けれど私たちは与えられたものをほんの少し有効活用しただけ。
勝者は敗者に一つだけ好きなことを命令できる……ヒントだって、彼の口から直接出たもの。
正直に告白すれば失望されるのではないかと心配だった。
娯楽品を帝都に持ち込めば間違いなく流行し、富豪になる。そこまではわかっていた。
けれど問題はリリースの仕方。
チェスの駒を除けば、どれも簡単に作れてしまうものばかり。模造品が出回るのは時間の問題。
だからこそ私はこの娯楽品がヒットした暁には商業ギルド最底辺ランクの
現在の私にはこれが精一杯だった。きっとアレンが本気を出せば桁があと2つは違っていたはず。
だからこそあれだけの娯楽品を譲り受けておいて、この程度しか稼げないのかお前は──と期待外れになってしまうことを恐れていた。



