第二章 奴隷が生産チートで自重しない ⑪

 奴隷の生活ってご主人様が保証するっていうお約束が機能してたよね!? いらん! その責任いらん! えっ、やっべぇ!

 娯楽品の使用料(特許料? それとも販売実績報酬?)がこれからいくら入ってくるかわからないけど、これ、ヤバいことになってるんじゃ……!?



 ボロボロブルブルブル──プハァァッ!!

 思考の荒波に揉まれた俺は危うく地上へと復帰できずDIEしてしまうところだった。

 あっ、危ねえ……! もうちょっと潜っていたら間違いなくっちまってたぜ。きちぃぜ。

 しかし、深く深く潜り込んだおかげで俺は妙案を思いついている。

 娯楽品をネコババされて大金を稼ぎ出されたあげく、それで奴隷たちを買い占めるというど畜生展開にもかかわらずこの切り替え。惚れ惚れするぜ。

 完璧な計画を脳内で整理しながらシルフィとノエルを俺の部屋に呼ぶ。

 めいきょうすい美人と無機質美少女の二人はどこか落ち着きがないように見える。

 男の部屋に呼ばれたことに強い不安を感じているのだろうか。それとも「この部屋臭うわね」とか軽蔑されているのだろうか。

 キミたち俺の奴隷ってこと忘れとんちゃうやろな。

 俺がヘタレやからえちえち展開になってないけど、ヤリ男やったらパンパンやな!!

 ええい、もういい! 俺さまの完璧な計画に酔いしれな!


「そんなに緊張しなくていいからさ。どこか適当なところに腰かけてリラックスしてくれる?」

「大丈夫よ」「このままでいい」


 座れってんだろうが!

 襲われたら一秒でも早く出ていくために警戒しなくちゃ、ってか? パンパンやぞ!


「わかった。疲れたら楽にしていいからね。まずは娯楽品のことだけど、よく頑張ったね。


 正直にいえばネコババしておきながらにゃんにゃんさせてくれないキミたちには失望している。

 とはいえ、奴隷の成果はきちんとめられる男だということをしっかりアピールしておかないと。器もアソコも小さいなんて思われるわけにはいかない。

 さらに、俺は二人のご主人様であるという現実をもう一度刷り込ませる。


「大金は稼いだのだからそのお金で奴隷紋を解きなさい」なんて言われたらたまったもんじゃない。

 この際えちえち展開は延長、という形で手を打とうじゃないか。諦めるわけにはいかないがな。

 だから、しばらくは目の保養までにしよう。

 むろん、俺には風呂、せっけん、マッサージ、アルコール、というボディタッチ計画もある。賢すぎて俺は自分が怖いよ。


「あなたから褒めてもらえる成果じゃないわ」

「同感」


 また嫌味ですか!? なんでそんな謙遜するんですか!

 俺なんて治療院で日当を稼ぐのが精一杯なのに、キミたち二人からすれば300万ドール(3億円)なんて、はした金だって言うのかよ!

 ナニミテルンディス!!

 二人の見つめる視線に耐えられなくなった俺は、本題に入ることにした。


「これからの計画を伝えようと思うんだけどいい?」

「「……ごくり」」と生唾を飲み込む音が村長室に響く。だからなんで緊張した面持ちなんキミたち。リラックスしてよって言ってるじゃん。そんなにこの部屋から早く出たいわけ? もうやだー。


「奴隷を買うときにかかった金額を各自の負債にして、返済したら奴隷紋を解除しようと思う。だから農業と商業にチカラを入れよう。奴隷たちからは労働力を提供してもらって、その労働力を商品に変換、お金にする。みんなに給金を支払って各々無理のない返済で負債を支払ってもらう。どうかな?」


 名付けて『リストラ奴隷返済計画!』


 奴隷のみんなには悪いけど、購入金額分だけの労働力は提供してもらって、返済と同時に奴隷紋解除リストラ

 奴隷たちは奴隷という身分から解放される、シルフィとノエルは資産を回収、俺はご主人様として五十人もの奴隷たちの生活保証義務から解き放たれる。

 ぶはは! ぶはははは!

 伊達に思考の海で溺れかけたアレンさんではないわ!

 奴隷が五十人購入されたとき、俺は前世の社長さんがいかに重荷をその肩に乗せているかを理解した。従業員にだって家族や恋人、養っていかなければいけない事情があるだろう。

 社長は会社のために己の時間を提供してくれる従業員の生活を保証しなければならない。

 無理ぃぃぃぃ! 俺には無理ぃぃぃぃ!

 プレッシャーで胃に穴が開くわ!

 だからこそ、ご主人様である俺、大金を稼ぎ出すシルフィとノエル、そして奴隷という三つの立場全てがWINWINになる計画を編み出した。これなら誰も文句は言うまい。


「まさか【再生】した彼女たちを(安い購入価格で)手放すつもり!?」

「考え直した方がいい」


 二人は目を点にしていたかと思えば猛抗議の姿勢。

 俺社長! キミたち社員。俺が上。キミたち下。俺が上、キミたち下ァァ!

 下は上の言うことに黙って従え!

 ハッ、いかん。これではパワハラ会議ではないか。ぐぬぬ……どうやって説得したものか。


「あなたは飢饉をなくしたいのよね? 人手は必ず必要よ。この計画は理解しかねるわ」


 俺は飢饉をなくしたいんじゃない! エッチしたいだけ!

 なんて声を張り上げることができたらどんなに楽だっただろうか。

 おにょれシルフィ……! 痛いところを突いてきよる。


「できれば奴隷を奴隷として利用したくないんだ。逆らえない仲間じゃなくて志を共にできる戦友の方が心強いと思わない? だから負債を返済してなお、一緒にいたいと思ってくれる人がいればそれでいいかなって」


 一呼吸。


「計画の全貌はこう。ノエルとドワーフたちの錬金術で農具と肥料を錬成。自然に愛された種族、エルフの特性を利用して芋、麦、大豆の生産力を向上させる。そして秘策『料理』三本の柱で新商品を開発、商業ギルドを利用して資金を調達しよう。名付けてアレンミクス。どうかな?」


 女の武器──涙を巧みに操るシルフィさんは俺の甘い性格に付け込み奴隷を爆買いした。

 その勢い、まさしくインバウンド。そのうちご主人様であるアレンさんごと買い占められそうで怖い。冗談などではなく割と本気マジで。

 シルフィの真意こそ不明だが、この俺に五十人もの奴隷の生活を保証する重圧は耐えられない。

 押しつぶされてぺちゃんこである。そういうのは女の子のお尻だけでいい。

 そもそもどうして俺の口座に300万ドールもの大金が振り込まれていたのか。

 シルフィ曰く、


「娯楽品の売上の1%がアレンの口座に振り込まれることになっているわ。だからまだしばらくは収入が期待できるわよ」

「近日中に商業ギルドゴールド会員に昇格よ。これで商売はやりやすくなると思うわ」とのことだった。

 一体なにをどうやればわずか二週間で商業ギルドのトップ会員に上り詰めることができるのか。その才覚をちっとは譲りなさいな。

 さらに吉報。

 どうやら帝国皇帝は目新しいもの、未知のものに大変興味があるらしく、特許に近い制度(三年間は発明者の権利を保護する)も敷いているとか。

 アレンミクスを聞いたシルフィさん、


「……はぁ。あなたには慣れてきたと思っていたけれど、さすがに呆れたわ。それじゃ私も好きなようにやらせてもらうから」


 案の定、呆れ果てていた。

 はぁーあ! これでまたえちえちから遠のいちゃったじゃん。

 ため息を吐きたいのは俺の方なんですけどー?

 何気なくノエルを見る。


「シルフィと同じ感想」


 無機質な瞳には俺の顔が映り込んでいた。

 美人(美少女)奴隷たちとエッチする。ただそれだけでよかったんです……。



【シルフィ】


 やっ、やってしまったわ……!

 アレンの思考が遥か先にあることを認められず、混乱してしまった。

 恩人に向かって呆れたなんて……ううっ、失望されたかしら!?

 でっ、でもアレンも戦友が欲しいと言っていたし、物言う奴隷でもいいわよね?

 ──できれば奴隷を奴隷として利用したくないんだ、ね。

 私は少しずつ冷えてきた頭で彼の言葉をはんすうする。

 私のご主人様は飢饉をなくしたいなんて大それた願いを抱く人だもの。

 性格や言動から考えれば、は想像に難くない。

刊行シリーズ

奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだが4の書影
奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだが3の書影
奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだが2の書影
奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだがの書影