第二章 奴隷が生産チートで自重しない ⑮

「私も」


 ドワーフにとって前世の記憶を持つ俺は知識の宝庫とも言える存在らしく、引っ張りだこである。

 先日は魔法を発動しなくても空を飛ぶことができる講義で大盛り上がりだった。天にも昇る気持ち良さである。楽ちぃ。

 もちろんこのときの俺は何千年と積み重ねてきた人類の叡智をたった数年で再現されることなど夢にも思っていない。口は災いの元である。

 ごほん。閑話休題。

 シルフィの拷問により俺は親しみ易いと認識されたおかげで奴隷たちとの距離がグッと近づいたのである。

 村長弱すぎワロタ、みたいな感じで盛り上がったとかだろうか。それはそれで複雑だ。

 しかし、美人(美少女)との距離が近いというのは役得以外の何ものでもない。

 気軽に部屋に招待してくれるし(ドワーフたちの錬金術により竹筋コンクリートによるワンルームが人数分できている)なにより目の保養になる。いい匂いもするし、最高である。

 痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!

 よもや逆五十人切りなどと血も涙もない拷問の裏にこんな狙いが隠されていたとは……!

 感動した俺は素直に、


「すごいよシルフィ!! ありがとう!!」


 と感謝を伝えたところ、


「(アレンならこの程度の人望)当然よ」


 とくちを吊り上げていた。

 しゅごい……! カッコ良すぎる! もう抱いてシルフィさん!!

 ちなみに現在はお昼である。これで文句を言われないどころかお早いと言われるのだから『遊べ! みんな遊ぶのだ!』発令は成功したと言ってもいいだろう。

 全く想像していなかった集団生活は思っていたより悪くない。快適。楽しすぎる。

 だが、人数が増えたことで不満もあるわけで。

 そう。俺の奴隷たちが全然自重しないことである。たとえばあれ見てみ?


「【げんじゅけい】──びょうしゅつ


 はい。もうすごいやつ。聞いたらわかる。すごいやつやん。

 シルフィが神秘的な光に包まれたかと思いきや、それに呼応するようにアウラが輝き出す。

 現在は合掌で集中しているシルフィさんから事前に聞いた話によりますと植物を自在に操ることができる木魔法(以下、略して【木】)は【風】の進化属性とのこと。

 選ばれし者しか発動できないらしい。

 しかしシルフィの固有スキル【無限樹】は風に愛された種族であれば【木】を発動させることができるらしい。


「俺は? ねえ俺は?」と聞いたところ「アレンは無理よ」との返答。

 ええ、まあわかっていましたとも。俺は【火】【水】【風】【金】【土】全て発動できませんから。

 風どころか魔法と運命に愛されていませんから……辛い。

 さらに【無限樹】のすごいところは書いた字の通り、無限に系図を引くことができること。

 今回新しく加わったエルフ奴隷の中でも頭三つほど抜けているアウラが選ばれ、彼女に系図が敷かれていく。

 アウラもまた目利きしたエルフに【無限樹系図】──描出することができるらしい。

 さらにシルフィの意志一つで系図の取り消し、無効化も可能という。

 俺はもう彼女には張り合わないことにした。勝てない。もうどうやったって勝てない。まずい。このままどんどんシルフィが強くなっていく。いつの日か押し倒せる日が来るのだろうか。

 いざとなったら大樹の猛撃を【再生】一本による進撃で対抗しよう。男の子のえっちしたい欲望を舐めてはいけないよ。

 続いてノエルたちドワーフたちの出番である。彼女たちは俺が一生懸命土を掘り返したところに肥料を撒いたあと、


「「「「【浸透】」」」」


 土魔法を一斉に発動する。

 ドワーフ自慢の肥料に含まれた栄養を土壌に行き渡らせる魔法とのこと。

 発掘を得意とする種族である彼女たちは【土】はお手の物らしい。

 ただし、【金】を扱う発明の方がやりがいがあると言っていた。モノづくりをさせろということだろう。

【土】は地下水を土壌に引き上げることができるため、準備万端。

 俺が硬い土を無限【再生】で掘り起こし、鍬で耕し、ノエルたちが肥料を投入。栄養を吸収し、魔法の圧力を利用して地下水を引き上げ、種を植える。

 ここで印相を結んだシルフィとアウラが、


「「木魔法【はっせいじつ】!」」


 発芽、成長、結実からそれぞれ一文字取った発成実は俺命名である。

 シルフィから一緒に魔法名を考えて欲しいと頼まれた俺はちゅう心を完全に掌握されていたようである。

 なんというか命名したものを真剣な声音で発せられるとむずむずする。

 余談だが、植物の成長を促すことができる魔法が存在するなら農業知識は不要ではないかと思うことだろう。

 事実俺はシルフィから「要らない子」宣告を受けるのではないかと内心ビクビクしていた。しかし、どうやら俺の知識は大いに役に立つとのことだった。

 コストパフォーマンス面が圧倒的に良いとのことである。

 瘦せた土地で植物の成長を促進させた場合、その分魔力を消耗する(※ただし、これは穀物など食用の植物に限る話で、攻撃用の木を生やすだけなら何の問題もないらしい)。

 さらに穀物の場合、土壌の栄養や水分が味に直結するため、環境が整備されているところで【発成実】を発動する方が圧倒的に効率が良いらしい。

 現代知識がきると聞いてアレン一安心。

【発成実】の素晴らしいところは時間のスキップと本来の農業では難しい異なる植物を同時に結実させられる点だ。

 集中することで植物の栄養を自在にコントロールすることができるため、雑草や虫、病原菌の影響を受けることなく収穫にありつけるというチートっぷり。

 もはや俺にできるのは神経と魔力を消費した彼女たちを労い、マッサージすることだけなのだが、【再生】持ちということで柔肌に触れることさえできないという……辛い。

 早送りしたようにグングンと小麦が育っていく光景はここが異世界なんだなと思い知らされる。

 せめて収穫ぐらいは役に立たせてくだせえ、そう思っていたのだが。


「アレン様はお休みになっていてください」

「収穫と後処理はお任せ」

「見ていてくださいな村長様」


 俺の唯一活躍できる場面でしゃしゃり出てきたのはエルフのみなさん。おめえの席ねぇから! と言われている気分である。


「「「──風よ」」」


 まだなんも言ってへんのに詠唱始めよったでこいつら!? 搾取や! 村長の出番を根こそぎさらう気やでこいつら!

 さすがは風に愛されたエルフ。

 ジェンガでも一片を繊細に抜き取ることができる彼女たちは【風刃】で刈り取り、くだく・ひく・ふるうという手順を風圧や風力を自在に操作し、手を汚さずやってのける。

 褒めてください、と言わんばかりのドヤ顔。ちっ、チミたちというやつは……キチィぜ。

 しかし、ここで拗ねて帰ってはリストラ後の反撃が恐ろしい。


「すごいよみんな!!」

「「「えへへ」」」


 可愛い&お美しい。まあ、いい。女の子の笑顔は決してお金で買えるものじゃない。

 それに笑っていられるのも今のうち。

 くくく……俺が何の秘策も用意せぬまま、シルフィやアウラ、ノエル、奴隷たちに農業チートをさせるわけがなかろう!

 次回、アレン調理チートで死す☆ デュエルスタンバイ!!!!



【シルフィ】


 アレンは娯楽品により驚異的なスピードで奴隷たちと打ち解けたわ。

 対局することでアウラの警戒心を解いた手腕は本物だったということかしら。

 さらに「娯楽で好きなだけ遊んでいいよ。できれば誰か相手して欲しいな」と積極的に交流。

 ご主人様であるアレン自ら行動で示すことで奴隷たちも修道院ここが快適だと認識するのに時間はかからなかった。

 アレン──村長の魅力は瞬く間にでんした。

 命令も強要もしない。最低限の労働を果たせば、自由にしてもいい。許可なく娯楽に興じることもできる。

 人望を集めないわけがない。

 だからこそ彼女たちは定住したい意思を行動で示すようになったわ。


「「「「【浸透】」」」」

「アレン様はお休みになっていてください」

「収穫と後処理はお任せ」

「見ていてくださいな村長様」

「「「──風よ」」」


 エルフとドワーフが率先して魔法を発動。村長であるアレンに己を売り込んでいく。

刊行シリーズ

奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだが4の書影
奴隷からの期待と評価のせいで搾取できないのだが3の書影
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