第五章 ヴァイス、娘の為に奔走する ⑩

 先生はカウンターの上にどさっと黒い袋を載せた。デザインについては完全に任せていたから、どういう風に仕上がっているのかは分からない。

 店の商品を見る限り、案外お洒落に仕上がってるんじゃないかと期待はしている。先生の作るローブは商業通りのメインストリートを歩いていても全く違和感のない最先端のデザインで、まさかこれを年齢不詳のおばあさんが作っているとは誰も思わないだろう。


「…………アンタ、何か失礼な事を考えてるね? 悪いけど私はまだまだ現役の乙女だよ。精々期待しとくんだね」


 先生は不敵な笑みを浮かべた。見た目はともかく、そのきとした表情は確かに乙女だった。




「リリィー、ローブが出来たぞー」

「! ろーぶろーぶ!」


 玄関から声を掛けると、リリィがリビングから飛び出してくる。俺が持っている袋に向かってぴょんぴょんと手を伸ばすので渡してやると、リリィは奇声を発しながらリビングに走り去っていった。


「リリィ、転んだら危ないぞ」

「だいじょーぶー!」


 リビングに到着すると、リリィは待ちきれない様子で袋を開けている所だった。

 袋の口から漆黒の生地が顔を出している。お、なんかいい感じっぽいぞ?


「~~~ッ!」


 リリィがローブを手に取り感激の声を漏らす。

 ローブは袖付きの羽織るタイプだった。色は深い漆黒。てっきりクリスタル・ドラゴンの素材をかして白銀のローブになると思っていたんだが、いざ実物を目の当たりにするとこっちの方がリリィに似合っていると確信出来る。エスメラルダ先生も同じことを思って素材を染めたのだろう。しかしクリスタル・ドラゴンの面影がないかと言われればそんな事はなく、随所にクリスタルがちりばめられているし、よく観察すれば生地全体がキラキラときらめいている。袖先の部分など要所要所には模様が入っていて、上品さと可愛さが見事に融合していた。


「ぱぱ、ぱぱ! ろーぶ! じゃーん!」

「────おお…………!」


 ローブを身に纏ったリリィが俺に向けて両手を広げる。

 そのあまりの可愛さに、俺は言葉を失った。

 …………大丈夫なのか、これ。可愛すぎて学校で問題になったりしないか。


「可愛いぞ、リリィ」


 ────今すぐ帝都に住む全員にこの可愛い娘を自慢したい。そんな強烈な衝動を何とか心の中で抑えつける。

 俺は親バカじゃないからな。

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売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした2の書影
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