六章 聖女襲来 ⑦

 ヴァイスにそう言われ、リシアはレンに宛てた手紙を受け取った。

 リシアは少し落ち着きを取り戻しつつあったのか、手紙を読む姿に動揺は見られない。

 紅潮していた頰もその色を抑えていたし、早鐘を打っていた胸も規則正しい鼓動を繰り返している。



「……ほんと、まるで恋文ね」



 はじめて私的な手紙を認めたから、ということだけが原因じゃない。

 どうしてもレンにクラウゼルへ来てほしい思いからか、書いていた際に熱が入り過ぎていたようだ。

 リシアは改めてもう一通の手紙を用意しようとした。

 しかしヴァイスに「そろそろ出発しないとなりませんぞ」と言われ、断念した。

 では恋文もどきの手紙はどうするのかというと、切り刻んで捨てることも考えたが、再度ヴァイスに急かされて、この屋敷で処分することは諦めた。

 だからリシアは、気恥ずかしさからその手紙を乱暴に折りたたむ。

 懐にしまいこんだそれは、村を離れてから処分することに決めた。


◇ ◇ ◇ ◇


 ヴァイスと共に急いで屋敷を出たリシアは、アシュトン家の三人と言葉を交わした。

 彼女は急な来訪の謝罪や世話になったことへの礼に加え、改めてシーフウルフェンの件の褒美などを告げると、急ぎレンが住む村を発つ。

 そして、村と森をつなぐ吊り橋を過ぎてからのことだった。

 唐突に前方から吹き付けた風がリシアに目元を覆わせて、同時に彼女の服を僅かにあおった。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ええ、心配しないで。ちょっとびっくりしちゃっただけだから」


 リシアが微笑みを浮かべて言えば、馬は止められることなく進みつづける。


 ……このとき、リシアは気が付いていなかった。

 先ほどの風で服があおられたとき、隠していた手紙がその風にさらわれていたことに。

刊行シリーズ

物語の黒幕に転生して7 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して6 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して5 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して4 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して3 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して2 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影