刑罰:クヴンジ森林撤退支援 1 ③

 聖騎士団の別動隊が、接敵に気づいてから瞬く間に壊滅させられた。奇襲には警戒していただろうに、こんなに容易たやすく。それはやつらが機動力に優れた大軍であることを意味していた。


「だが、まだ全員死んだわけじゃない。助けに行くぞ、ドッタ」

「ええっ」


 ドッタは目を見開いて俺を見た。とんでもないほうを見る目だ。


「無理だって、絶対」

「まだ粘ってるやつもいる」


 おおよそ二十人に満たないほど。円陣を組み、フーアを迎え撃とうとしている連中がいた。


「あいつらを助けて味方にした方が得だろうが」

「ぜんぜん得じゃないって!」

「聞け、アホ。この任務は聖騎士団過半数の離脱だろ。それなら一人でも多く助けた方が成功する確率が高くなる。それに」

「それに?」

「そろそろ思いっきり暴力を振るいたい気分だ」


 俺は笑ってみせた。ここまで理由がそろえば、もう十分だろう。


「戦うぞ、あいつらを助ける」

「──た、たかう」


 不意に聞こえたその問いかけに、俺は戦慄した。ドッタの声ではない。

 たどたどしいが、薄い鋼を弾いたような声だった。

 俺はそこで気づいた。棺桶の蓋が開いている。その中から、《女神》が上半身を起こしていた。おまけに目を開き──その瞳が炎の色に輝き、射るように俺を見た。


「たたかう。た、すける。……なるほど」


《女神》は、うめくように呟いて、悠然と立ち上がる。


「いい言葉、です。あなたが、私の、騎士のようですね」


 彼女は一語一語を区切って発する。

 黄金の髪の毛が、火花を発しながら風になびいた。炎の色の瞳が動き、俺を頭からつま先まで、睨みつけるように眺めた。そしてわずかに眉をひそめると、数秒の後にうなずいた。


「いいでしょう」


 発音が徐々に滑らかになっていく。


「合格点を差し上げます」

「なんだって?」

「戦いが始まるのでしょう。それも、他者を救うための戦いが。《女神》として、あなたに勝利を約束してあげます。よって──」


《女神》は金の髪をかきあげた。強い火花が散る。


「敵をせんめつした暁には、この私をたたえ、そして頭をでなさい」


《女神》。彼女たちにはいろいろな型が存在する。個性がある。

 だが、いずれの《女神》にも共通する項目がたった一つある。戦いに関するプライドの高さと、承認欲求の強さだ。俺はそれを、よく知っている。《女神》を運用していたことがあるからだ。


「……ドッタ」


 俺は傍らの、小男の首に腕を回した。絞めつける。


「今回ばかりは、お前の言った通りだ。何もかも終わりかもしれねえ」

「ぐぇぇぇ……えっ? なに、やっぱり?」

「そうだよ」


 それもこれも原因はすべてドッタにある。俺は腕に力を込めた。


「こいつ、ホンモノの《女神》だ。それも──たぶん未起動の。十三番目の《女神》だよ」

刊行シリーズ

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録VIIIの書影
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録VIIの書影
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