刑罰:クヴンジ森林撤退支援 4 ①
俺たちが辿り着いたとき、すでに戦端は開かれていた。
夜の冷たい風にのって、たくさんの人間の怒号と、
「ああ……やってる。もう手遅れじゃないの?」
ドッタが憂鬱そうに言った。
聖騎士団の救出にあたり、こいつはまったく気が進まないようだ。パーセル川に沿った陣地では火が
火に照らされているのは、懐かしい白の
ときおり
あれはもはや杖というより、
要するに、おおむね彼らはよく持ちこたえているといえた。
防衛線は
(知ってる顔は、当然いないか)
それに、翻っている青い旗にも知らない紋章が縫い付けられていた。
傾きのない
そのどれにも当てはまらないということは、やはりこの部隊は新しい。俺の知らない貴族の支援を受けている。《女神》、テオリッタは十三番目の新しい《女神》なのだ。
いよいよまずいことをしてしまった、という気がする。が、それもすべてドッタが悪いということは言うまでもない。
「ザイロ、もういいんじゃない?」
と、やつは
「ぼくら抜きでも、聖騎士団は持ちこたえるかも。かなり頑張ってる」
「何を言っているのです。あなたには
テオリッタはドッタに対して厳しく叱責する。
「窮地に陥った人々を助けるのは最大の名誉です。我々の従者なのですから、喜び勇んでついてきなさい! そして勝利の栄光を分かち合うがいいでしょう!」
「勝利の栄光より、
「なんという……、呆れました! 我が騎士、この従者にちゃんと教育しているのですか?」
ここまでの行軍で、ドッタの息はあがっていたが、《女神》テオリッタは涼しい顔だ。このくらいの運動量で音をあげるなどありえない、とばかりに優雅な振る舞いをしている。
単なる強がりだ。
「私、従者は厳選するべきだと思います。彼にはやる気も根性も足りません」
どうやらテオリッタはドッタを「従者」だと認識しているらしい。《女神》にはよくある。俺にはどういう回答もできない。
ただ、渡河地点の攻防に意識を集中させるだけだ。
ドッタの言う通り、聖騎士団は想像以上に善戦してはいる。が、いつまでも持つものではない。たったいまも、突出してきた
「さっさと行くぞ。攻防が始まって、そこそこ時間が
俺はすでに足音を殺し、歩き出している。
「
これは当然の戦い方だ。
(もし、俺が魔王側だったら──)
渡河地点を抑えられて、正面突破では損害が大きすぎる。そういう場合、上流か下流の渡河地点へ迂回を考えるべきだ。別動隊を組織してそっち側に送る。普通はそういうことをする。
そして、聖騎士団にそれを抑える別動隊の戦力はすでにない。
さっき俺たちが遭遇し、壊滅していた部隊がそれだっただろう。あっちの迂回は俺たちが介入したことで失敗したが、兵力で圧倒している以上、別の渡河地点にも送り込んでいるはずだ。
結論として、急いで合流し、決定的な打開策をとる必要がある。
「それじゃ、ドッタ──」
名前を呼んだとき、気づいた。
まさか、と思う。この流れで、そういうことをするか? 正気か?
「テオリッタ。あいつは?」
「え? あら……?」
テオリッタも驚いたように周囲を見回す。
姿がない。とんでもないやつだ。このタイミングで逃げるとは──いや、いつものことだ。それにしてもすさまじい逃げ足の速さ。感心するしかない。
それに何より、地面には布切れが一枚落ちている。
墨で文字が書いてある──『別動隊として、聖騎士団から金目のものを盗んでおきます』。呆れるという気分を通り越している。後で見つけたら殺そう。俺たち懲罰勇者が一切信用できないクズだという説を、真っ先に証明しやがった。
「あの従者の方、どちらへ?」
「……急用を思い出したんだろ。どうせたいして役には立たねえから、いいんだけど……それより、テオリッタ。これからあんたの力がいる」
「ええ」
彼女は目を炎の色に輝かせた。嬉しそうに。
「やはり最も頼れるのは、この私ですね。奇跡の力が必要なのでしょう? 感謝しなさい」
「……感謝してもいいが、やれるか?」
と、あえて俺が尋ねたのには理由がある。
《女神》も疲れるということだ。運動すれば限界が来るし、召喚の奇跡を使っても体力を消耗する。無限に呼べるわけではない。先ほどはあれだけの剣を召喚したのだ──相応に疲弊しているはずだった。
「無礼ですよ、我が騎士ザイロ」
彼女は事実、不機嫌そうに口を
「私は剣の《女神》、テオリッタ。人に奇跡をもたらす守護者です。求めるならば与えましょう。それこそが私の意味のすべてです」
(ふざけんなよ)
と、言いたい。俺は《女神》の、こういうところが嫌いだ。
本気で俺たち人間のために命を消費しつくすつもりでいる。そうやって命をかけるのは、ただ人間に褒めてもらうためだ。俺はそんなやつを見ていたくない。
「ですから、我が騎士。いくらでも私を頼りなさい」
テオリッタは誇らしげに言った。その態度を賞賛されたがっているのもわかった。お断りだ、と俺は思う。そうはいくか。
「《女神》にも限界があるのは知ってる」
俺は吐き捨てるように言った。
「死ぬまで戦うなんてことはするな。そんなことで俺は褒めない」
「なんですって?」
テオリッタが驚いたように言ったところで、そのときが来た。
強引な渡河攻撃。川沿いの聖騎士団の防衛力を、ついに
「テオリッタ、剣を頼む。後ろから追ってこい」
「──ええ。我が騎士。いまの話、あなたには言いたいことがありますが」
俺が走り出すと、テオリッタは優雅に髪をかきあげた。
「勝利してからといたしましょう」
火花が散る。虚空が



