刑罰:クヴンジ森林撤退支援 4 ②
今度は空から降るだけではなく、地面からも生えた。その一本の剣の柄につま先をかけ、ちょっとした踏み台の代わりにして、俺は勢いよく飛んだ。
空を飛ぶような、高い跳躍。
身の丈の三倍以上は、余裕をもって跳ぶことができる。これが俺に使用を許可された、もう一つの聖印だった。
こっちの製品名は『サカラ』という。
空中戦。
これが、俺に搭載されたベルクー種雷撃印群の主な設計思想だ。上空からの火力投射。飛行する種類の
難点は、この手の変則的な白兵戦には相応の訓練が必要になること。空中機動を行いながら、高速に、かつ的確な攻撃を実施できなければならない。俺はその専門家だった。たぶん、連合王国でほんの数人の専門家。
だからできる。空を飛びながら、テオリッタの呼び出した剣を摑む。振り下ろす動きで、今度は『ザッテ・フィンデ』──爆破の聖印を浸透させ、投げる。
狙いは川岸、浅瀬に
爆破は群れの中心で起きる。フーアどもの肉が
俺が剣を使う場合、目的は斬撃ではない。『ザッテ・フィンデ』の聖印による爆撃を使う。
(数が多いな。まずは減らす)
空から降ってくる無数の剣も、やつらを生かしてはおかない。真正面から向かってこようとしたフーアは串刺しになって、地面に縫い留められた。
俺は水を跳ね上げてそこに突っ込む。剣を叩きつけ、吹き飛ばす。
「テオリッタ!」
俺は次の剣を要求した。
(次だ)
体を旋回させながら、次の敵を。次の獲物を捕捉し、跳躍し、斬り進む。俺の動きに従って、水しぶきと血と肉片が混ざり合う。
(次)
重要なのは、動きを止めないこと。それがコツだ。
「──どうした、おい!」
俺はフーアどもに向けて怒鳴った。それだけの余裕ができたということだ。呼吸を一つ。
「これで終わりなら楽勝だな!」
背中を見せた一匹を斬り飛ばしたとき、気づけば周囲に敵はいない。退いていた。
これで聖騎士団の防衛線を食い破りかけていた、
俺と、《女神》テオリッタに。
当然、やつらもめちゃくちゃに困惑していた。俺なんて水と血と肉片で、全身がどろどろのずぶ
(こういうとき、声をかけておくべきなのは──)
俺は聖騎士団の中に、ひときわ白く磨かれた
「──誰だ?」
指揮官らしき者は、とてつもない警戒心の
どうやら女だ。
こと軍事的な領域に限り、聖印の発展により男女の差異は減少しつつある。
「何者だ! 所属と名を名乗れ!」
と、指揮官の女は繰り返した。
睨む相手を貫くような目だ。その鋭い目がさまよい、俺の背後に控えるテオリッタに止まって、よりいっそう混乱の度合いを深めた。
「そ、……そちらにおわすのは、我らが《女神》ではないか! なぜ目覚めている!」
そう叫びたくなる気持ちはわかる。俺が向こうの立場なら、もうわけがわからない。ただ、そんなことを説明している場合ではないし、説明したところで状況が変わるわけでもない。
いまはみんなの命がかかっている。
「気にするな」
俺は一言で切り捨て、また別の剣を地面から引き抜いた。
「わけのわからん状況だと思うが、それはぜんぶドッタのせいだ。歴史に名を刻むレベルのコソ泥だぜ、あいつは」
「待て。いや、待て。本当に。なんだ? ドッタ? い、意味がわからんぞ」
指揮官の女は俺の発言を止めようとする。
「説明しろ! お前は何者で、何がどうなっている。なぜ《女神》が──」
「いまはたぶん、説明してる場合じゃない」
俺は川岸の向こうを、剣の先で示す。
いっそう黒々とした夜の闇が、そこにわだかまっている気がする。
「魔王が近づいてきてる」
「それはわかっている! だが──」
「俺は勇者で、これから魔王を殺す」
この発言に、指揮官の女は沈黙した。本格的に状況の混乱が許容量を超えたのかもしれない。
「そういう仕事だ。いまから始める。死にたくなければ手を貸せ」
──世の中には言い方というものがある。らしい。最近、俺も勉強しはじめたところだが、さっぱり上達しない。
これのせいで、俺はいつも貧乏くじを引いている気がする。



