刑罰:クヴンジ森林撤退支援 5 ④

 それに激痛で叫ぶ魔王──ざまぁ見ろ。魔王からの命令が一時的に途絶え、親を見失ったひなどりのように、混乱して走り回る異形フェアリーども。興奮して殺し合いを始めてるやつもいる。


「……我が騎士! こちらを見なさい!」


 名前を呼ばれた。テオリッタ──眩しいくらいに瞳が輝いている。炎の色だろうか?

 それと、あと一つ。


(……なんだこれ)


 幻覚であればいいと思った。そのくらい、それはあまりにも異様かつ滑稽で、見たくもないものだった。


「……あー……ザイロ?」


 そいつは俺を困ったように覗き込んでいた。

 史上最悪のコソ泥、ドッタ・ルズラス。あいつの薄汚い顔を、いまここで見る羽目になるとは。


「何やってんの、こんなところで」


 お前にだけは言われたくないと思った。

 しかもやつは子供が入りそうなデカさのたるを背負っていた。そこに書かれている文字を見て、俺はきょうがくした──『ヴァークル社』『取扱注意』『リーヌリッツ第七号兵装』──そして『焦土印』。


「ドッタ」


 俺は笑ってしまった。笑いながら体を起こす。

 全身が痛んだが、そんなことを気にしている場合じゃない。ドッタの胸倉を摑んで、逃げないように押さえつける。


「また盗んだな?」

「これは違うんだ。忍び込んだぼくの目の前に、ちょうど置いてあったから──」

「よくやった。あとで殺すのは勘弁してやる」



 それからのことは、別に語るほどのことではない。焦土印は、言ってしまえば聖印を刻んだ木片の集合体だ。その樽自体が、木片を組み合わせた兵器なのだ。

 こんなものを盗んでしで持ち歩いていたドッタは度を超えたアホだ。樽を構成する「安全装置」の木片を、何本か引き抜いて起動する。引き抜く数量で威力を制御し、爆破半径を絞ることができる。俺の知っている製品と同じ型で幸いだった。

 すでに殻を破壊された手負いの魔王相手なら、最低限の爆破でよかった。このあたり一帯を更地にする必要はない。

 俺はその樽を思い切り蹴飛ばし、そして同時に跳んだ。ついでにドッタも抱えてやったのは、せめてものサービスだった。着地と同時にやつを殴り倒したのは言うまでもない。

 地面を抉り、森の一角に閃いた爆発を、俺たちは間近で聞いた。

 このようにして、俺たちは魔王『オード・ゴギー』を撃滅し、聖騎士団の撤退支援を完遂した。

 ──もちろん、語るべき問題はその後のことだった。

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