刑罰:ゼワン=ガン坑道制圧先導 3 ③
女神殺しの罪を負って、聖騎士団を追われたとき、俺は自分の中から理想──とでもいうべきものを
だが、『やつら』の存在に気づいて、あまりにも馬鹿げていると思った。
人類の存亡を懸けた戦いで、俺を嵌めて《女神》を殺させるような『やつら』。あいつらには借りを返してやらねばならないが、戦うための理想はもう残っていない。顔も知らない誰かのために戦うなんて、かつての俺はどうかしていた。
(ただ──)
俺はさっきから視線に気づいている。
聖騎士団のやつらのことじゃない。《女神》だ。テオリッタが俺を見ている。
テオリッタは、先ほどから一言も発していない。何かを恐れている──あるいは期待する目だった。正直、やめてほしいと思う。なんで黙っているかと言えば、黙っている方が有効だと知っているからか?
おそらく違う。テオリッタは、本当に怖がっているのだ。
(まあ、そうだよな)
俺は《女神》のことを知っている。
人から褒められることを望む反面、人から否定されることが恐ろしい。心の底から恐れている。特に、自分が選んだ聖騎士に否定されると、死にそうな顔をする。
だからテオリッタは発言ができない。この場にいる誰もが──ノルガユ以外は、自分の意見を否定するだろうと感じているから何も言えない。
(それに、このアホ)
怒鳴り散らしているノルガユ。言っていることは間違っていない。本当にこいつが国王ならば、そういう判断もいいだろう。さぞかし人気を集めるはずだ。
そして、このまま怒鳴り続ければ死ぬ。聖騎士団に歯向かえば、首の聖印がタダじゃおかない。命令違反を犯して必ずそうなる。
(どいつもこいつも)
急激に腹が立ってきた。俺はいつもそうだ。いつもこれで何もかも台無しにする。
テオリッタもノルガユも、自己犠牲みたいな行動でどうにかしたがるクソアホ野郎だ。どうしてそんなに死にたがるのか。好き勝手言いやがって!
気が付けば、俺はノルガユ陛下を押しのけてキヴィアの前に立っていた。
「提案だ。……俺たちが、残ってる作業員を助けに行く」
とうとう言ってしまったが、本当は、そんなやつらのことはどうでもよかった。俺は《女神》やノルガユのように正しくない。
ただ腹が立っているだけだ。
「勇者部隊だけで、それをやる。坑道最深部での前線基地設営は終わってる──もう十分だろ。あんたらはあんたらで、作戦通りやればいい」
ノルガユ陛下が満足そうにうなずき、テオリッタの目が炎のように燃えるのがわかった。暑苦しいからやめてほしい。
「俺たちは勝手に救出作業をやる。間に合わなきゃ生き埋めにしてくれ。それならいいだろ?」
キヴィアはいっそう顔をしかめたが、神官は苦笑した。
勝手にしろ、とでもいう笑い方だった。それはそうだ。俺だって、俺みたいなやつを見たら笑ってしまうだろう。勝手にしろ、ではなく、勝手に死ねとさえ思う。
「失敗しても、俺たち勇者どもが死ぬだけだからな」
「……ザイロ! 我が騎士!」
テオリッタが俺の腕を摑んだ。
しがみついた、といった方が正しいかもしれない。小型犬のように軽い体重だった。
「それでこそ我が騎士です。勇敢な発言、私の目は正しかったと証明されました」
テオリッタは飛び跳ねんばかりに喜んでいる。というか、軽く飛び跳ねていた。
「よろしいですね、キヴィア! 神官よ! 救出に成功した暁には、あなたたちも私たちの偉業を褒め讃え──」
「もちろん、この《女神》はあんたたちに預ける」
「え」
テオリッタは愕然とした顔をした。
が、当然のことだ──《女神》を連れて、生き埋めになるかもしれない仕事に付き合わせる愚行が許されるはずがない。
俺は腕にしがみつくテオリッタを抱え上げ、キヴィアに差し出した。やはり軽い。
「待ちなさい、我が騎士! 騙しましたね! このっ、万死に値しますよ!」
テオリッタは暴れたが、どうしようもない。そもそも俺は騙していない。
「うまくやって帰ってきたら、歓迎してくれ」
キヴィアは無言で、神官は苦笑しながら首を振り、俺たちに背を向けた。
それが答えだった。こうして俺はまた自分の墓穴を深く掘った。



