第二幕 ④
ホロは、あの時
「どこが噓かとか、
ロレンスはうなずき、考える。さすがにそこまでは期待しない。
が、取引そのものが噓でない限り、結果としてゼーレンの噓は銀貨についてのものとなる。
「貨幣への投機自体は珍しいことじゃない。だがなあ……」
「噓をつく理由がわからない、じゃろ」
ジャガイモの芽をくりぬいて、残ったところを口に放り込み、ロレンスはため息をつく。
ホロはもうすでにロレンスのことを
「噓をつく時、大事なのはその噓の内容ではなく、なぜ噓をつくかというその状況じゃ」
「
「ふふん、ぬしはあのゼーレンという男を
得意げに笑うホロだが、ロレンスはこの時ばかりはホロが人間であって欲しくないと願うばかりだ。自分が苦労して得てきたことを、見た目どおりの若さのホロが手に入れているとしたらロレンスの立つ瀬がどこにもないからだ。
そんなことを思っているとホロが意外な言葉を放ってきた。
「もし、わっちがいなかったら、ぬしはどう判断するよ」
「うむ……
「それはなぜかや」
「真であればそのまま
「うん。じゃあ、わっちがぬしのそばにいて、あの話は噓じゃと教えたら?」
「ん?」
そこで何か化かされているような気がして、ようやく気がついた。
「……あ」
「うふ。ぬしは始めから何も迷うことなどありんせん。どの道乗った振りをするんじゃろ」
ニヤニヤ笑うホロに、ロレンスはぐうの音も出なかった。
「この余りのジャガイモは、わっちの物じゃな」
ホロはベッドから手を伸ばしてテーブルの上のジャガイモを取ると、にこにこしながら二つに割る。
ロレンスは、苦々しくて手元の二つ目を割る気になれなかった。
「わっちは
そんなふうに気
なんだか、
翌日、外は
豊作の神など認めない教会の者と、その当の豊作の神が親しげに
信徒達と別れ、井戸のそばで
「わっちのだんな様の
ロレンスは冬も近くなった秋の朝の冷たい井戸水を思い切り頭からかぶり、ケタケタ笑うホロの笑い声が聞こえない振りをしたのだった。
「しかし、こやつらも
ホロが
「教会は昔から偉いだろう」
「いやいや。わっちが北からこっちに来た頃はまだそんなでもなかったわいな。少なくとも
時折耳にする自然学者の教会批判と似たようなものだが、それを言っているのが何百年も豊作を
もっとも、寄付箱に入れた
「これも時代の移り変わりかの。この分だとだいぶ変わっていそうじゃ」
とは、故郷のことかもしれない。
ロレンスはホロの頭をぽんぽんと軽く
「おまえ自身は変わったのか?」
「……」
ホロは無言で首を振る。こんな
「なら故郷も変わっていないだろ」
今はまだ
例え家出同然に故郷を飛び出してきた行商人であっても、行商人なら全ての者が故郷を大事にする。異国の町で頼れるのは同郷の者達だけだからだ。
そんな行商人達が、もう何年も故郷に帰っていない者達に言う言葉がそれだ。
ホロはうなずいて、外套の下から少しだけ顔を出した。
「わっちがぬしから
笑いながらそう言ったものの、きびすを返して部屋のほうに戻ろうとしたホロの流し目は、ロレンスに礼を言っているように見えた。
ただ、時折見せる子供っぽい
ロレンスは今年で二十五だ。町の人間なら
「ほれ、はよ来い。何しとる」
少し離れたところでホロが振り向き
まだ出会ってから二日しか
ロレンスは結局ゼーレンの誘いに乗る
ただ、ゼーレンもロレンスと口約束だけで情報のすべてを教えるわけにはいかないだろうし、ロレンスもゼーレンに前金を払うことなどできはしない。どの道ロレンスが毛皮を金に換えなければならなかったこともあり、結局川沿いの港町パッツィオで公証人の下、正式な契約書を交わすことにしたのだった。
「それじゃああっしは先に行ってますんで、パッツィオについて一息ついたらヨーレンド、っていう酒場に来てください。あっしと連絡取れるようになってます」
「わかった。ヨーレンドだな」
ゼーレンは