第三幕 ③
ミローネ商会は船着場から五番目に近い位置にあり、二番目に大きい店舗を構える。板張りの船着場通りに向かって大きく荷馬車の
そんなミローネ商会の荷揚げ場の前に荷馬車を止めると、たちまちのうちに店の人間がやってきた。
「ようこそミローネ商会へ!」
髭をあて、
「以前こちらで麦を買い取ってもらったんだが、今日は毛皮を買い取ってもらいたい。商品は持ってきてある。時間を
「ええ、ええ、もちろん大歓迎でございます。それではこのまま奥に入りまして左手の者達にお声をおかけください」
ロレンスはそれにうなずくと、再び
横にいるホロも、少し驚いているようだった。
「おおい、
忙しく荷揚げや荷降ろしを行っているのを横目に奥に入っていくと、
「毛皮を買い取ってもらいに来た。入って左側の者に声をかけろと言われた」
ロレンスはそう言ってから、その男が荷揚げ場の左側にいたことに気がつき、その男と目が合うと二人して笑い合ったのだった。
「よっしそれじゃあ旦那の馬車は
ロレンスが言われたとおりに男のほうに向かい馬を歩かせると、男は真正面から馬を抱きとめる形になって静止の合図を出した。馬がぶるるんと鼻を鳴らす。男の活気にあてられたのかもしれない。
「ほほう、良い馬だ。こいつは丈夫そうだ」
「文句も言わずに働いてくれる」
「文句を垂れる馬がいれば見世物にするべきだ」
「違いない」
二人は互いに笑い合った。それから男が馬を荷揚げ場の奥まで設けられている
やってきたのは、
「クラフト・ロレンス様ですね。当商会のご利用を店主に代わってお礼申し上げます」
「本日は毛皮の買取をご
今日の天気から話題を切り出す地元業者とは違って単刀直入だ。ロレンスは軽く
「いかにも。この後ろのものがそれなのだが、全部で七十枚ある」
ひらり、と
「ほう、これは良いテンの毛皮ですね。今年はどの作物も豊作で、テンの入荷が少ないのです」
テンは市場に出回る約半分のものが農作業の合間に農夫達によって狩られるものだ。そのため作物が豊作で農作業が忙しいとその供給も減る。ロレンスは少し強気に出ることにした。
「これほどの質を持つ毛皮は数年に一度だろう。
「ほほう、確かに良いつやです。毛並みも良い。大きさはいかがでしょう」
ロレンスは荷台の上から即座に大きそうな物を選んで査定の男に手渡した。商人の商品に持ち主以外が直接手を
「ほほー……これは申し分ない大きさです。えーと、こちらが、七十枚でしたね?」
ここは
「それでは……ローレンツ様は、あ、失礼、ロレンス様は以前麦のお取引をさせていただいておりますので、こちらの金額でいかがでしょう」
同じ名前も国によって発音が違う。ロレンスもよくやるミスなので笑って許し、男が
「トレニー銀貨で百三十二枚を提案させていただきます」
ロレンスは一瞬悩む振りをする。
「これらはなかなか見ない
「その
「私としては今後こちらの商会と良き関係を築いていきたいと考える」
ロレンスは言葉を切って小さく
「いかがだろうか」
「当商会といたしましてもまったく同感でございます。それでは今後の親交も考えまして百四十枚でいかがでしょうか」
見え
トレニー銀貨百四十枚なら上々だ。これ以上押すのは得策ではない。それに、今後の関係もある。
「それで頼む」、とロレンスが言おうとした矢先だった。
今まで黙っていたホロが、小さくロレンスの服の
「ん? ちょっと失礼」
査定の男に断って、ロレンスはホロの
「わっちは相場がわからん。どんなもんじゃ」
「上々だ」
そうとだけ答え、査定の男に商談用の笑みを向ける。
「それでは、ご納得いただけますでしょうか」
向こうも商談のまとまりを察したようだ。笑顔でそう言って、ロレンスは返事をしようとした。
まさか、ここでホロが口を
「しばし待たれよ」
「なっ」
とは、ロレンスの思わずの言葉だ。
それでもホロはロレンスに何かを言わせる前に言葉をつむぐ。この辺の呼吸の
「トレニー銀貨百四十枚。確かにそう申されたかや」
「え、あ、はい。確かにトレニー銀貨で百四十枚です」
今まで黙っていたホロにそう尋ねられ、少し当惑しながらも査定の男が