第四幕 ⑦
その角を右に曲がり、まっすぐ進んで突き当たった大通りを左に折れてまっすぐ行けば、四区画先にミローネ商会がある。大きな規模の商会ならば、少なくとも荷物番の荷揚げ夫達がいるはずだ。そこに
「ちっ。あと少しなんだが」
「うふふ。狩りなんて久しぶりじゃが、狩られるのは初めてじゃ」
「のんきなこと言ってる場合か。仕方ない、遠回りをしよう」
ロレンスは来た道を引き返し、
ただ、右に折れ、先に進もうとしてその足が止まった。
ホロがロレンスの服を引っ張って壁に体を押し付けたのだ。
「いたか! この辺にいるはずなんだ! 探せ!」
ぞっ、とする恐怖は森で
「くそ、相手はかなり人数を
「うーん……だいぶ旗色が悪いの」
「
「名案じゃが、わっちにも考えがある」
「例えば?」
ばたばたばた、という足音が遠くのほうで聞こえている。大通りをくまなく見張っているのだろう。路地から出てきたところを追い詰める算段のようだ。
「わっちが大通りに出て引きつけられるだけ引きつけて逃げるから、ぬしはその間に──」
「ちょっと待て。そんなこと」
「よいか?
ロレンスはぐっと言葉に詰まる。ミローネ商会にはすでに今回の銀切り下げが行われる
そして、そこを交渉できるのはロレンスしかいない。
「しかしどちらにしろ
「捕まらなければよいんじゃろ? それに
ホロはよほど自信があるのか、なんとかそれを止めたいロレンスに笑いかけた。
「わっちは
にやり、とホロが笑うと
しかし、ロレンスの脳裏には、独りは寂しいといって泣いたホロを抱きしめた感覚がよみがえってくる。あんなに
それでも、ホロはにかりと笑うと言ったのだった。
「ぬし、金
「馬鹿を言うな。捕まれば殺されるのが目に見えてるんだぞ。そんなのが
ロレンスは声を押し殺して
「孤独は死に至る病じゃ。十分釣り合う」
ホロの感謝を示すような落ち着いた笑みに、ロレンスは言葉が詰まってしまう。
ホロの続く言葉がそんな
「なに、ぬしの頭の回転の速さはわっちが保証する。わっちはそれを信じとる。必ず迎えにきてくりゃれ」
そう言ってホロは何も言えないロレンスに一回軽く抱きつくと、
「いたぞ! ロイヌ通りだ!」
ホロが路地から飛び出すとすぐさまそんな声がして足音が遠のいていく。
ロレンスはきつく目を閉じるとすぐにかっと見開いて走り出した。この機会をものにしなければもう二度とホロには会えない気がした。暗がりの路地を走り抜け、何度もつまずきながら
ロレンスはとにかく走り、再び大通りに飛び出しそのまま向かいの区画の路地に飛び込む。もうあとは
「一人? 相手は二人いるはずだ!」
そんな声が斜め後ろのほうで聞こえた。ホロは
ロレンスは月明かりが照らす大通りに飛び出し、左右も見ずに左へと折れた。左に曲がってすぐ、後ろから「いたぞ!」と声が響く。
しかしロレンスはそれを無視して全力で走り、ミローネ商会の前にたどり着くと荷揚げ場の柵を力の限りに
「昼間来たロレンスだ! 助けてくれ! 追いかけられている!」
騒ぎを聞きつけて目を覚ましていた当直の男達が
ロレンスが体を
「待て! おい、その男をこちらに渡せ!」
がちゃん、と鼻先で閉じられた柵を棒で打ちのめし、男達が柵に取り付き力任せに開けようとする。
それでも柵を押さえるほうも力仕事をする荷揚げ場の男達だ。そう簡単には開きはしない。
そして、
「貴様ら! ここをどこだと思っている! ここはラオンディール公国第三十三代ラオンディール大公が公認する大ミローネ
その見事な口上に柵の向こうの男達が
柵の向こうの男達は引き際を察したようだ。すぐさま取って返し走っていった。
しばらく柵の内側にいる者達は微動だにしなかったが、やがて足音も消え
「夜中にえらい騒ぎだな。一体なんだってんだ」
「非礼はお
「礼は遠くの大ミローネ
「メディオ商会に雇われた連中だろう。私がこちらの商会に商談を持ち込んだことが気に入らないと見える」
「ほほう。あんたもなかなか綱渡りな商人だ。最近はとんとそういうやつを見ないがな」
ロレンスは
「
「そりゃあ大変だ」