第四幕 ⑨
そうすれば、自動的にホロも見放されることになる。ほとんど身代わりになって
ホロはロレンスのことを信用してくれていたのだ。それでも、結果はこれだった。
少し旅をしてから北の故郷に帰りたい、と言ったホロの顔が脳裏に浮かぶ。
ロレンスの頭にホロが売られていく
ならない。そんなことはさせてはならない。
ロレンスは
「待ってください」
ロレンスは数瞬後にそう言った。
「こちらの商会がそのように判断すると、向こうも当然わかっているはずですよね?」
メディオ商会も馬鹿ではないのだ。だとすれば、メディオ商会はその上でロレンス達をさらおうとしたのだ。それも、あれだけの人数を
「はい。ですから、私はさらにおかしいと思うのです。先ほどの話はあくまでも
ロレンスはそれでようやくマールハイトが「ですが」と続けようとしていたことを思い出した。ロレンスは顔に血が上るのを
「よほどお連れの方が大事とみえます。ですが、そのせいで早とちりをしたり思考を
「申し訳ない」
「いえ、私も
そう言って笑うマールハイトにロレンスは再び頭を下げた。ただ、妻、という言葉にどきりとした。ただの旅の道連れなら、ここまで自分は
「それでは話を戻しましょう。向こうも
そう言われてもロレンスには心当たりなどない。
しかし、順々に考えていくと、自分達を
ロレンスは考える。
思い当たることが、一つだけあった。
「いや、でも、まさか」
「何か思い当たることが?」
ロレンスは自分の頭に思い浮かんだことをとっさに否定してしまう。そんなことはあり得そうもない。しかし、それ以外には思いつかない。
「我々が目の前にしている
マールハイトの言うことはもっともだ。ただ、それでもおいそれと言えるようなことではない。
ロレンスの頭に浮かんだのは、ホロのことだ。ホロはどう見てもまともな人間ではない。世間一般では悪魔
そんな悪魔
悪魔憑きと商談をかわした商会として教会に告発されたくなければ、今回の話から手を引け、と。
教会裁判になれば、メディオ商会は悪魔憑きの人間を
しかし、ロレンスは「まさか」と思う。
一体、どこの誰がいつホロは
ホロの様子を見る限り、そんな簡単に誰かに正体がばれるほど間がぬけているようには見えない。今のところ自分以外に誰も気がついていないだろう、という確信がロレンスにはあった。
「ロレンスさん」
そんなマールハイトの声に、ロレンスは黙考からハッと我に返る。
「心当たりが、あるんですね?」
マールハイトの
しかし、うなずいてしまったらそれを言わなければならない。そして、もし、万が一その可能性が間違っていたとしたら、ロレンスは余計なことをマールハイトに伝えることになる。
最悪の可能性として考えることができるのが、ミローネ商会が先手を取ってメディオ商会のことを逆に悪魔憑きの
そうなると、どの道、ホロは助からない。
対面のマールハイトの視線が重くのしかかる。
ロレンスは逃げ道が見つからない。
そんな折だった。
「失礼します」
そう言って部屋に入ってきた者がいた。ミローネ商会の人間だ。
「どうした?」
「先ほど
商会の者が差し出したのは、
「狼と……狼の住む森へ?」
ロレンスはその瞬間、自分の予測が当たったと気がついた。
「申し訳ありませんが、先にそれを見せていただけませんか」
ロレンスのそんな申し出に、マールハイトは少し
ロレンスは礼を言って受け取り、一度深呼吸をした後に封を破った。
中から出てきた一通の手紙と、そして、ホロのものと思われるこげ茶色の動物の毛。
手紙には、短く書かれていた。
「
疑う余地もなかった。
ロレンスは、手紙を封書ごとマールハイトに手渡すと、絞り出すように声を出した。
「私の連れていた
マールハイトの目が、これ以上ないほどに見開かれたのは言うまでもなかった。