第五幕 ④
ここの右上はメディオ商会に
そんなことを考えている間に、どこか遠くのほうで鐘の鳴る音がした。市場開放の鐘だ。これを合図に突入すると言っていたから、今頃
メディオ商会の子
問題はホロを見張る者達の数だ。
なぜなら、見張りの数が多ければ戦いは
そうなれば、ただでさえややこしい問題がさらにややこしくなる。なるべくそれは避けて欲しかった。
そんなことを思ってどれくらい待っていただろうか。初めのうちは冷静だったものの、気がつくと足元の水が音を立てるほどに震えていた。それがこれ以上ないほどに自分の不安を表しているようで、必死に足が震えるのを止めようとしたがうまくいかない。
何度か
そして、ロレンスは突然背筋が
まさか、場所を間違えたのでは。
「そ、んなまさか」
ロレンスがそう思ってここが行き止まりであることを確かめようとした瞬間だった。
「ラッヘ」
そんな声が真上から聞こえてきた。遅れてめきめきという
「ホロ!」
その顔を見てロレンスは思わず叫んでしまっていた。
しかし、ホロはそんなロレンスの声など聞こえなかったかのように顔を上げて、上にいる
「ぬしがどかんとわっちが下りられん」
今までどおりといえば今までどおりの様子のホロのそんな言葉だったが、ロレンスはその言葉を聞いて、自分がホロの喜ぶ顔と
ホロの言うとおりに穴の下から体をどけ、ホロが下りてくるのを待ったが、その時に胸にあったのはホロに会えた喜びより、そんな声が聞けなかった失望感だった。
もちろん、それは完全にロレンスの身勝手であるとわかっていたので何を言えるわけでもなかったが、地下道に下り立つとロレンスのことなど気にしていないかのように上から下ろされる荷物を受け取っているホロを見ると、ロレンスの胸の中のざわめきは大きくなるばかりだった。
「なにぼさっとしとる。これ、ぬしの分。ちゃっちゃと持って、奥へ」
「む、う、あ、ああ」
押し付けられるように荷物を受け取ると、押されるように通路の奥へと進んでいく。押し付けられた荷物がガチャリガチャリと音を立てる。押し込み
この次は突き当たりを右に曲がり、左手の壁に手を当て突き当たるまで前進だ。いったん地上に出て、そこに
誰も一言も口を聞かず地下道を歩き、やがて行き止まりに着いた。
ロレンスは言われていたとおりに備え付けの
手違いで待機できていなかったら別のルートだったな、と思う間もなく天井にぽっかりと穴が開く。もう、すぐそこは馬車の中だった。
「ピレオン」「ヌマイ」、というやり取りの後、ロレンスは馬車の中に
「うまくいっているようで──」
馬車の中にいた商会の者が
「商売には驚きがつきものです」
しかし、そう言って笑うとさっさと石
「まだもう一人中にいるが」
「いえ、彼は
恐ろしいほどの
目の前の、ホロの反応を別にしては。
「無事で、なによりだ」
詰まらずに言えたのは上出来だ。ただ、それだけで精一杯で、向かい側の席に座って首に巻いていた布を広げてフードのようにかぶっているホロにそれ以上何も言うことができなかった。
だから返事が帰ってきたのは、ホロがフードを
「無事でなにより、じゃと?」
「ああ」、と言おうとした返事は
まさか、無事ではなかったのか。
「わっちの名を言ってみろ」
しかし、ホロの言葉はそんなもので、ロレンスが心配していた
「ホロ……だろう」
「
ウグルルルル、と喉の奥から聞こえてきそうな
それとも、やはり口に出せないようなことをされたのだろうか。
「わっちがこれまで生きてきた中で、わっちに恥をかかせた者の名をわっちはすべて言うことができる。そこに新しい名前を付け加えんといかん。つまりぬしじゃ!」
やはり、そういう類のことをされたのだろうか。ロレンスはそう思ったが目の前のホロは
そのため無言の時間が続き、そのうちホロはロレンスが黙っていること自体に腹が立ってきたのか、座席から立ち上がると詰め寄ってきた。
わなわなと握りしめられている
逃げ場などない。すぐにホロがロレンスの目の前に立つ。