第五幕 ⑤
ちょうど顔の高さが同じせいで、ホロの視線がこれ以上ないほどにまっすぐロレンスの目を貫いてくる。ホロの小さい握り
長いまつげだ。そんなことをまた、頭のどこかで思った直後だった。
「わっちはぬしに言ったよな。ぬしが迎えに来てくりゃれと」
ロレンスはすぐにうなずく。
「わっちはな……わっちはてっっっっきりぬしが来たものだとばかり思って……うう……思い出すだけでも
その瞬間、ロレンスは夢から覚めたような気がした。
「ぬしも
「無事だったんだろう?」
最後まで言わせずロレンスがそう言うと、ホロは思い切り
それから、しばらくためらった後に苦いものを飲み下すようにうなずいた。
ホロは目隠しでもさせられていたのかもしれない。そこに助けに入ってきたミローネ商会の人間を、ロレンスと
ロレンスはそれが単純に
ロレンスは自分の胸倉を摑むホロの細い両
ホロはすねるように少しだけ抵抗したが、あっけなく力を抜いた。フードの上からでもわかるくらいにいきり立っていた
怒りにゆがんでいた顔が、すねたそれに変わっていく。
世界を
「無事でよかった」
ロレンスがそう言うと、ホロはつい数瞬前まで怒りに見開いていた目をゆっくりと伏せ、小さくうなずいた。ただ、口は少し
「ぬしがその麦を持っとる限りわっちは死にはせんがな」
ロレンスの手を振り払うこともなく、ホロはロレンスの服の胸ポケットを突いてそう言った。
「
ロレンスがホロの手を引っ張ると、ホロはゆっくりと身を寄せてきてロレンスの
それから、ホロがいたずらっぽく
「うふ。わっちは
ホロはロレンスから体を離すと、もういつものニヤニヤとした笑みを浮かべていたのだった。
「わっちに
そう言って笑うと
「ただの、例外がおった」
突然、ホロは笑みを消すと無表情になった。それが今までのものとは違う静かな怒りであると、なんとなくロレンスにはわかった。
「わっちを
「誰が、いたんだ?」
ホロがそれほど怒るような人物とは誰だろうか。昔の知り合いでもいたのだろうか。
ロレンスがそんなことを思っていると、ホロは鼻の頭にしわを寄せながら言ったのだった。
「ヤレイじゃ。知っとるじゃろう」
「ま」
さか、とは最後まで言えなかった。その瞬間、ロレンスは頭の中で別のことが
「そうか! メディオ商会の後ろにいるのはエーレンドット
これからいざ思うところを思う存分怒りのままにぶちまけようと準備していたらしいホロは、ロレンスのそんな叫び声にあっけにとられて目を点にしている。
「麦の大産地ならば麦の取引の際に好きな銀貨で代金を支払わせることができる。そのうえ麦に関する様々な関税の
ホロはきょとんとしたままそんなロレンスの様子を見ていたが、ロレンスはそんなホロをお構いなしに
「聞こえていましたか。今の話」
「ええ、聞こえました」
「メディオ商会の後ろについているのはエーレンドット伯爵です。伯爵領で麦の取引をしている商人が銀貨の大口回収先です。これをマールハイト氏に伝えてください」
「お安い御用で」
そう言って一人が早速馬車から降り、走っていった。
すでにトレニー城に交渉のための早馬が出ているだろうが、交渉が長引きそうであれば追加の条件を提示できる。メディオ商会が銀貨をどこから回収しようともくろんでいたかわかれば、ミローネ商会の
しかし、これをもっと早くに気がついていればホロはさらわれずに済んだかもしれない。そうすればもっとこの取引はスムーズにいっていたのだ。
それを思うと
「……話が見えん」
「説明すると長くなる。ただ、お前の情報から何もかもが見えたってことだ」
「ふうん」
ホロのことだから少し頭を
興味なさそうにうなずいて、目を閉じてしまった。
やはり、話の腰を折られたことが
ただ、そんなことですねる
話の腰を折られた
「いや、話の腰を折ったのは悪かった」
ただ、それだけは素直に謝った。
ホロはロレンスの言葉を聞くとちらりと左目を薄く開いて見やったが、「別に」と小さく言っただけだった。
ロレンスはそれでも
「ヤレイは本当なら収穫祭の儀式のために穀物庫に閉じこもってるはずなんだが、町にいるということはあいつも今回の取引に一枚
ホロは目を閉じて少し考えるふうにすると、間を空けて両目を開けた。いくらか
「わっちの名はあの若者、ゼーレンから聞いたようじゃ。ヤレイのやつ、村じゃ着ないような服を着て、実に
「メディオ商会に深く関わっているのか。それで、話したのか?」
「わずかばかりの」
そう言ってからついたため息は怒気を